ホラー短編集

なつめオオカミ

第1話 「アナベル」

わたしは釣鐘エリカ、十歳よ。

わたしはお人形が大好きなの。

もちろんぬいぐるみも好きよ。

可愛いいし、何よりカワラナイもの。

ええ、変わらないと言っても汚れとかで見た目や形は変わってしまうわ…

でも、わたしが言っていることはそう云う事ではないのよ?

なんて言えば良いのかしらね…

ああ、こう言えば分かるかしら?

『目的が変わらない』


まあとにかくわたしはお人形が好きなのよ。

だから、わたしのお部屋はぬいぐるみやお人形でいっぱいよ。

何時も、お父様がお出かけなさった帰りに買ってきてくれるのよ。優しいでしょう?

わたしはね、普段お屋敷から出られないのよ。

外はアブナイモノでいっぱいなんですって。

恐ろしいわ。


お母様はご病気でわたしが3つの時にお亡くなりになられたみたい。

殆ど覚えていないけれど写真でみるお母様はとってもきれいなのよ?

ふふ、誇らしい事にわたしはお母様と瓜二つなの。

お手伝いさん達はみんな、わたしがお母様の写身って言っているわ。

誇らしいわよ。あんなに美しいお母様と、似ているだなんて


お父様はとても優秀な方だそうで、家に来たお客様は皆んなお父様の事を褒めるの。

だからわたしもお父様の娘に相応しくあるためにたくさん頑張っているわ。

お裁縫に、お料理にお勉強だってしているわよ?

家庭教師の先生方も褒めてくださるんだから。


…ここまで来て、私は報告書を読んでいられなくなり、一旦席を立った。


私は釣鐘絵梨花。15よ

いえ、正確には今年で15なのだけれど今言いたいのはそう言う事ではなくって…

ああそうだわ。叔父様が言っていたのだけれど私のお母様はお母様じゃ無いかもしれないんですって。

叔父様が言うにはお姉様らしいのよ。

お母様では無いのは残念だけれど嬉しいわ。

私は今までずっと1人だったもの。

本当のお母様はどちらにいらっしゃるのかしら?

お話をして見たいわ。


そうそう、お父様はガイコウカンの仕事をなさってるんですって。

お父様をお助けしたくってガイコウのお勉強もしたいのだけれど私には未だ早いのね。

もっと勉強してお父様のお手伝いを出来る様になるわ。

本も読めない私がお父様のお手伝いなんて出来ないわよね…

頑張らなくっちゃ


報告書は未だ半分程ある。

此の事実を見届ける為、私は続きを読み始めた。



今日は私の15ののお誕生日なの。

ふふっ、今日はケェキが食べれるのね。

お気に入りのドレスと着て、お化粧して…楽しいのだけれどコルセットは苦しいのよね。

お父様とは月に一回しか会えないの。

お父様と私は余り顔が似ていないからトヤカク言われるのが嫌なのね。

私もお父様の事を悪く言うのは許せないわ。

お父様は会った時に必ず新しいお人形をくれるの。

あら?コレはもう言ったかしら?

ごめんなさいね、最近記憶が曖昧で…それはそうと今年は何のぬいぐるみなのかしら。

去年はビスクドールを貰ったから今年はクマのぬいぐるみかしら。

楽しみだわ。


此の報告書は正気の沙汰では無い。

否、此の事件も正気の沙汰では無いが。

そこで一旦、私は立ち上がり紅茶をとりに行った。


私は…そうだわ、つり…えっと…嗚呼、釣鐘えりな…?エリカだった様な…

まあ良いわ。名前なんて大した事では無いもの

お父様が私にぬいぐるみをくれたのよ。

アナベると言う名前にしたの

今年でお屋敷も終わり。

最後にコレを認めるわ。



ありがとうお父様



報告書No.256 《人形屋敷》


20××年。

とある家に姉妹がいた。

しかし、姉が6、妹が2歳の時に突如として行方不明になってしまった。

両親は警察に被害届を出し、誘拐事件としてこの姉妹の目撃情報が集められたが一向に手掛かりは掴めない。

8年が経った頃、姉の方が近所の公園に呆然と座っていたところを見つかり行方不明事件に光が見えた様な気がしたが簡単に事は運ばなかった。

姉は中世の様な服を着て薬漬けにされており、自我が薄い状態だった。

病院での治療の甲斐があり本来の彼女の姿が見えるまで更に五年かかった。

自我を取り戻した彼女から妹の存在を知り、警察が屋敷へ向かった。

警察が見たのは異様な光景だった。

屋敷中、彼方此方が人形で埋もれていて一階の広場らしき場所に豪華な椅子が置いてありそこには1人の人形…否、人形の様は少女が座っていた。

熊のぬいぐるみを持っており瞳は焦点があっておらず宙を見て微笑んでいる。

その横には犯人と思われる男がいた。

警察の姿を見ると男は言う。

「遂に完成したぞ!もう遅い、私の最高傑作アナベルだ!」

警察は即座に男を逮捕し、病院に少女を連れて行く。

少女は行方不明になった姉妹の妹だった。

妹の方は口調から思考まで中世のお嬢様のような考えをしていた。

そして犯人の事をお父様と呼び警察や家族を敵視していた。

世の中の常識を一切教えられず、口調や考えまでを統一された彼女はまさに

『お嬢様のお人形』だった。


そして私は報告書から目を離した。

私は真理カウンセラーだ。

とある少女の心を助けてほしいと言う警察の依頼によって有名な事件の報告書を読んだ。

そして、私の仕事はこの事件で《アナベル》と呼ばれた釣鐘エリカに世の中の常識と『お父様』の洗脳を解く事だった。

もうすぐ時間だ、私は身支度を整えると紅茶を飲み干し、扉に向かう。

机の上には報告書とボロボロのぬいぐるみが置いてあった。



「アナベル」 完


後書き

どうも、最後まで読んでくださってありがとうございます。

初のお話どうでしたでしょうか?

少しでも怖がってくれたら幸いです。

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