#2 part1

「いやだからもう渋っても遅いって……、ってん!? もうカメラ回ってる!? そういうのは早く言ってよ! ……えーごほん、皆さんごきげんよう。ブルペン放送局、第二回の始まりでございます。まぁ最初ちょっと荒れていたのは許してください。生放送にありがちな放送事故ってやつです。えー昨日に第一回を放送したわけですけども、結構その反響と言いますか、結構色んな方からお声をいただきましてね。まぁそれ自体は嬉しい事なわけなんですけども、一番多かったのが『黒鵜座選手ってそんなに喋るんですね』っていう感想ですよ。いや皆さん僕のことどう思っていたんですかね、そりゃあ試合になったら集中もしますし静かになりますよ。まぁいいや、これもある意味ギャップという事で。皆さん、萌えてください。え、男だから無理って? うるせぇ萌え萌えビームぶつけんぞ。さて、前回と同様に前口上が過ぎました。今回のゲストを紹介しましょう。天然がウリの経験豊富なベテランリリーフ! 正に縁の下の力持ちというべき選手! 芝崎怜司しばさきれいじ選手です! はい拍手!」




「どうもー」




 拍手の中、芝崎がカメラに映る。しかしそれだけでは飽き足らずそのまま彼はフェードアウトしていく。それに目を丸くした黒鵜座が立ち上がって芝崎の背中を引きずり何とか元の場所に復帰させた。




「って違う違う! 何一般人みたいに通り過ぎようとしてんすか! さっきも言いましたけど今日のゲストは芝崎さんって決まってるんですからしっかりして下さい!」




「さっき言ったろう、俺はそもそもこの企画に賛同してない」




「いやこの前話をしてた時はうなずいてましたよね」




「……そんな話をしたか?」




「したじゃないですか。え、もしかして忘れてたんですか? ほら、最後のオープン戦の時僕この話をしたと思うんですけど。その時は何度も頷いてくれたじゃないですか」




「あぁ、あの時か。寝てたから覚えてない」




 あんまりにも堂々と言うものだから、思わず黒鵜座も一瞬呆気にとられて何も言えなかった。間が空いたのち、意識を取り戻した黒鵜座が大きく響く声でリアクションした。




「寝・て・たァ!? かなり苦しいですよその言い訳は! ……え、マジ? マジで寝てたの? あの時普通に試合中でしたけど」




「本当だ。俺が嘘をつくと思うか?」




 至って冷静に芝崎がダンディな声で話を進める。いや、そんな格好よく堂々としていても言っているのは試合中に居眠りしていたという衝撃の事実だからね? 後で懲罰調整されても知らないですよ? 黒鵜座は遠い目で芝崎から生えたあごひげを見つめていた。




「そんなキメ顔しても寝てた事実は変わりませんからね? まぁいいです、寝てた罰だと思って甘んじて受け入れてください」




「……納得はいかんが、仕方ない。これもファンのためだ」




「そんな、アタシの為だったらやらないっていうの!? 酷い! アタシと野球どっちが大事なの!?」




 黒鵜座のオカマ口調に対しても芝崎は動じない。じっと黒鵜座の方を見ている。いや、見ているというかこれは……見透かしている!? 僕の後ろに何かいるんですかね!?




「何だその喋り方。いいから早い所話を進めるぞ」




「ちぇっ、禄郎ならもうちょっといい反応してましたよ。まぁいいや。とりあえず今回もお便りを呼んで行きましょうか。じゃあはいコレ、選んでください。お便りボックスです」




そう言って黒鵜座が出した白い箱の中に芝崎は手を突っ込む。しばらく中身をかき混ぜてから一通のはがきを取り出した。




「これを読めばいいのか?」




「はい、ではお願いします」




「……えー、田中……」




「違うそこじゃない! 本名呼んじゃだめだから! ほらペンネームあるでしょ!」




「あ、これか。ペンネーム『幸せの青い鳥』さんから。『黒鵜座選手、芝崎選手こんにちは』」




「うぃーす、こんにちはー!」




「『私は現在草野球で投手をやっています。そこで質問なのですが、お二人が投手を始めたきっかけを教えていただけないでしょうか』……だってさ黒鵜座」




 黒鵜座は少し考える仕草を見せながら、こう思った。多分先に芝崎が投手を始めた理由を話した方がウケるんじゃないかと。だから自分はまだ思いつかないふりをして、先に芝崎に話させようとした。




「うーん……先に芝崎さん言ってもらえます?」




「……俺か? 俺の場合はそりゃ楽だったからかな」




「おっと、今野球をやっている全方位に喧嘩を売るような発言が聞こえましたけど。まぁ話は最後まで聞きましょうか」




 場合にとってはとんでもない爆弾発言だ。この人は試合中に寝てた事といい今の爆弾発言と言いこれが放送されているという危機感が無いのか?




「俺が投手を始めたのは高校2年の時の話だ。投手の頭数が足りないから、なんて理由で監督に勧められた。それからの練習は楽だった。基本的に走る事以外は投げるだけでいいからな。打つことなんてほとんど考えなくていいし楽だった。幸い俺は大学に入ってから目立った成績を残せるようになって、こうしてプロにいるわけだが」




「高校野球って投手も打席に立ちますよね。そこんところ大丈夫だったんですか」




「監督には『とにかく投げる事に集中しろ』と言われていたから、打席では何も考えなかったな。それでも打てたし」




「はぁ~、これだから才能マンは嫌ですよねぇ」




「で、お前は?」




「僕はですねぇ、野球というスポーツにおいて投手程強いポジションはないと思ったので。ほら野球って三割打てれば万々歳じゃないですか。ということは、ということはですよ? 悪くても七割の確率で投手が勝つんです。それってもうほとんど投手有利ですよね。うぇーい野手の皆さん見ってる~!? 野球は投手のスポーツですよ~!?」




「お前もお前で大概野手に喧嘩を売っていないか?」




「これは愛のある煽りなんでセーフです! それでもまぁ打たれる時は打たれるんでそこは割り切りが必要になりますね。あ、そろそろCM入るそうです。いきなり波乱というか放送事故みたいな開幕を迎えましたが番組はまだまだ続きます!」

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