#4 part4
「1点取ったよブルーバーズ! これで3点差ですね! これは先発の海原もある程度楽に投げられるんじゃないでしょうか、というわけでブルペンラジオの続き、やってまいりましょう! えー今度は僕が引く番ですね。じゃあ……これですね。ペンネーム『まつもと』さんから。これは字からして……ひょっとすると小学生かな? 『黒うざ選手、カイル選手こんばんは』、はいどうもこんばんは! 『僕はお父さんやお母さんによく夢を持つように、と言われます。だけど、夢ってどんなものなのか正直よく分かりません。なので二人の夢を教えてください』、だそうです。はー、なるほど最近の子供ってのも案外大変なものなんですねぇ。僕の場合なんかは親が良い意味で好きに生きろって感じだったんでそこまできつくは無かったです。教育に悪い事言うなって親御さんは思うかもしれないですけど、子供って意外と多感なんですよ。だからそうやってリードを繋がなくても生きていけると思いますよ。はい、とそんな無責任な事を言ったところで本題に入りましょうか。そんな屁理屈をこねるのも悪い大人ですからね。じゃあホークさん、KKに聞いてみてください」
「~~~」
「~~~」
「~~~」
「~~~」
お、今度はホークさんが頷いている。何か羨ましく思えてきたな。こういう間に入れないのは何だかもどかしい。例えるならそう、二人が共通の話題で盛り上がっているのに自分だけ知らないから入れない、的な。あ、会話が終わったらしい。
「ワタシはですね、二つ目標を立てまス。小さなターゲットと、大きなターゲットですね。あえてこれを二つ作っておくことでモチベーションをキープしているわけなんです」
「あ、そうなんですね。KKの強さの秘訣はそんなところに……丁度いいや、大した目標とかないしパクろ、じゃなくて参考にさせてもらお」
「まず小さなターゲットですが、日本でリリーフとして活躍して『最優秀中継ぎ賞』を取ることデスネ」
「え、大きくない? 大きいよねその目標は。っていうかKKは最初先発として日本に来たから、てっきり目標に挙げるとしても最多勝とか最優秀防御率とかだと思ってたけど。そこのところどうなの?」
「~~~」
「~~~」
今度はKKが首を横に振る。という事はもしかして今はあんまり気持ちが先発に向いていないという事なのだろうか?
「ターゲットはこれくらい大きくないと意味がありまセン。むしろ二ホンの皆さんは謙虚すぎです。夢を持っていないといい結果もついて来ませんから。それに、二ホンに来てからワタシ気が付きました。ワタシはどちらかというとリリーフ向きみたいです。1イニングを投げる事に全力を尽くした方が性に合ってるんだと思います」
「あー、じゃあやっぱり先発よりもリリーフでタイトル獲得を目指すと」
「けれど、メジャーリーグでのリリーフの評価低い。クローザーにならないとあんまりマネーもらえない」
日本でもそうだが、メジャーリーグでのリリーフに対する評価の低さは特に顕著だ。抑えられるならそもそも先発やクローザーをやらされることが多いし、入れ替わりが日本よりも激しい分登板数もかさむことは無い。だからあまり中継ぎは他のポジションに比べて給料を多くもらえないのだ。けれど日本には最優秀中継ぎという分かりやすい賞がある。取るのは難しいかもしれないが、その分箔がつくというものだ。
「なるほど、だからKKは投げたがりなんですね。いつも投げようとする理由がちょっとだけ分かった気がします。あ、それでそれで、大きな目標は?」
「~~~」
「~~~」
「それはやっぱり、メジャーのマウンドに立つことですね。もうワタシの年齢は30を超えましたが、それでも夢を捨てきれないというか。子供の頃からずっと夢だったんです。多くのサポーターに見守られながら打者を見下ろす景色はどんなものなんだろうって思いながら生きてきました。だからワタシは、あのマウンドに立てるまで野球を続けると思いまス」
「いや~、立派ですね。万雷の拍手で称えたいほど立派な志だと思います。子供の頃に憧れてたものというのは大人になっても頭の中から引っ付いて離れないと言いますが本当なんですね。『まつもと』さん、こういうのですよ。今は分からなくてもいいです、だけど色々経験してみてください。もしかしたらその中で雷に打たれるほどショックを受けるものに出会えるかもしれません。それがきっと自分の夢になるんじゃないかと思います。まぁ僕もピッチャーというポジションに憧れた一人ですから」
「~~~」
「~~~」
「なんかイイ感じで締めようとしてるけど、ハジメの夢をまだ聞いてないネ!」
「え~、KKの夢に比べればちっぽけと言うか、多分視聴者も拍子抜けしますよ?」
そういって黒鵜座はちらりとKKの方を見て確認するが、彼は依然目を輝かせたままだ。なるほど、言えという事か。こうなってしまったら言うしかないよなぁ。ため息をついて、黒鵜座は話し始める。
「……言っても笑わないですよね?」
「ヒトの夢は笑わなイヨ! そういうことはしないのがポリシーだからね!」
「はぁ~、仕方ないですねぇ。まぁKKの言う小さなターゲット、大きなターゲットに分けて話していきましょうか。まずは小さなターゲットからですね。これはシンプルに行きましょう。胴上げ投手になりたいです。いや本当は去年そうなりたかったんだけど、去年はマジック1の状態で2位が負けての優勝だったんで胴上げされなかったんですよね。だから今年こそは、という思いです。まぁ僕一人が出来る事なんてたかが知れているので皆さんにも頑張っていただきたいところですけども」
「~~~」
「~~~」
「ハジメならなれるよ! だそうデス」
「まぁウチはただでさえ接戦が多いチームなんで登板機会とかは心配してないよ。逆に投げすぎになるんじゃないかって話だけど。えーっとそれで大きなターゲットですね。これは平凡な願いなんですけど、出来るだけ長く投げ続けたいです。怪我や実力不足でチームを離れる人も多い中、怪我せずにっていうのは無理だとは思いますけどやっぱり一番長くマウンドに立てる人間でありたいですね。だからメジャーリーグでプレーして短い間で大金を稼ぐよりも息の長く、言い方は悪いですけどセコセコと地道に貯金を積み重ねていきたいと思ってます」
「~~~」
「~~~」
「それもそれでいい人生だと思うよ! でももっとでっかく野望を持ってもバチは当たらないね! との事です」
「うっせーわ、これが僕の人生なんですー」
「おい、KK。そろそろ準備すんぞー」
後ろから仲次コーチの声がする。確かにそろそろ状況としてはセットアッパーが登板する機会が近づいている。じきに黒鵜座が呼ばれるのであろう事も容易に想定できた。
「OK、boss! じゃあハジメ、先行ってるヨ!」
「俺はボスじゃねーっての……」
そう呟きながら仲次コーチがKKと共に歩いて行く。静寂の中に一人、ぽつんと黒鵜座が残された。
「えー、KKが行ってしまいましたが番組はもう少し続きます! なのでお楽しみに!」
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