第2章50 第4ゲーム

 やがて、3人とのミーティングを終えて久遠が通話に戻ってきた。


「どうだった?」

「うん、とにかく慌てないように言い聞かせたよ。1位にならなくていい、10位になればいいんだから、いつもどおり自分たちの練習どおりにって」

「うん、それでいいね」


 3戦終了時点で10位は20ポイント。14ポイント差だから全然射程圏内だ。慌ててどこかに被せたりムーブを変える必要は全くない。


 ランドマーク争いで負けてしまい、さらに第1ゲームでも初動で被って落ちてしまったことで出だしで躓いた格好になった。


 さらに続く2試合は安地が3人のランドマークの反対側に寄ったことで強い建物は先に取られてしまい、こじ開けようと頑張ったけど早めに落ちてしまった。


「慌ててたか?」

「いや、むしろすごく落ち着いてて驚いたよ。僕が言わなくても3人で次も練習どおりにって話してた。僕はあくまでそれを追認する感じで話してたよ」

「追い込まれて逆に冷静になれたのかもな。まぁ浮足だってないならいいさ」

「あ、始まるよ」


 画面が切り替わって3人が飛行船から飛び降りる。このラウンドで3人が降り立つのはマップ北端にある港だ。シンドバッドが旅に出るときに出港するという設定らしい。


「とにかく最初の収縮が終わるまでは物資を集めて、次の安地が表示されてから一気にダッシュだね」

「こればっかりは運だからなぁ」

「お願い…」


 今回のランドマークには安地を先読みできるギミックがない。多少遅れるけど収縮円を見てから一気に読んで移動するしかない。俺は画面を切り替えて神視点のマップ画面を表示した。


「…最悪だね」


 久遠が呻くように呟く。示されたのはまたしても南側。3人は長距離の移動を強いられる。


「またかよ。偏ってんなぁ」

「みんな…」


 俺たちはギミックを使った場合と同様に把握できてるけど3人は違う。今の収縮が終わってマップ端がダメージエリアに飲まれてから移動するしかない。先入りして強い建物を取るのは難しい。


 屋外でもモリアーティでエリアを広げることは出来るから普通に戦えるけど、プロとの混戦に巻き込まれるとさすがにきつい。


 やがて白樺さん達も次の収縮を見て一気に走り出した。道中はロビンフッドで白樺さんがこまめに確認

してるけどすでに敵影はない。しばらくダッシュを続けてマップ中央の安地際にたどり着いた。


「これ次の混戦に巻き込まれるな」

「そうだね…。僕らを切ろうとしてくるだろうから迂回するか突っ込むかだけど」

「迂回しようにも先にいるしなぁ」

「これは前の家に仕掛けるしかねぇだろ。ここ倒さないとどうにもならねぇ」

「僕もそう思う。これは仕掛けるしかない」


 次の収縮で飲まれる建物だけど、ここを倒さないとこっちが前に出られない。上を目指すなら倒すしかない。


 白樺さんたちも迂回ではなく直進を選択したようで、グレを窓から一斉に投げ込んだ。室内で結界が展開されたのを確認して白樺さんがOD発動。さらに窓からモリアーティの”毒霧爆弾”も放り込む。


 そのまま一気に建物に侵入してインファイトを仕掛ける。真っ先に朝顔さんが飛び込んで追撃を仕掛けようとした。ただ相手はプロ。そう簡単にやられてはくれない。


「ステ刺された!」


 ひよりが悲鳴を上げる。相手もこちらが詰めてくるのを予想して苦しい状況でも一斉に入口付近に爆弾を投げて侵入を妨害しようとした。そのうち2つのスティッキーが朝顔さんの体に張り付いてしまう。


「引くな! そのまま突っ込めぇ!」


 俺の声に呼応するかのように、朝顔さんは構わず単身で突き進んでいく。フォーカスを浴びて一瞬でバリアが消しとぶけどリダイレクトで弾避けしながらさらに前へ。スティッキーが起爆し、朝顔さんはノックダウンとなるけど、爆風に巻き込んで敵2人も道連れにした。


「ナイス!」

「よく踏み込んだぁ!」


 入口付近のグレも爆発して朝顔さんと柊さんが踏み込んで残った敵にとどめを刺した。もしあそこで朝顔さんが建物の外に引いてしまえばただこちらがノックダウンを取られて戦況がひっくり返ってただろう。俺とSetoは大興奮だ。


 勇気を持ってふみこんだからこそこファイトを制することができたんだ。今は柊さんが朝顔さんを蘇生しようとしてる…けど。


「漁夫が…」


 端を切りたいのは他も同じ。キルログを見て近くにいたチームが踏み込んできた。柊さんは朝顔さんの蘇生で対応が遅れてしまった。肝心の蘇生も間に合わず、数的不利をひっくり返すことはできず。第4ゲームは3キル14位で終了となった。

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