無双すんなクソ勇者

ももも

第1話

「なあテセラ、この子がパーティに入りたいっていうんだけどよ」


 勇者であるアヤトの言葉に、私は頭を抱えた。


「また??今月に入って一体何度目なの?……それで、今回はなにしたの?」

「いや、何をしたとかじゃなくて、なんか仲間になりたいって言うから……」


 そう言って頭をかくアヤトの隣には確かに、つり目で長い金髪をひとまとめにした美少女が仁王立ちをしていた。最悪だ。私はそれだけで全てを察した。最悪だ。

 美少女はキッとアヤトを睨むと、いきなり力任せにアヤトの肩を殴りつけた。最高だ。


「いだっ!?何すんだよ」

「何すんだよ、じゃないでしょっ!べ、別に、あんたと一緒に居たいって訳じゃないんだからねっ!」


 何言ってんだコイツ?気でも狂ったのか?


「だっ、第一、あんたが私を仲間にしたそうだったから、話しかけただけよ!感謝しなさいよね!あんたのことなんか好きでもないんだから!」


 しかしそう言う少女の表情にはありありとアヤトに対する好意が見て取れて、私はあまりのその乖離に閉口する。

 これだから勇者であるこの男に、一人で外を歩かせたくはないのだ。ちょっと外を歩けばすぐこれだ。お使いに行ったはずなのになぜ別のものをお持ち帰りしてくるのか。

 少女はフン、と息をつくと、手を組んで見下ろすようにアヤトに目をやった。


「まあそんなに仲間になって欲しいなら、なってやらないことも…」

「お引き取りください」


 はあ?と少女は怪訝そうな顔つきで私の方を振り返る。


「なによあんた。なに偉そうに「お引き取りください」

「はあ!?」


 少女の目が文字通り吊り上がる。人でも殺しそうな眼光で睨んできたが、私は無表情のまま畳み掛けた。


「…アヤトのことが嫌いなんですよね…好きでもないんですよね?ならここに入る必要なんてなくないですか?あなたにとっても苦痛じゃないんですか、それってあなたが入る意味もメリットも何もないですよね。別に無理して入らなくて大丈夫ですよ」


 そうだよ、嫌いなんなら入らなくていいやんけ。

 あいにくツンデレ属性はもうウチ居るんだよ!帰れ!帰れ!実家に帰れ!


「うっ、うるさいわね!コイツが私を仲間にしたそうだったから、話しかけてやっただけよ!」

「そうなの、アヤト?」


 私がちらりと目を配すると、アヤトは気まずそうに目を逸らした。


「エッ、いや…そう言うわけじゃ…」

「なによ!この嘘つき、裏切り者!!馬鹿、最低、女たらし!!」


 そっけなくアヤトに、少女が涙目で絶叫する。腰を構えると、強烈なパンチをお見舞いした。


「あいたぁっ!?」

「この私を捨てた事、絶対許さないんだからね!誰よりも良い女になって、あんたに後悔させてやるんだから〜っ!!あの時私を拾っておけばよかったって!覚えてなさいよーーーっ!」

「ええ……」


 そのまま走り去る少女の背中を見送りながら、私は頰をさするアヤトに向かって長いため息をついた。


「ねえ…今月で何人目?」


 私の若干責めるような口調に、アヤトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「いや…別に仲間に勧誘したとかじゃなくてさ。ただ本当に道端を歩いてたらさ、あの女の子がずっと物欲しそうにりんごを見つめてて…だからたくさん買ってあげただけなんだ…そしたらあの女の子が急に、私を仲間にしたいからこんなことするんでしょとか言いだして」

「ねえ、今月で何人目?」

「う…12人目です」


 そう、これが一回目では無い。なぜかこの勇者アヤト、おかしいほどに人を惹きつけるのだ。

 この前は青髪の幼女、その前はツンデレ弓使い、そのまた前の前は黒髪のツンデレ女剣士、前の前の前はドジっ子プリースト、挙句にそれの前はツンツン短髪魔女、またまたその前はおっとり系亜人…と実に多彩なレパートリーの少女が、いきなり仲間にしてほしいと申し込んできたのだ。ツンデレって最先端の流行個性なのかな。

 それも、ほんの些細な行動できっかけが生まれ、偶然前を通りかかった女性が、隣り合った少女が、顔を合わせた幼女が、仲間に入りたいと迫ってくるのだ。

 そう。

 顔も飛び抜けて良い訳ではなく、大した風格も兼ね備えてはいないのに、なぜかウチの最高戦力の勇者様は、おかしいほどに女性を引き寄せる。些細な行動を起こすだけで、撒き餌をしたかのようにわらわらと女が群がってくるのだ。

 この前など、私がちょっと目を離したすきに、10人の美女に囲まれ求婚されていた。意味がわからない。「私が結婚するのよ!」「いや、私よ!」「アヤト様ぁ〜」と美女にわやくちゃにされるアヤトを魔法で輪の中心からマグロのごとく一本釣りし、無表情で威圧し理由を追及すると、よほど堪えたらしく、アヤトは滅多に見せない怯えの色を浮かべて私にしがみついてきた。


「それがなんかさ…なんか道を歩いていたら、あの子達が屈強な男のグループにさらわれそうになっていたから、それを助けたらさ。『私の国では自分を悪から助けてくれた男と結婚する風習あるヨ。これも何かの定めだヨ』って彼女らが言ってきて、すごい剣幕で迫ってきて……めちゃ怖かった……」

 そう言って、珍しく疲弊しきった顔で溜息を吐くアヤトに、これ以上責める気を失くし、私もまた長い息を吐き出す。

 こういうところである。

 何か一つ行動を起こせば、偶然と偶然が積み重なりまくって、とんでもないことを生み出すのだ。

 で、気がついたら雪だるま式に美少女の仲間が増えていくと。

 もはやお馴染みとなってしまった光景に嘆息しながら、私はアヤトに指を突きつける。


「いい?これにこりたなら今度から言われたことだけをしてよね」

「分かった…」


 ーーーしかし、その約束はわずか10分後に破られることとなってしまうのだった。

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