第39話悪霊にレクイエムを

「うりゃあ!」


「そりゃああ!」


「せいやあ!」


「オラオラですわあ!」


 絵理歌、晴香、史がレイスの周りを三方から取り囲み、ねむが後方からグロックの魔力弾で援護射撃を入れるフォーメーションで攻撃を仕掛け、景は後方で歌によるバフをかけ続ける。

 囲まれるのを嫌ったレイスは振り払うべく体当たりや闇属性の魔力弾を飛ばして攻撃してくるが、絵理歌達は攻撃を躱しつつ巧みにポジションを変えて囲みを維持していた。


「ぐおおぉぉおおおぉぉお!」


 周りを囲み有利なポジション攻撃を続けていると、レイスは突然雄叫びを上げる。

 霊体の体のどこに声帯があるのかは分からないが、地獄の底から響いてくるような不気味な大声だった。


「今のは何? 凄い声ね」


「史さん、ねむさんが!」


「ああぁぁあ! 虫は嫌いですわああ!」


 レイスの雄叫びを不審に感じていた史に絵理歌が異変を伝える。

 後方にいたねむが突然錯乱し、奇声を上げながら四方八方にグロックの魔力弾を撃ちまくっていたのだ。


「今の雄叫びが原因? 状態異常をばら撒く精神攻撃ってとこかしら」


「このままじゃまずいです! 取り押さえるので史さんと晴香はレイスの足止めを!」


「「任せて!」」


 錯乱の原因はレイスの精神攻撃だと史は分析する。

 聖属性の加護でダメージを負うようになったレイスは、絵理歌達の連携を崩す為に搦手で攻めてきた。

 二人に足止めを頼み、絵理歌はねむのもとへ向かう。


「いやああこないでくださいましいい!」


 だが、ねむは絵理歌が近づくと怯えるように悲鳴を上げてグロックの魔力弾を撃ってきた。

 放たれた魔力弾を気を纏った拳とステップで躱し、私のことが分からない? 別の何かに見えてるってこと? と絵理歌は理解した。


「それ以上近づくなですわ虫けらああ!」


「ちょっ! それはやばいよねむさん!」


 グロックの連射で止まらない絵理歌に業を煮やしたねむは、腰のホルスターからデザートイーグルを抜き狙いを定める。

 銃口の向きから弾道を予測して躱そうとするが、グロックより速度も威力も弾も大きいデザートイーグルの魔力弾を躱し切れず足に被弾した。

 傷を負った絵理歌はそれでもねむを止めるべく、足を引きずりながらも前へ進む。


「やっと止まりましたわね。往生しやがれですわ!」


「止めろねむちゃん! それ以上はいけねえ!」


 止めの一撃を加えるべく銃を構えるねむに、景が後ろからタックルして止めに入る。

 小柄な景の体重と腕力では地面に倒すことはできなかったが、しがみつかれたねむは動きを止めた。


「何をしますの景! 早く虫を撃ち殺さないと!」


「ねむちゃんあたしが分かるのか! あれは絵理歌ちゃんだ! 敵じゃねえ!」


「え……絵理歌さん……? バカ言ってんじゃねえですわ! どう見ても悍ましい虫けらですわ!」


 絵理歌は虫けら呼ばわりされてショックを受けるが今はそれどころではない。

 景が止めてくれている間に近づいた絵理歌がねむの首にそっと腕を回して締め上げる。

 頸動脈の血流が止まり、ほんの数秒で意識を失った。


「ごめんなさいねむさん、今はこうするしかなかったの。景さんもごめんなさい、ねむさんに酷いことをしたわ」


「いいんだ絵理歌ちゃん、状況は分かってるつもりだ。錯乱したねむちゃんを止める為なんだろ?」


 謝る絵理歌に景は首を振って答えレイスを睨みつける。

 その表情には怒りと決意が宿っていた。


「この幽霊野郎! あたしの大切なねむちゃんに何しやがる! 天が許しても、このあたし様が許さねえぞ!」


 絵理歌が戦線を離れている間に晴香と史は状態異常を受けて地面に倒れ伏し、レイスが二人に止めを刺さんとしていたが、景の啖呵で注意をこちらに向ける。

 半透明の体の顔の部分が勝利を確信し、口端を吊り上げ嘲笑しているように見えた。

 その表情でさらに怒りの感情が沸くが景はそれを内に秘める。

 イメージするのは先程ジニーが見せた聖職者の祈り。

 邪なるものを滅する聖属性の加護を与えた祈りをイメージして歌い出した。

 曲は死者のためのミサ。

 死者が天国へ迎えられるよう神に祈る。

 死者に永遠の安息を与える歌、レクイエムだ。


「ぐううおおぉぉおお!」


 死者に贈るレクイエムを聞いたレイスは、苦しそうな呻き声を上げて地に伏しのた打ち回る。


「景さん凄い……燐光の数も増えてるよ」


 絵理歌の言うように、景の体から発される燐光が四色から赤橙黄緑青の五色に増えていた。

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