#9 part5
「何かめっちゃCM長かった気がする!!」
「ん? 何言ってんの武留」
「いやいや黒鵜座先輩気づいてへんの!? 多分これかなり放置されてたパターンやろ!」
「CMがちょっと長かっただけでしょ、そんな怒らなくても。多少シャワーの時間が長かったとかでも誰も気にしな……え、気にする? あっそ、知るかそんなの」
「どういう情緒してんねん……」
吐き捨てるようなセリフやめんか―――。武留が両腕を組んで天(井)を仰ぐ。彼の口からため息がこぼれた。
「はい、というわけで。終わったと思いました? 残念! 続くんだなこれが! リスナーの皆様もう少しお付き合いいただけますかねいただけますねよっしゃやるぞ武留!」
「せめて相手が答える余地ぐらい残せや! 嘘やろ俺もボケたいのに入る余地が無いんやけど!」
「んで何の話してたっけ」
「忘れとるやないかい! 俺がどうやったら打てるかっちゅう話やろ!」
「あーそうだっけ。……何でそんな話を?」
「いや俺に聞かれましても」
「まぁあれだよ。なるようになるって。あ、そうだ。今の内にヒーローインタビューの練習しとくか。出来る自分をイメージしておくのも大事でしょ」
「それって要するに捕らぬ狸の皮算用ってやつでは……」
―――というかこれ漫才とかコントの導入みたいじゃないの。武留は訝しんだ。
「放送席、放送席! ヒーローインタビューのお時間です!」
「あ、もう始まっとるんや」
「それでは登場していただきましょう。本日のヒーロー、ブル選手です!」
「武留たけるや! そこ間違えちゃあかんやろ! いやまぁ確かに初見だと3割くらい間違えられるけども! やり直し!」
「本日のヒーロー、武留選手です!」
「いやーどうもどうも」
「今日は三打数無安打三打席連続三球三振という大活躍でしたね!」
「負のトリプルスリー! 活躍させてくださいよ想像の話くらい!」
「注文が多いなぁ。分かったよ。今日のホームラン、お見事でした」
「ありがとうございます」
「その心境はどんな感じだったのでしょうか」
「そうですね……最初は入るかと思ってなかったので。風に乗ってくれて助かりました」
「あ、いやそうじゃなくて」
「いやそれ以外に何があるんですか」
「打たれた時のピッチャーの心境を答えてください」
「国語の問題か! 知るかんなもん!」
「ちなみにこの問題の得点配分は八割です」
「たっか! ていうか得点配分ってなんやねん! 完全に国語の問題になっとるやんけ! 『この時の作者の心境を答えなさい』とか苦手やったわー、ちゃうねん! っていうかそこまで言われると他の二割が気になるわ!」
「正解は『馬鹿なぁ! この黒鵜座がこんな雑魚なんぞにぃ!』です」
「打たれたのアンタかい! っていうか思考が三下のそれじゃん!」
「はい、それはさておき」
「ほんで話題の拾い方が雑やねん。腹立つわー、なんなんこのインタビュアー」
「えー守備でもファインプレーが光りましたね。地面すれすれのボールをダイビングキャッチ。チームの危機を救いました」
「あ、はい。そうですね……あの時はがむしゃらでしたね。もう何が何でもボールを取ってやろうと思っていたので。とにかく取れて良かったです」
「その結果地面に擦ってユニフォームと顔が大変な事になっておりますが」
「何が起こったん!? つーかどんなシチュエーション!?」
「ははは、なんか芸術的」
「いや何わろとんねん。ユニフォームはともかく顔は生まれつきや!」
「そのせいで僕が登板することになったんですがそこのところどう思います?」
「とりあえずインタビュアーをクビになったらええと思います」
「では最後にファンに一言お願いします」
「えー、来てくださったファンの方。ありがとうございます! 今後も頑張っていきますので、是非とも球場に足を運んでいただければ……」
「長い」
「え」
「長いよそれじゃ。お客さんが早く帰れるようにそこは巻きでいかないと」
「あぁ、はい。じゃあ『明日も勝つ!』とかですか?」
「それを実際にやって連敗したチームがどれだけあることか……」
「えぇ。じゃあ何が良いっていうんですか」
「いやそれはこうやって」
そう言って黒鵜座は両手でピースサインを作ってそれをくっつけて見せる。
「ヴィクトリー!」
「いやVが二つくっついたらWやん。それはもう別物やん」
「はいというわけでありがとうございました武留選手。……あ、これマイク故障してる? あれ、あれれ? おっかしーなー……」
「(マイクの電源が)入ってねぇんだよこの野郎。もうええわ」
「「ありがとうございました~」」
武留は頭を下げながら思う。途中からノッてたけど、これもう漫才とかコントだよね。というかお客さんがいないところでやってるからウケてるかどうかも分からないんだけど。
「いや~あったまってきましたね」
「投手なら観客じゃなくて肩あっためるべきちゃうん? っていうか今の時間なんやったん?」
「あ、なんか上手い事言おうとしてる。まぁ誤解の無いように言っておくと、あんまりここで専門的な話をしても視聴者からすれば盛り上がらないだろうし。ここで明確に弱点を晒されて打てなくなるのも問題でしょ」
「うぐっ、そりゃまぁその通りですけども……」
「あ、でも今の時点でそもそも打ててないからどっちでも意味ないか」
「やっかましいわ。結局それかい。でもそうなんよな~、打撃で進歩しないと一生このままぱっとしない立場のまま終わりそうやし」
「補足すると打撃に関しては光るものがないわけでもないから。映像は……ここでは出せないけど多分動画サイトに公式のが残ってるからそれを見てもらうのがいいですね、うん」
「?」
「えーっと去年の7月、神宮で打った第二号ホームランですね。結構内角厳しめに来たボールだったんですが、腕をたたんでライトポール際へ運んでいきました。僕は打者じゃないので的を射た指摘はできませんけどもね、力が抜けてないんですよ。それで回転を活かして上手く飛ばしてますから入るんですよね。球場が広いこの球場じゃ入らないかもしれないですけど、充分にパンチ力はあるって事です」
「せ、先輩……!」
「伊達にチームメイトやってないからね。ちゃんと見てんのよ僕も」
どうだと言わんばかりに黒鵜座が鼻を鳴らす。この男、好プレーにはしっかりと目を通す派である。対戦する予定のないチームメイトも例外とはならない。勿論試合でデータを活用するためでもあるが、本質は別のところにある。その理由は至ってシンプル、見ていて飽きないからである。
「……何かそこまで早口で言われると正直なとこキモい」
「しばくぞお前。まぁこの通りバカなのが欠点だけど、今後順調に進歩すれば芽が出ると思われるくらいには腐っても元トッププロスペクト。サインとかもらっておくなら今の内だと思いますよ」
「先着1000名でーす!」
「心配しなくてもそんなに来ないから安心しろ。えー、はい。そんな事を言っている内にそろそろお別れの時間ですね。次回のゲストは……えーっと3試合挟むので誰になるんでしょうかね。一度出たゲストかもしれませんし、そうでないかもしれません。それでは次のホーム戦で会いましょう!」
「さいなら~!」
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