間章04 恋バナ③

 久遠とひよりから責められ、Setoからも見捨てられて完全に悪者になってしまった。まぁ俺も若干負い目はあるから強く言い返せないし…。


「もうそれ実質彼女いたことないのと一緒じゃない?」

「まぁそうなのかもなぁ。実際、俺の中で恋愛の優先順位がFPSより上に来ないからさぁ。今ももうTBが仕事になってるから猶更ってとこあるし」

「Setoみたいに上手くやればいいんじゃないの?」

「それは相手の理解もあってこそじゃない?」

「僕はSetoも相手のことを大切にしてるから5年も続いてるんだと思うよ?」

「久遠お前いいやつだなぁ。もっと褒めていいぞ」


 Setoが調子づいてるけど確かに久遠の言う通りか。別れてもそっかくらいにしか思わなかったし、そもそも付き合わなかった方が良かったんだろうな。


「まぁそんな感じだから、俺は大した恋愛は全くしてないよ。TBが恋人みたいなもんだ。んじゃ俺飯食ってくるよ」


 軽く凹んだのもあって俺は通話を抜けた。一つ大きくため息をつき、終わったことだと切り替えてカップ麺に注ぐためのお湯を沸かし始めた。



楠 日和視点


「お前らがキツく言うからH4Y4T0凹んじまったよ」

「う…たしかにちょっと言い過ぎたかも」

「僕もだよ。悪いことしちゃったなぁ」


 H4Y4T0が通話を抜けてすぐ、Setoが可笑しそうに言うけど内心言い過ぎたと思ってたあたしはしゅんとしてしまう。どうやら久遠もみたい。


「まぁ戻ってきたら忘れてるだろうけどよ。んじゃ俺も一旦抜けるわ」


 Setoも通話を抜けて久遠と2人きり。なんとも気まずい空気だけど…。


「あとでH4Y4T0に謝ろっか」

「そうだね。僕も一緒にいい?」

「うん、2人のほうがいいよね」


 つい恋バナとなるとがっついちゃうんだよなぁ。H4Y4T0のそういう話って聞いたことなかったから興味あったし。


「一緒に謝るとして、ひより」

「ん?」

「貸し1だからね?」

「な、何のことやら」

「ふ~ん」

「な、何よ」


 何やら意味深な様子の久遠にたじろいでしまう。何とか平静を装ったつもりだけど…。


「まぁいいけど。僕の思い違いならそれで。僕にとっては好都合だし」

「…どういう意味?」

「分かってるくせに。こーいうところは意気地なしなんだね、ひよりって」

「うっ…」

「ここじゃ話しにくいね。いつ2人が戻ってくるか分からないし」


 そう言って久遠は通話を抜け、あたしのアカウントに個人で通話をかけてきた。


「で、僕の思い違いだったのかな?」

「…違わない」


 久遠は気づいてる。あたしの気持ちに。しらばっくれても別によかったけど、そうしちゃいけないような気がした。


「いつから?」

「いつ…う~ん難しいなぁ。いつの間にかだね。教えてもらったり、助けてもらうなかで気づいたら惹かれてた。そういう久遠は?」

「多分あの時かな。H4Y4T0が僕を助けるって言ってくれた時」

「だよねぇ~」


 そりゃそうだよね。弱ってるときにあんな風に優しくされたら無理だよ。あたしも久遠も一番辛いときに助けられた。もちろんSetoも助けてくれたんだけど、H4Y4T0は優しい言葉をたくさんかけてくれるから…。


 久遠がH4Y4T0のこと気になってるっていうか好きなんだろうなってのは薄々感じてた。多分あたしも久遠に気づかれたってことは隠しきれてなかったってことだよね。


「貸し1ってのは分かってくれたかな?」

「分かったわよ。それにしてもびっくりするぐらい自然に流れ変えてたよね」

「そういうのは得意だからね。それにしても、聞いてみて良かったというかなんというか」

「ね、H4Y4T0らしいけど」

「僕らもライバルにはなるんだろうけど、一番のライバルがTBってどういうことさ」

「ほんとそれ。勝てる気しないんだけど」

「あははは」


 まさかゲームが一番の恋敵になるなんてなぁ。でも、あたしや久遠をH4Y4T0と引き合わせてくれたのがTBだし、そうなっちゃうのも仕方ないのかもしれない。


「お互い苦労するねぇ」

「ほんとにね。ねぇ、あたしってそんなに分かりやすいかな?」

「いや? 別にそんなことないんじゃない? むしろすごくいい距離感を保ってるって思うよ。ちなみに僕はどう?」

「おんなじかなぁ。特に違和感とかぐいぐい行ってるとかはないし。お互い意識してるから気づきやすいだけなんだと思う」


 実際Setoは気づいてる様子ないしね。H4Y4TOもIGLとしてチームの雰囲気とかよく見てるから特別鈍感ってわけでもないだろうし。


「で、僕からひよりに提案なんだけど」

「なに?」

「ひとまず、大会が終わるまではお互い大人しくしとかない?」

「賛成。あたしもそう言おうと思ってた」

「抜け駆けはなしだよ?」

「そっちこそ」


 H4Y4T0はプロリーグが終わるまで絶対集中したいはず。あたしだって勝ちたいし。私情を挟んで今までの苦労を台無しにするなんて有り得ない。だからこそ、ひとまず休戦というか練習に今まで通り集中しようというのは願ってもないことだった。


 そのあと、休憩を終わって戻ってきたH4Y4T0にさっきは言い過ぎてごめんと2人で謝った。H4Y4T0は思ってたとおり全然気にしてなかったし切り替えも済んでたみたい。好きな人と同じ目標に向かって頑張れる。今のあたしにはこれで十分だった。

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