第1章23 課題

「Seto、ノンデリ出てるから。せっかく褒めてるのにそんなこと言ったらだめっしょ」

「んぁ…わりぃ。余計なこと言った」


  俺が指摘すると、Setoもまずったと自覚したのかすんなり謝罪した。まぁ俺には意図は伝わるけど、ひよりはまだ汲み取れないだろうし。誤解のまま終わらせちゃまずいから俺からフォローしとこう。


「ひより、今のはSetoなりには褒めてる部分もあるから凹むことないよ」

「どこが褒めてるのよぉ」

「まぁ確かにそうなんだけど。でもSetoがこう言うのってひよりの努力を認めてるってことだから」


「あ~、そういうことなの?」

「そゆこと。ていうか、こんなに上手くなるなんて予想外だから。どんだけ練習やったのさ」

「え、特に時間で決めたりはしてないよ。自分で満足いくまでやって、あとはH4Y4T0が言ったとおりひたすらノンレートか3on3に潜ってる」


 俺たちが教えたことをひたすら実践してる。この上達具合ならレート戦で試したいことだろう。自分の実力がどれだけ上がっているか、確かめたくなるのは当然だ。ただ、それは俺が禁じた。


 自分でなかなか実感できない状態にしたのは俺だ。なら、せめて俺たちがひよりに成長してるって伝えてあげないとさすがに報われなさすぎる。


「レートに潜ってないから実感ないかもだけど、このまま続けていけばひよりは化けるかもしれない」

「ほんと!?」

「うん。だから、悪いけどレート戦はもうちょっと我慢してね。今のやり方が最速だから。な、Seto?」

「だと思うぜ? 俺とのタイマン以上の特訓なんてレートにゃねぇし」

「あはは、それもそうだね」


 ひよりは強くなっている。それは間違いない。ただ、凄まじい勢いで成長するのを目の当たりにして嬉しく思うのと同時に、これだけではダメだという危機感も俺の中で芽生えていた。


 このまま練習に打ち込めばひよりは相当強くなるだろう。ただ、これからも俺たちが色々とノウハウや技術を叩き込んでいくとして、それだけでいいのだろうか?


 ひよりにはコーチングが終わった後も楽しくTBをプレイしてほしい。反骨心でソロレートに挑み続けるだけの根性がある人だけど、俺たちが教えることだけじゃなくて、自分自身でも何かをつかまないといけない気がする。


 俺たちがコーチングするのは大会までだ。ある程度時間をかけて取り組んでもらうってことを考えると、伝えるのは早い方がいいはずだ。


「ひより、ちょっといい?」

「ん? どうしたの?」

「俺たちが教えたことに取り組んでもらうとして、追加で1つやってもらいたいことがあるんだよね」

「やってもらいたいこと?」

「うん。どんなことでもいい。これなら俺やSetoに負けないっていうものを見つけてほしい」

「え? 2人に負けないもの?」


 俺からの漠然としたミッションに戸惑ってるみたいだ。そりゃそうだよな。今までは全て具体的に何をすればいいか、どう動けばいいかを教えてきた。いきなりこんな言い方されても分かんないよな。


「俺たちが教えることに打ち込むだけでも、多分ひよりは相当強くなれる。ただ、ひよりがこれは負けないって言えるものがあれば、より一層自信を持ってやっていけると思うんだよね」

「自信かぁ…確かに、今は二人が面倒見てくれてるからコメントとかでも変なのはすごい減ってるけど、それがなくなったらまた出てくるんだろうし…」


「恐らくね。でも、自分で見つけた強みがあればそれが支えになってくれる。」

「だから自分で見つけなきゃいけないってことかぁ」

「うん。多分、俺たちが与える課題としては一番難しいと思う。自分で見つけて自分で身につけないといけないから。でも、ひよりなら見つけられると思ってる。俺らの想定を超えた速さで強くなってるし」

「……」


 ひよりからの返事がない。今でも数日のコーチングのなかで結構な課題や指摘を与えてきた。俺とSetoが教えたことに取り組むだけで一杯いっぱいだろう。


 さすがにまだ早すぎたか…と内心冷や汗を垂らしながらどうフォローしようかと頭をフル回転させていると、


「……ありがとう」


 一分ほど経って返ってきたひよりの声は、何かを堪えているかのようにくぐもっていた。


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