第1章27 てぇてぇとは

「対戦ありがとうございましたぁ。今日も全勝ということで」

「おい、ほんとに覚えとけよ? 許さねぇからな?」

「……」

「無視すんなぁ!」


 まーたやってる。見てる分には面白いからしばらく止めないけどさ。あんまり放置してるとこっちにも被害が出るからそれなりに楽しんでから止めよう。


「むかつくむかつくむかつくむかつく! H4Y4T0! ほんとにあいつなんとかしてよ!」

「いや~、俺が言っても聞かないよ。あいつの煽り芸は天性だし」


「あ~~~もう! 絶対いつか倍返ししてやる」

「ははっ、そうだね。そんときはむちゃくちゃにしなよ。止めないからさ」

「言ったからね? 絶対止めないでよ」


 どす黒い感情が渦巻いてるみたいだけど、こういうモチベの上げ方もあるのか。まぁSetoは絶対そこまで考えてないだろうけど。


 結果的にはひよりのモチベは上がってるから俺からすればそんなに止める理由ないんだよね。むしろ負けることに慣れてしまうほうがよっぽど問題だし。


 負けに慣れると成長が鈍る。もちろん、勝負の世界だから永遠に勝ち続けるなんてことは出来るわけないし、むしろ負けることのほうが多い。


 ただその負ける悔しさを受け止めて、次は、次こそはとあがき続ける先にしか勝利はないし、価値もない。


 負けるたびに怒り狂えってわけじゃないけど、負けることを当たり前と思ったり何も感じなくなった時が本当の意味で負けたってことなんだと思う。


「はぁ~、今日こそはって思ったんだけどなぁ」

「ドンマイ。でも、2回くらい惜しかったよな。ガチで体力ミリだったし」

「でしょ? あれがほんっとに悔しくて! あとちょっとだったのに…」


「まぁ、そこを勝ち切るのがあいつの強さでもあるけどね。でも、確実に強くなってるよ。キャラコンのおかげで1回あたりの戦闘時間が始めたときより伸びてるし。ちゃんと粘れてるよ」

「粘るんじゃなくて勝ちたいの!」

「ははっ、その意気で練習すれば大丈夫だよ」


 励ましながら宥めたおかげか、ようやくひよりも落ち着きを取り戻したらしい。さてそろそろ今日の配信をお開きにしようかと思ってふとコメント欄に目をやると、何やら見慣れない言葉が連投されていた。


「なぁひより」

「どしたの?」

「てぇてぇって何?」

「……へ?」


 なんか今まで聞いたことない声音が返ってきた。何言ってんだこいつってか?


「いや、コメント見たらやけにてぇてぇって書いてる奴らが多くてさ。意味が分からなくて。ひよりなら知ってるかと思ったんだけど」

「…知らない!」


 ちょっと間があるなと思ったらやけに強めの返答。知らないにしてはそんなリアクションする必要ないような。


「え、なに? ほんとに知らない? 俺なんかまずいこと言ってる?」

「だから知らないって! あたしに聞くな! セクハラ!」

「えぇ!? これってそういうワードなの!?」

「うるさい! 話しかけてこないで!」


「おいおい、H4Y4T0お前セクハラしてんの? 勘弁してくれよ。炎上せず穏やかな配信活動を心がけてください」

「ややこしくなるからあんたはあっちで飛び跳ねてろ!」

「ひどくね?」

「もう今日は落ちるから! じゃね!」


 ひよりは逃げるように通話から抜けてしまった。さすがに通話をもう一度繋ぐのはまずそうだし、今日はここまでってことにするしかないか。


「おい、お前らが訳わからん事言うからなんかおかしなことになっちゃったじゃんか」


 リスナーに愚痴るけど、コメントはこないだの料理のゲームのときと同じくらいわちゃわちゃしていた。


『大トロールw』

『ひーちゃんに聞いたらダメっしょw』

『最低』

『草』

『草』

『チャンネル登録解除しました』

『ちゃんと後で謝って』

『まぁV界隈のスラングだしねぇ』

『切り抜き確定w』


 だめだ、好き放題言われるばっかりで結局意味がわからん。俺はネットでてぇてぇの意味を調べることにした。


 えっと、”尊い”を訛らせてるらしい。とうとい→てぇてぇ と。で、仲の良さげな様子を見たときに使う…。


 ふむ…。






 あれ、俺なんかやっちゃってますね。

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