第2章09 痴話喧嘩

 眉間をショットガンでぶち抜かれたゴースティングプレイヤーがボックスに変わる。プレイヤーネームを見れば言い逃れしようのない名前をしていた。俺らは即座に迷惑行為として通報しておく。


「ひより、大丈夫?」

「うん、大丈夫。言いたいこと言ってスッキリしたし。それに、3人でやればこんな簡単に返せるって分かったから。やっぱりこのゲームは3人でやるもんなんだって改めて実感できた」

「そっか。ならよかった」

「うん、まぁ毎回さっきみたいに簡単にいくとは思わないけど、もう間違わないから」


 晴れやかなひよりの声に、俺の心配が杞憂に終わったことを悟る。メンタルもこの1ヶ月ですごく強くなったんだなぁ。


「そ・れ・よ・り! H4Y4T0、あたしのことゴキブリを平気で叩き潰すような奴だと思ってたんだぁ」

「あっ、いやそれは言葉の綾って言いますか…」


 やっべぇ、このままの流れで忘れてくれないかと思ってたけどこっちは杞憂で済まなかったか…。


「ていうか、そもそも女の子って忘れてるみたいな言い方だったでしょ。思い出したら段々腹立ってきた」

「いや、あれはそういう意味じゃなくて、たしかに女の子がゴキブリ潰すのは無理だよなぁって意味で」

「だったらそう言えばいいじゃん!」

「ッスー…大変申し訳ありませんでした」


 この論戦に勝ち目はないと判断して早々に降参する。どれだけ考えてもこの盤面を覆せるプランを立てることが出来なかった。俺のIGLもまだまだ未熟ということか…。


「もういい! どうせあたしは気が短くて土佐犬みたいだから女の子っぽくないですもんね」


 拗ねたひよりは物資を漁りに行ってしまった。残された俺たちもひとまず物資集めを再開する。すっかりへそを曲げてしまったひよりの機嫌をどう取ったものかと悩んだ俺は一旦ミュートにしてコメントに助けを求める。


「どうしよう。ひよりが拗ねちゃったんだけど」


『謝って』

『大トロ一丁』

『チャンネル登録解除しました』

『痴話喧嘩てぇてぇ』

『拗ねたひーちゃんかわいい』

『てぇてぇ』

『なんか褒めろ』

『告白しろ』

『惚気ですか?』


 ダメだ。ほとんど面白がってるか頭がやられちまってる。ただ、褒めるっていうのはありかもしれない。ただ褒めるって言ってもなぁ。配信上でメタい話をこっちからするわけにもいかないしすげーセンシティブなお題な気がする…。あっ、でもいいのを思いついたかもしれない。これなら当たり障りないしひよりも機嫌を直してくれるかも。


「H4Y4T0~、そろそろ移動しようぜ」

「あたしも揃った」

「あ~はいはい」


 Setoの呼びかけで一旦集合して移動を始める。道中、甘えた動きをする部隊を倒して一息つくことができた。


「ひより、さっきはごめんな?」

「いいよ。別にH4Y4T0も悪気があったわけじゃないのは分かってるし。もう気にしてない」

「そっか…そういえばさ、昨日の配信で歌ってた曲ってなんていうの?」

「ん? 〇〇だけど?」


「そうなんだ。いや、聞いたことはあったけど曲名まで知らなくてさ。昨日ひよりが歌ってるの聞いて気になって」

「え~! 今色んな人が歌ってみたとか踊ってみたで出してるのに!?」

「ボカロとかもそんなに詳しくなくてさ。ひよりって歌ってみたとかも出してんの?」


「そりゃあまぁ何個かは」

「そっか。じゃあ勉強がてら聞いてみるかなぁ。ひより上手かったし」

「ちょ、ちょっとやめてよ。恥ずかしいじゃん」

「え、でも投稿してるんでしょ?」

「そうだけど…そうだけどぉ!」

「お前ら痴話喧嘩終わったと思ったらすぐにじゃれてんじゃねぇよ」

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