第2章48 結実
「よし! ナイスだよみんな!」
久遠の声は嬉しそうに弾んでいる。キルポを獲得したのもそうだけど、きちんと教えたムーブを実践できてることを見れたからかな。
「相手が甘えたとはいえ一瞬で決まったなぁ」
「まぁ面子みる限りダイヤ帯って感じだろうしなぁ」
「それでも切り返すタイミングとかすごいよね。多分結のコールでしょ?」
「だね。僕が教えて何度もレートで練習した形だからみんな染みついてるだろうし」
「朝顔さんもすっかり前衛っぽい動きが板についてるもんね」
さっきの戦闘で漁夫に来そうなパーティがいたけど、モリアーティがいるのを把握して迂回していった。白樺さんがロビンフッドで周囲を確認。マップを見ても洞窟を狙うパーティはいなくなった。
「多分後ろは切れたな」
「うん、これでこの試合は上位に残れると思う」
「あとは何位になるかだなぁ」
「みんな、頑張って…」
やがて第3収縮が終わって残りは12部隊。次の収縮まで拠点は安地内だからキープすれば勝手に順位は上がっていく。白樺さんは安地外の出口の方からシルフィを出して、打ち落とされないようにしながら周囲の状況を俯瞰している。
「お、朝顔さんと柊さんが洞窟から出たな」
「キルポ拾いかな」
ロビンフッドでキルを拾えそうなところを味方に伝えてるんだ。俺が教えたこともちゃんと実践できてるな。無理はしないけど拾えるポイントは拾いにいく。籠るからなかなかファイトにならない分、こういう積み重ねがすごく大事になる。朝顔さんがSRのスコープを覗きこんでる。
「お、あのゴクウ」
「結も気づいた!」
「ナイススティール!」
洞窟を出てすぐにある大岩から射線が通ったチームに2人で銃撃を浴びせる。朝顔さんがSRでノックダウンを取れた。すぐにそのチームは全滅してキルポ1ゲット。遠目からのキルスティールは気持ちいいねぇ!
収縮後の小競り合いも収まり、残るは8部隊まで減った。次でいよいよ3人の籠る洞窟も安地に飲まれる。一気に終盤戦だな。
「さっき使った大岩までは進めるだろうからその先だね。上から見た感じは射線切れて強そう」
「うん、あとは落ち着いてヘイトを買わずにいられるか」
「なんか仕掛けてもいい気するけどな。見た感じこのグループなら最上位だろ」
Setoはそう言うよな。たしかにこのグループでは全員グランデの3人が最上位の戦力っぽいし。キルムーブをとっても通用するかもしれない。
「だめだよ。あくまでコンセプトを貫くんだから。ずっとそれだけを磨いてきたんだ。変えるほうが危ない」
「それもそうか。ちょい歯茎出しちまったな」
やがて再び安地が範囲を狭め始めた。3人は頃合いを見計らって洞窟を出て大岩に張り付く。右奥でファイトが起きて1チームが壊滅した。
「ヘイトも買ってないし部隊は反対側に集まってる。これあるよ。エリア広げたいな」
「そうだね。もっと広く…雫ナイスだよほんとに」
すぐに朝顔さんが射線を広げるべくステッキを設置していく。多分これも白樺さんが上から安全を確かめながらだろう。柊さんもカバーできる位置で警戒してる。
残る部隊のうち5チームが反対側に固まってる。すでに戦闘は始まってて漁夫が漁夫を呼ぶ大混戦に発展していた。すごい勢いでキルログが流れていき、残るは4部隊。今の連戦で生き残ったところに更に1チームが仕掛けた。ここだ。
「今漁夫に行ってないとこに仕掛けた方がいい。今やり合ってる方に追い立てれば勝てる…そう! それでいい! いけいけいけいけぇ!」
セイメイのODとグレで一気に仕掛けた。ロビンフッドのODもお見舞いして相手は爆撃に晒される。逃れるにはさっき連戦が起きていた方しかない。逃げた先の戦闘に無慈悲に投げ込まれるモリアーティの”毒霧爆弾”。素晴らしい、完全に盤面を制圧したな。
煙の中で柊さんが最後のマーリンを倒して試合が終了。見事初戦をTriumphで制した。
「ナイス!」
「お見事~」
「すごいすごい! 圧倒的だよ!」
俺たちは大盛り上がりで健闘を称えた。完璧なスタートじゃんか。久遠の声がしないなと思ったらいつのまにか通話から抜けてた。今頃向こうのVCに早く入ろうとしてるんだろうな。
コメントもすごい速さで流れてるし、どれも3人を祝福するものだ。
試合結果の画面を開くと、合計8キルの1位。順位とキルポイントで20ポイントの首位スタートか。
配信を移すことはできないけどやり取りが聞きたかったので手元のスマホで白樺さんの配信を開く。
「…ったよ! みんなナイスナイス! 最後漁夫ってない方に詰めるので大正解だよ。あの選択したときに僕勝ちを確信したよ」
「よかったぁ~。迷ったんだけど押し込んだ方が勝てるかなと思ってあぁしたの」
「ナイスオーダー! 雫もエリア取り完璧だったし、美月もしっかりカバーしてたよね。みんなほんとに凄かった!」
「教えてもらったこと出せてよかったぁ」
「いえ~い! このまま勢いに乗って突き進もう!」
大騒ぎだな。なんなら久遠が一番テンション高いまである。でもこれで完全に大会に入れただろうな。実際に勝てたことで、自分たちならやれるっていうのがちゃんと自覚できただろうし。このラウンドは大丈夫だな。
その後の4ゲームでも3人は堅実な戦いを見せ、トータル69ポイントの1位でプロリーグ予選最初のラウンドを通過したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます