第1章25 ひより視点 雑談配信

楠 日和視点


「楠と配信するのすっごい久々な気がするわ~」

「ごめんね、最近ずっとTBやってるから」

「それな。しかも裏でもひたすらやってるでしょ。たまにうちもつけるけど、絶対楠もログインしてるもん」

「まぁね~。それでも時間が足りないっていうか」


 今日は久々にTB以外の配信をやっている。所属している”ぶいあど”で同期でデビューしたひいらぎ 美月みづきとの雑談配信だ。


 水色のセミロングの髪にぱっちりした目。白地のシャツにショーパンを履いた天真爛漫な子で、ぶいあどの元気担当を自称している。同期でデビューしたということもあって、一番配信を一緒にやってきたし、気兼ねなく話せる大切な友達だ。


「見てるよ~。楠の最近の配信。プロの人に教えてもらってるんでしょ?」

「そうそう。コーチングしてもらってるの」


 美月もTBの配信はよくやっている。なんならH4Y4T0達と知り合うまでは、ソロで潜るかほぼ美月としか組んでやってなかったし。あたしが気を遣って1人でやろうとしていると、


「いいからいいから。うち誰かと喋りながらじゃないとすぐ飽きちゃうからさ。うちを助けると思って手伝って~」


 とあたしが気に病まないように何度も誘ってくれた。あたしが悩んでいるのも知ってたし、心配してくれてたんだろうな。


「びっくりしたよほんと。楠がコラボでTBしてるなんて何事、って思ってたらこないだの大会の優勝者なんだもん。うちもあの大会見たけどヤバすぎでしょあれ!」

「確かに。3試合で終わっちゃうなんて思わなかったよね」


「それ! しかもH4Y4T0さんってすっごい丁寧に教えるよね。実はあたしもこっそり配信覗いて勉強してるし」

「そうだったの?」

「だって楠だけ羨ましいし。H4Y4T0さんはすごい理論派で、逆にSetoさんは感覚派って感じだよね」


「あいつはダメ。基本的にアドバイス求めてもフィジカル鍛えろとしか言わないし。口悪いし。態度でかいし」

「あっははは。ほんとそう。しかもめっちゃ煽るのに煽り耐性まるでないとか面白すぎでしょあの人。H4Y4T0さんってそういう点でもすごいよね。そんなSetoさんの手綱を完璧に握ってるって感じだし」


 気づけば話題は最近のあたしのコーチングになっていた。Setoは確かに見てる分には面白いかもしれないけど、やられる側になったらたまったもんじゃないからね? ほんと一回あの腹立つ煽りを食らってみればいいのに。


「あとあの料理ゲームの配信もめっちゃ面白かったぁ。TBだと鬼みたいに立ち回るのに、別のゲームだとあんなにポンコツになるとか」

「ね! あれはほんとに面白かったなぁ。胸がスッとしたし」


「H4Y4T0さんがパニックになって楠に小さくなってるの普段とのギャップで可愛かったぁ。楠は楠で日ごろの恨みぃ! みたいな感じでキレまくってるし」

「そりゃ指導してもらってはいるけど無茶苦茶に言われてますからねぇ」

「またそんなこと言ってぇ~。素直じゃないなぁ」

「何よぉ」


 何やら美月から生暖かい雰囲気を感じた。画面越しでもニヤニヤしてるんだろうなってことが伝わってくる。嫌な予感しかしない!


「こないだの配信のH4Y4T0さん優しかったよねぇ。そりゃあ泣いちゃいますわ」

「うっ……」

「楠も可愛すぎたし。健気すぎでしょ。何なの? ヒロインなの?」

「うるさいうるさいうるさーい!」


 もう恥ずかしすぎて顔が真っ赤になってるのが分かる。あの時は確かに嬉しくて後先考えずに喋ってたけど! こうして冷静に思い返して見るとめちゃくちゃ恥ずかしい…。


「コメント見てたけどてぇてぇで溢れかえってたからね。えぇえぇたしかに尊かったですよ。見てるこっちがいじらしくなるくらいには」

「話しかけてこないで!」

「あれ、照れてんの~?」

「話しかけてこないで!!」


 こんな感じでひたすら美月にからかわれて時間が過ぎていった。配信を閉じてから主に羞恥心で疲れ果てた体をベッドに投げ出し、美月への復讐を固く心に誓うのだった。

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