22日目(月曜日 仮)薪ストーブの部屋の夜「餡」
私は、青いペンキで書いた詩の終わりのところに余白を取ってから定規で切り取り、白い床の適当な所に置いた。
いつ放送されたものか忘れたが、テレビのドキュメント番組を観た記憶が思い出された。
ドキュメントの主人公は、北海道にある離島で独りで暮らす92歳の老男で、趣味として、一日に何枚もの半紙に短い詩を筆で書いていた。老男の職業は漁師で、同じく漁師の息子夫婦が5km位離れた家で暮らしていた。海が時化ない限りは小さな船で漁に出て、魚やタコを獲り、夏は、養殖した昆布を市場に出す下ごしらえを短期のバイトの方々と一緒に行っていた。元々は、ニシン漁で栄えた島だったが、北海道の他の地区同様、だいぶ前にその盛りは終わった。その後、零細漁業になっても、老男は身体が続く限り海に出て漁をしていた。
何年か前に奥さんを病気で亡くした後も、毎日、高台に出て海を眺め、そして、納得するまで何時間も大判の半紙に島の自然や漁についての詩を筆でしたためていた。
そんな記憶が私に、あの青いペンキの使い方を導いてくれた。
薪ストーブの部屋に戻った私は、いつもよりも、ゆっくりと風呂に浸かり、そして、夕食の準備に入った。
冷蔵庫を開けると、同じ大きさのタッパーが3つ並べて置いてあった。タッパーの蓋を開けると、餃子の餡が詰められていた。しかも、3つとも、餃子の餡だった。また、餃子の皮も餡に見合うくらいの枚数、冷蔵庫に入っていた。いくらなんでも、一人で食べきれない量だとわかったので、2つのタッパーを冷凍庫に移して、1つのタッパー分の餃子を作ることにした。
指を水で濡らしながら餃子の皮をで餡を包んでいった。すると、全部で25個の餃子ができた。ビールでもあれば、それでも、全部食べ切れるかもしれないが、残念ながらアルコールは置かれていないので、10個だけ焼くことにして、残りは後日食べるために冷蔵庫に入れた。
フライパンに餃子の底面を強めに押し付けるようにして置き、サラダ油を敷かずに強火で焼き、お湯をフライパンに入れて蓋をして蒸し焼きにし、パチパチと音が聞こえたら蓋を開けて水分を飛ばし、最後に油を軽く敷いて焼き目を付けて出来上がりだ。
綺麗な焼き目が付いたふっくら美味しい餃子になったのはいいとして、餃子の形にしてあるものがあと15個に、タッパー2つ分の餃子の餡が残っている、という…
黒井さん、私は、この部屋に一人住まいなんですけど。
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