バレなくてもアウトだって
からんな
回想
今思ってもそうとう馬鹿だったなと思う。
小さな事かもしれないが、平凡な人生を歩む私にとっては大きすぎる事実だ。今まで誰にも言えなかったこと、本当に他人事で流し見してくれれば構わないので聞いてほしい。
そして誰でもいいから、私を許してほしい。
まず軽く自己紹介からすると、私は父子家庭で育った。両親が離婚した原因は単純に不仲からだろう。
私の後悔は小学生の頃まで遡る。当時の私の家庭はまあまあ荒れていたのだろう。父は仕事で夜遅くまでいないことが多かったし、掃除をしなかったりハンカチを持っていないなどの小さいことで私を叱ってはよく殴られた。
一番最悪だったのは、父の彼女だ。父の彼女はシングルマザーで私の一つ上の息子がいた。仲が悪かった訳ではないが、そいつを不機嫌にしてしまったり、ちょっとでも悪い態度を取ってしまったらすぐに父が飛んできて怒られる。
父の悪いところは、謝っても許してくれないことだ。ため息混じりの罵詈雑言は数時間続き、歳を重ねるごとに叱られることに面倒くささを覚えていった。当時は、今日はご飯が食べられるかや、何時間続くのかなど余計なことを考えてはその時間を乗り越えた。
でもやはり叱られるのは怖いことで、私はすぐに泣いて過呼吸を起こしてしまっていた。父は泣くな、泣き止めと叱りながら何度も言っていたが、今でも泣いてしまう癖は治っていない。
まあでも実際、ここまで育ててくれたのだからあまり悪いことは言えない。ご飯もカップラーメンとはいえ怒らせさえしなければきちんと食べることができた。性的なことをされたこともない。
家がこんなだったから、当時の私は相当性格がひねくれていた。友だちが言うことすべてが馬鹿らしく思えたし、面白いと思えることが少しずれていたように思う。
それでも友達はまあまあいたし、父の彼女の息子と遊んだり家が真ん前の同い年の男の子と仲が良かった。近所にはおじいさんおばあさんがたくさん住んでいて、色々な人に夕飯をこっそりお世話になったり、アイスをくれたり、テレビを見せてくれたりして一緒に過ごした。家庭には恵まれなかったが、周りには恵まれたのだろう。
何がきっかけだったかと言われるとわからない。
その頃液体ののりを、つぶ薬のカップに入れて固める何が面白いのかわからない遊びが流行っていた。友達が
「のりがもったいないね」
といったので
「じゃあ多い子から取れば良いでしょ」
といってしまったのが多分すべての始まりだろう。私は嫌がる友達を押し切り、みんなが帰ったあとに一番大きい液体のりを最近買っていた男子の机のお道具箱から液体のりを盗んで使った。
のりがとろとろと流れ落ちるのを私は無心に眺めていた。流れるときの美しさが保たれることはないのに。固まってしまえば、カップの中に満タンに入れたのりは薄っぺらくなる。その変化がきっとみんなは面白かったのだろう。
先生に見つかる前にのりを返して、この日は終わった。周りの友達はずっと罪悪感を感じていたようだった。
このことからしばらくしてこの訳のわからない遊びは終わった。きっとみんなもう飽きてしまったのだろう。
あのとき、私に悪気はまったくなかった。後悔すらもしなかった。覚えているのは、バレなければ大丈夫、それだけだった。
もうすでにわかったかもしれないが、私は盗み癖があったのだ。
こんな私でも本を読むことが好きだった。今思えば、ゲームが買ってもらえなかった当時、一人でできる娯楽は本を読むことぐらいしかなかっただけかもしれないが。
学校の図書館で毎日、本の貸出を行い家に帰っては夢中になって読んだ。
先生からおすすめを聞いたり、とにかく気になったものを読み漁ったりして、色々なジャンルの本に触れた。幸せそうな家庭や、恋愛を見るたびに羨ましいと言葉をこぼしていた。
私が小学校の四年生のときぐらいに家の近くに小さな図書館ができた。住んでいたところが田舎だったので、図書館ができたことに相当感動したことを覚えている。
図書館では本を何冊も借りることができた。小学校の図書館にはない本が多くあったので最初のうちは借りて家に持って帰ったりした。
しかしそのうち、借りずにそのままこっそり持って帰っても良いのではないか。そう思い始めていた。そうすれば返さなくてもバレないし、と。
借りる本を何冊か、借りずにこっそり持って変える本を何冊か。当時からカモフラージュなんていうことを無意識にやっていたことを考えると我ながら恐ろしい。
本を借りずに持って帰るとき、ほんの少しの緊張を感じる。バレてしまったら怒られてしまうから。でもこのドキドキした感情を私は多分楽しんでいた。最初は何も感じなかったものを盗むという行為に段々と快楽を見出してきたのだ。
このときに盗んだ本は返していない。もう家にはないが、返さずに終わった。図書館が新しく、なくなった本を購入したのかと思うと今は心苦しくて仕方がない。
私は学童に通っていたのだが、父を怒らせてしまったときに学童に行くなと言われてしまっていた。しかし、私の友達はみんな学童に通っていて私がどれだけ本が好きで変な性格だったとはいえ、子供だったので友達と遊びたかったのは事実だ。
父に言われてからはじめのうちは渋々一人で家で時間を過ごしていたが、そのうち勝手に学童に遊びに行くようになっていた。当時仲が良かった子たちはみんな学童に通っていて寂しかったのも事実だ。
今思えばその学童はとてもいいところだったのだろう。タダで、しかも父には内緒で学童にいさせてくれた。
しかし、流石にお菓子はもらえなかった。その学童では学校から戻ってきた児童がお菓子を食べる時間があったのだが、流石にお金を払っていなかったので貰うことはできなかったのだ。
でも、自分もおやつを食べたいと思って家からおやつを持ってきていたのだが、そう毎日おやつがあるわけでもないし、父にたくさん買ってとは言い出しにくかった。
そこで私は家の近くにあった、昔ながらの商店でなけなしのお金でおやつを買って持っていった。
しかし、そんなにたくさんお金があるわけでもなくまた私は盗むようになっていた。
お菓子がある棚はちょうどレジから見えなかったのだ。ほしいお菓子に手を伸ばし、カバンにすっと入れる。そして、店内を見回るふりをして店から出る。店から出た瞬間の今日もバレなかったという高揚感と、胸の高鳴りは今でも忘れられない。
本当にあのときの私はどうかしていた。毎日学校では普通に過ごし、家に一度帰ってからランドセルを置いてその商店に寄る。そしてお菓子を盗んでから、学童に向かいお菓子を買ってもらったといってみんなと食べる。
学校で犯罪教育を受け、物を盗むということはいけないことだと教えてもらった日も私はおやつを盗んだ。
少しの罪悪感がだんだんと薄れてきたある日、店のお兄さんに盗んだことがバレてしまった。おやつをいつも持っていたカバンにしまったとき、お兄さんが近づいてきた。私は店内を見るふりをして逃げてみたが、お兄さんは後ろからついてきていた。
振り返ると、もうなんて言われたか覚えていないが盗んでいたことがバレてしまったことは事実だ。それから店を出てその日はおやつを持っていかずに学童に向かった。
このときの私は少なくとも反省というものをしたはずである。したはずなのだ。
次の日、私は違う店でお菓子を盗んでいた。
もう多分やめられなかったのだ。おやつを盗むことを言い訳にして物を盗むということをやめられなかったのだ。もちろん犯罪だということはどれだけ小学生でもわかっていた。それでもバレなければセーフと心のなかで思っていた。
そんな物を盗む日々を繰り返していたときだった。一人で遊んでいたときに初潮が来た。まず頭に浮かんだことは、どうやって隠すかということだ。私は女性関係の生理やブラジャーなどを普通の下ネタよりも恥ずかしいことだと思っている。なので、父にはバレないように乗り越えなければいけないと思っていたのだ。
その日、私は初めておやつ以外のものを盗んだ。
それから何日か経って、いつものように小店に向かうと、店の前に学童の先生がいた。挨拶をして今日はもうそのままおやつを盗まずに行こうと思ったら何故か引き止められた。話を聞くと、私はこの店で盗みをしていたことがバレていたことがわかった。そこで私はその先生に怒られてしまった。
ただ、幸か不幸か私は警察を呼ばれることはなかった。なので父にバレることはなかったのだ。
そして二回目の盗みがバレたのをきっかけに私は物を盗むのをやめた。正確にはもう近所にはコンビニしかなく、盗めるところがなかっただけなのだが。
生理についてもそのうちにバレ、父の彼女に生理用品を買ってもらった。
それから数年がたち、あれから色々なことがあった。
父は彼女と別れたし、私に対して優しくなった。
私も高校生になった。
あのとき、物を盗んでしまったことを私はたまに、ふと思い出す。
後悔はじわじわと遅れてやってきて、今の私を蝕んでいる。
友達には言えない。父にも言えない。
ただ、この苦しみを吐いてしまいたかった。
ここまでこんな話に付き合ってくださり、ありがとうございました。
バレなくてもアウトだって からんな @mochimochidango
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