#1 part1

「……さぁやってまいりました、開幕戦!という事はつまり、この番組『ブルペン放送局』の始まりというわけでございます!テレビをご覧の皆さん、ラジオをお聞きの皆さんこんばんわ、司会兼ブルーバーズのクローザーを務めております黒鵜座一くろうざはじめです。いやー待ってました、待ちかねましたこの時を! 僕はね、ずっと夢に持ってたんですよ、こうやって自分が司会の番組を持つのが! まぁ自分が立ってるのはひな壇じゃなくてブルペンですけど! ってやっかましいわ! ……ゲフンゲフン、えー、ってなわけでやってまいりましたけどもね。まずは栄えある初回のゲストからご紹介しましょう。我らがブルーバーズが誇るサブマリン!火消しはもうお手の物!へり下った投法から打者を仕留める若手リリーバー、石清水禄郎いわしみずろくろう君です!」




「……ど、どうも。ねぇ先輩! その紹介でどんな顔して出てくればいいんですか!ちょっと、というかかなり恥ずかしいんですけど!」




「ほらほら、そんな事言わずにさぁ禄郎。カメラはこっち! はい、とびっきりの笑顔!」




「えぇっ!? えっと、こ……こうっ!?」




 青いショートヘアーに黒縁の眼鏡をかけた青年、石清水禄郎がカメラに向かってぎこちない笑みを見せる。禄郎は若いしルックスもいい方で、今はやりの草食系男子というやつだ。女性人気もそこそこある。この顔をテレビで見る事が出来ているファンにとっては僥倖だろう。ラジオで聞いている人にとっては残念なことだろうが。それにしたって作り笑いが過ぎるその笑顔に、黒鵜座は思わず吹き出しそうになった。




「ぷふっ……お前、お前その顔最高! 放送中ずっとその顔でいてくれる?」




「やれっていったの先輩ですよね!? っていうか記念すべき第一回の放送がこれって大丈夫なんですか!」




「まぁ大丈夫でしょ。よほど変な事言わなけりゃ打ち切りはないってさ」




「というか僕なんかが第一回ゲストで本当にいいんでしょうか……地味だし、あまり話も上手い方ではないし、それに、ブツブツブツ……」




 出た。禄郎の十八番。考え込みすぎる悪癖が顔を出した。禄郎は割と結構なペースで考え込んでしまう事が多い。言ってしまえば、根が真面目すぎるのだ。もう少し何とかなると思っていれば色々と楽なのに。損の多い性格だと改めて思わされる。でも今は生放送中だ。番組の説明をしないといけない。




「禄郎が恒例のネガティブタイムに入った所で話を進めましょうか。あー、そうですね。んじゃまぁこの番組の説明から始めましょう。この番組はですね、試合開始からブルペンの様子を中継で伝え、プロの中継ぎが普段どんな様子で過ごしているのか。それを皆さんにも知ってもらおうというね、番組なわけなんですけども。大体中継が終わるのは9時になるか、僕がブルペンで投球練習に入るまで、まぁ大体8回くらいまでになるんですかね。まぁ結構時間あるんで、のんびりやっていきましょう。とういわけで、ヘイ禄郎! カムバック!」




 完全に自分の世界に入りきっている禄郎を揺さぶって現実に引き戻す。もともと禄郎がネガティブなのは把握しているが、こうなると揺さぶるか登板するまで戻ってこないので結構面倒くさい。




「あばばばば……、ハッ!? 自分、何か変な事言ってましたか!?」




「大丈夫大丈夫、放送コードには抵触しない範囲だったから」




「ってことは何か口走ってたんですか!? うわぁ最悪だ……家族も見るって言ってたのに……!」




「冗談だよ、だから早く戻ってこい」




 このまま禄郎をいじり倒してやるのも一興だが、それでは視聴率は上がらない。話を進めよう。




「早速ですが、お便りが来ております。いやー、これが結構寄せられているんですよね。まだ放送していないのにありがたいことですよ本当に。それじゃあ早速読んでみましょうか。えーと、じゃあまず一通目。ペンネーム、『青鳥軍団』さんから。『こんな事してないで練習しろ』……あっ、ふーん。そう来たか。禄郎、これ破り捨てていい?」




「何でOKが出ると思ってるんですか、ダメでしょ現実的に考えて……」




「というかそもそも何故これを通した撮影陣!」




 撮影しているスタッフたちから笑いが起こる。いや、はははじゃないんだが?いきなり初回から放送事故になる所だったぞ貴様ら。




「……んまぁ一応お便りを送ってくれたわけですし、真面目に答えましょうか。プロって球団によっては練習量がまちまちだとは思うんですけど、うちってその中でも結構厳しい方なんですよね。常勝軍団って呼ばれてるだけあって、その分ふるいにかけられる人もいるわけでして。その中でずっと生き残り続けるっていうのは中々難しいことなんですよ。と、いうわけで我々も結構頑張ってますって言いたいんですけど、これじゃ不十分かな?」




「十分ではあるとは思いますけど、それじゃ納得しないファンもいるかもしれないですね」




「うん、でもまぁ相手もプロだしこっちも人間なんで。調子の良い悪いもありますし、相手の方が一枚上手をいくことだってあります。相手を全員打ち取れれば最高なんですけど、どうしてもそうはいかない時はやっぱりありますからね。こればっかりは仕方のない事ですよ。それでも僕のピッチングが不満なら、この番組まで送ってきて下さい。まぁ次回来たら破っちゃうかもしれないですけど。あ、僕にならいいですけど他の投手の方への批判は抑えて欲しいです。ピッチャーって生き物はどうしてもこう、繊細なものでね。心持ち一つで悪化しちゃう事もあるんで」




「確かに、僕に対して批判の手紙が届いてきたら、結構凹むかもしれないです」




「禄郎の場合は極端なんでいいとして」




「いや良くはないんですけど」




「まぁ僕はメンタルが強い方なんでいいですけど、そういう批判が来るのが怖いって人もいますよね。そういう場合は一旦周りからの情報を絶ってみるっていうのも一つの手ですよ。人を傷つけるためだけに生み出された言葉なんて、百害あって一利なしですからね。いちいちそんなものに付き合っていると疲れちゃいますから」




「……おお、普段ちゃらんぽらんな黒鵜座先輩がまともな事言ってる」




「禄郎は僕の事なんだと思ってるの?」




「そりゃあ性格の悪い遊び人って感じですけど」




「酷くなーい? あ、そろそろCMの時間らしいですね。では続きはコマーシャルの後で! 番組はまだまだ続きますよ!」

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