不倫疑惑

だら子

第1話

よくある話なんですか?

生後3ヶ月の赤ちゃんがいるのにもかかわらず夫が不倫するのって。

こんな可愛い娘がいるのに。


ゆるさない。絶対に。

ゆるせる人なんていないでしょう?


SNSの普及で、どんな時でも自分が選んだ「誰か」と繋がれる、便利な世の中になりましたね。でも、まあ、こんな時代だからこそ、私も繋がれたんです。


夫の不倫相手、と。


茜はSNSで苦しみを投稿していました。


「今日は彼の誕生日。でも彼には会えない」

 

夫にもらった指輪なのか、何度も撮影し納得したのであろう美しい仕上がりの写真。一緒に添えられたポエムな投稿を見つけて気がついたんです。


彼女が会えないと嘆くとおり、本来家族と祝うべき大切な日。

夫は…家にも帰ってきませんでした。


「茜の他にも、不倫相手がいるのかもしれない」


彼の誕生日を祝うための料理を、自分の胃のなかに収めている時にふと、

そんな疑問がわいてきました。


怒りのあまり手が震え、フォークを落としてしまいました。


よくある話なんですか?

不倫相手が2いるって。


世の中がわからなくなってきました。


主婦になり、社会とつながるのが苦手な私は、1日の大半を家で過ごすようになってもう何年も経過しているものですから。


気持ちを落ち着かせるために、夫とのなれそめを、お話ししますね。


夫は、同じ会社で働いていた後輩でした。

わたしは指導する立場ではなかったけれど、困ったときにサポートすることで会話が増えていきました。「お礼」と言って有名店のスイーツを買ってくれたり、お昼を一緒に食べたり。何気ない日常が楽しかったですね。


夫は見た目は爽やかですが、私たち隠れオタク同士。話が盛り上がって一緒に推しのイベントに行ったりと、距離が縮まるのは早かったですね。人によって態度を変えない夫ですから、は年齢問わずたくさんいました。けれど、夫は近寄る女たちを上手にかわし、誰からも嫌われることなく私たちは結婚しました。


書いていたら、幸せが蘇ってきます。

そうなんです。

ゆるせない。と同時に楽しい思い出があるから今、生きていけるんです。

私っておかしいですか?


話がそれました。


夫の不倫相手が2人いる話でしたね。

私は怒りのあまりもう1人の女が誰か、つきとめようと決心しました。


茜以外の不倫相手を。


ある日、私は夫の後をつけました。

娘は、私の胸元で、よく眠ってくれています。

私が悲しみに暮れているとき、労わってくれるかのように、必ず深い眠りの中なのです。


夫がとあるマンションに入って行くのを確認しました。よくバレなかった?そうですね、存在感を消すのは昔から得意なんです。そしてこのマンション、たまたま叔母が住むマンションだったんですよ。よくある話…ではないですよね?私も驚きました。叔母に「お手洗いを借りたい」旨を伝え、ドアを開けてもらい深呼吸しました。


もうすぐ対決するのです。

娘の髪を人撫でし、涙をこらえ一歩踏み出しました。


彼女の階はすぐわかりました。

一階のポストに何故か夫の名前が書いていましたから。


私は震える手で、インターホンを押します。


「坂下和樹の妻です。開けてください」


妻らしい冷静さを装った声で言いました。


「えっ!?どう言うこと?ですけど!?」


彼女は、すぐにドアを開けました。開けたというより、びっくりして開けてしまったというような速さでした。


するとなんということでしょう…彼女の腕の中で美しい玉のような、生後間もない赤ちゃんが眠っているではありませんか。


すぐに夫が出てきました。謎に強気な態度です。


「警察に連絡します」


敬語がさらに怒りを誘います。妻であるわたしが何故こんなことを言われないといけないのでしょうか。


夫の彼女は、わたしを見るなり怯えて泣いています。


「この人頭おかしいよ、和くん、見て」


彼女は私の娘を指さし言います。


を抱っこしている」



私は頭に血がのぼり怒り狂いながら言いました。


「この子は私と夫の子よ!!和くんなんて気やすく呼ばないで!!そう…教えてあげる。すぐ別れた方がいい。夫はね、近藤茜という女とも付き合っていて…」


その瞬間、夫から顔を殴られました。殴られて横に倒れ、口の中に血の味が広がり、生きてるなと3秒くらい余韻に浸りました。そして殴られたと同時に夫は、私たちの娘をつかみ、ほうり投げたのです。


「カタン」


プラスチックみたいな音がマンションの廊下に響き、何事かと玄関を開けたお隣さんが悲鳴をあげました。


「いい加減にしてくれ。妄想にもほどがあるだろ!俺の結婚で、勝手に頭がおかしくなられても困るんだよ!!」


夫の顔が青白く光っています。玄関の電球が、彼にスポットライトを浴びせていました。

併せて、わたしのポケットから、着信音が鳴り響いて、不気味な演出に拍車をかけています。彼は今人生で一番青白く輝いていると言って間違いありません。


「頭がおかしい?誰に向かって言っているの?」

私は立ち上がろうとしましたが、腰が抜けてまた倒れてしまいました。


赤ちゃんを抱っこしながら彼女は泣き、夫に尋ねています。


「ねぇ、近藤茜って誰?」



すると彼女の腕で眠っていた赤ちゃんがギャー!!!とつんざくような声で泣き始めました。うちの娘はおとなしいのでこんなに顔を赤くして泣きません。


今だって冷たい廊下で、目を開けてじっと私を待っています。さっき撫でた金色の髪の毛は、バサバサと乱れており、私は目を逸らしました。


彼女はというと、母親らしく自分の涙を引っ込めて少し高い位置にかかげ、泣きわめく赤ちゃんをしっかりと抱っこし直しました。茜よりしっかりしていて、夫が好きなタイプだなと分析しました。


こんな時でも、夫のこと考えてしまうんですね。


そうしているうちに、パトカーが現れて、私は、警察に連れて行かれました。パトカーに乗る時に気がついたんです。今はもう秋なんだなーって。夜の風がピリッと頬を撫でます。


そして私はここにいる。

私は白い部屋にいる。

娘まで取り上げられて。

ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。


私はなぜ誰にも愛されないか、さっぱりわからないんです。

こんなに夫を愛しているのに。

こんな仕打ちを受けなければならないのですか?


それよりも、わたしが、ゆるされない存在であることに、首をかしげるばかりなんです。


これってよくある話なんですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不倫疑惑 だら子 @darako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ