第1章52 到着

「帽子使うぞ」


 移動開始から20秒、ちょうど1分が経過したタイミングでアルセーヌのODが発動する。


 アルセーヌのODは初回のみ1分で使用が可能だ(それ以降は2分)。周囲のアイテムが表示され、ひとまずバリアを確認。


「ひより、青バリア拾って。あとはいつもどおり」

「了解」


 優先順はバリア→武器→アタッチメント→回復系→爆弾系だ。


 目当ての物資がなければ優先度を下げて取っていく。セイメイは俺たちの心臓なのでバリアは最優先で少しでもいいのを持たせる。


 弾は拾い放題だから初回で十分揃うって寸法だ。


 ここでの漁りも時間はかけない。繰り返し練習したことで全員淀みなく回収を終え、俺もSMGサブマシンガンを持てた。ピストルよりゃ遥かにマシだ。


 アイテム2枠分のアイテムと弾さえ補充できればもう用済みだ。2分後の再使用で古い方は消えるし、放置してダッシュ再開!


 第2収縮の安地目掛けて一目散に駆けていく。


 道中他のチームがまだ物資を補充しているであろうエリアを通るときは射線を切るようにして多少遠回りしたとしても安全最優先で進む。


 こっちは装備がカスだから絶対に今絡まれるわけにはいかない。


 初動でチンタラしてると移動が遅れることで他のチームの移動とかち合ってしまう。


 俺がとにかく速度に拘ったのはを切り抜けるためだ。ここさえ切り抜ければ下位での敗退はほぼ無くなる。


 これまでのカスタムで全てのランドマークのチームが初動にどれだけの時間をかけているかは把握済みだ。


 そのうえで、よほど端に安地が寄らない限り最速で最終安地であろうと予測した場所に到達できるのが初動40秒という時間だった。


 通り道でルートをほぼズラさずに拾える物資のみ補給可とし、あとはアルセーヌのODで拾う。


 やがて第2収縮の安地内に無事到達。


 俺の安地読みに従って確保しようと考えていた建物に乗り込んでようやくマラソンが終了した。


「よし、着いた。近くの敵見るから」

「OK」

「俺帽子広げるぞ」

「うん、2人で拾っといて」


 俺はロビンフッドのスキルを起動する。ロビンフッドのスキル”霊鳥の目シルフィ・アイ”は相棒の霊鳥であるシルフィと視界を共有することが出来るというもの。


 これで空を飛ぶシルフィを操って眼下の状況を把握することができる。


 敵がいればミニマップに表示されるので味方に瞬時に敵の位置を共有もできるという索敵スキルだ。


 まだ第1収縮が始まってもいないタイミング、元々このあたりがランドマークのチームも移動を始めたばかりってとこだろ。


「うん、敵影なし。帽子から最優先のを取ったら近くのアイテムを漁ってきて」

「了解」

「H4Y4T0は何いる?」

「SMGのアタッチメント近くにあったら頼む。とりま帽子では回復拾うから」

「オッケー」


 Setoが予め使っていたODから回復アイテムを確保し、俺は2人の安全を確保するために再度スキルを起動する。


 まだ2人の近くにはいないけど、200mほど先に小さく動く3つの点が表示された。



「第1収縮が始まり、物資を拾い終えた各部隊が移動を始めます」

「どこも行動が速いですね。競技シーンと比べてもそこまで変わらないくらいです。やっぱり2戦目までは生存優先の先入りムーブをどこも採用してるみたいですねぇ」


「そうですね。安地の中央付近は早い者勝ちでどんどん混み合っていきます。それにしても…」

「いやマジですか。なんで”おひるね日和”がここに一番近いランドマークのチームより早く場所確保してるんですかねぇ」


「このための初動ですよねぇ。ゴクウもいないからひたすらダッシュですし」

「しかも接敵しないために多少遠回りしてますからね。H4Y4T0のオーダーで確実に安全なルートをとりながら一番乗り。これは見事の一言です」


「H4Y4T0はロビンフッドのスキルで周囲の警戒をし、残った2人が敵がいない隙に足りないアイテムを補充する。よく出来てますねぇ」

「あっ、でも今スキルに敵影が映りましたね。すぐに2人が拠点に戻りました」



 マップに敵影が映ったことで、2人がすぐさま戻ってきた。これもカスタムから徹底してきた。


 俺の予想とほとんど変わらないタイミングでここから一番近いランドマークのチームが到着する。あそこは神田さんのとこだな。


 多分俺らが籠ってる建物の隣を狙ってるんだろう。ただ、間に合うかなぁ。


 俺がそう考えるのとほぼ同じタイミングで空中から飛行の効果音が聞こえてくる。やっぱりな。


 ここに2番目に近いチームはゴクウを編成に入れてる。ODでひとっ飛びで神田さんのとこよりも若干早く着くかなぁと思ってた。


 神田さんたちが上空目掛けて発砲するけどさすがに撃ち落とせなかったみたいだ。


 ゴクウのODは垂直上昇中は狙いやすいけど、一旦飛行状態になったら手動操作が可能だからジグザグ軌道で弾避けできるしね。


 そんなわけで俺らの隣、恐らく最終安地にかかるであろうと読んだ一等地を確保したのはG1Nが率いるチームだった。


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