第5話 紅

昔から僕は何かに飢えていた。

何かは分からない、でも確かに飢餓感を抱えていた。

ずっと何かを欲していた。

共働きで出張の多い両親に相談したところでそう。返されるだけ、どうしようもない生きづらさを感じた。

高校の春休み、僕はどうしても衝動を抑えられなくなって夜中に外へ出てフラフラしていた。

そうして少し遠くの、隣前の公園にきた時に僕はとても美しいものを見た。

「あれ?珍しいねこんな時間に人が来るなんて」

月明かりの下で白い髪がたなびく姿を見て僕は呆然とした。

この世にこんなに綺麗なモノがあるなんて信じられなかった。

「?どうしたの君…生きてる?」

「生き…てる」

彼女は僕に近づいて笑顔を見せてくれた。

宝石のような紅い瞳が細められる姿はこの世の者とは思えなかった。

「其れならよかった!こっちおいで〜」

彼女の甘い果実の様な声に誘われて僕は公園の敷地内に足を踏み入れた。

公園の端っこにあるベンチに座り彼女は色々なことを話し始めた。

彼女はアルビノと言う生まれつき色素を生み出せない体質な様で日光に当たるとすぐに肌が赤くなってしまう為、夜にしか出歩けないそうだ。幼い頃から昼に憧れ苦悩した話は僕を更に魅了した。彼女の辛い記憶でさえも美しさが増す一因だとも思った。

「ははっ、君は面白いね。この話をすると大抵の人は同情するのに」

彼女に見惚れていると話はいつの間にか終わっていた。

彼女は僕を数秒見つめた後こう言った。

「君の悩みを聞いてあげようか?」

夢だと思った。美しい彼女が僕の様な道端に転がっている様な石みたいな存在の悩みを聞いてくれるなんて…

「実は…」


そこから先の記憶はあまりない。

ただ幸せな時間が流れた事しか記憶にない。

彼女とはそれっきり会ってはいない。

だが、彼女に会ってから飢餓感に苛まれることも無くなり平和な日常生活を送れる様になった。


暫く立って僕は社会人になった。

日々が忙しい中ふと、こんなニュースを目にする。

世界で一番美しいと称され行方不明になったアルビノの少女が白骨死体で見つかったそうだ。

気の毒に。





ガリっ……紅い果実の汁が滴る。

無我夢中で果実を貪る少年に少女の声は届かない。

ポタポタと-が少年の頬を伝う。

少女は幸せそうに笑っている。

やがて果実を食べ終わった少年は満足した様に渓谷から立ち去った。




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どうでしたでしょうか?

前回に続き意味がわかると怖い話です。

解説はいずれ…

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