第37話レイス
「いつまでもしょぼくれてんじゃねえよ少年! ねむちゃんのおっぱいにやられちまったのは分かるが、嫌われちまったもんはしょうがねえ! だいたいお前のパートナーはジニーだろうが、気が多い奴はあたしも嫌いだぜ!」
景はトールの背中をバシバシ叩きながら慰めなのか煽りなのか嬉しそうに語りかけた。
トールはグギギと歯を食いしばると言い返してきた。
「勘違いするなよ、ジニーは実の妹だ。それにお前の方がガキじゃねえか」
絵理歌が「あ、やばい」と思った時にはもう遅い。
景の燃えるような右ストレートが火を噴きトールの顎を打ち抜いていた。
もんどり打って倒れたトールが呆然としながら見上げると景は叫ぶ。
「あたしはねむちゃん、絵理歌ちゃん、晴香ちゃんとタメだ! お前の方がガキだろうが!」
「そ……そうだったのか、すまねえ。小さいからてっきり年下だと思っちまった」
「誰が小さいだおらあ!」
「まあまあ景さん、落ち着いて。子供の言うことにいちいち腹を立てないんじゃなかったの?」
尻もちをついて見上げているトールに、更に蹴りを入れようとする景を絵理歌が止めに入った。
景は「それもそうだな」と振り上げた足を下ろし、すぐに怒りも治まる。
「そこだあ! やっちゃええ!」
「その少年にいかがわしい目で見られましたわ……」
「トール君最低だよ……」
「えりたんが止めちゃったか。暴れる景ちゃん可愛かったのに」
「みんな煽らないで、早く移動しないとまた戦闘になっちゃうよ」
観戦していた仲間からヤジが飛ぶが、絵理歌が言うように早く移動しなければ戦闘の騒ぎでアンデッドが集まってきてしまう。
哀れトール、女子パーティに男が一人混ざったばかりに踏んだり蹴ったりであるが、一言多いのが悪いので自業自得であった。
絵理歌達はトールをからかうのを止めて移動を開始した。
「もうすぐ目的地に着きそうだけどやばそうなのがいるわ」
「まるで紅水仙を守るように待ち構えてますね」
絵理歌達はアンデッドの反応がぽっかりとないポイントに近づくと足を止めた。
恐らく紅水仙のあるであろう場所を守るように動かない強力な存在を探知したのだ。
まだ姿こそ見えないが、先ほど戦ったアンデッドとは比べ物にならない強力な存在感を感じる。
死を感じさせる匂いが漂い戦闘力の低い景、ねむ、トール、ジニーの四人は死の空気に当てられたのか体を震わせていた。
「史パイセン、この先はやばいぜ。ほんとに行くのか?」
「辛いだろうけど孤立する方が危険だから、みんな頑張ってついてきて」
いつも強気な景が不安を口にするほどに危険な存在を感じていた。
近づくことを拒むような空気の中、絵理歌達が先へ進んで行くとその存在は姿を現す。
大きさは人間と同じくらい、薄ぼんやりと透けて見える体を持つアンデッドだった。
「あれはリッチ? いや、幽霊ぽいからレイスかしら」
「レイスだと! 上位アンデッドだぞ……」
史の考察にトールが驚きの声を上げる。
「生きる霊体レイス。力ある魔術師が未練を残して死んだ時、生への渇望からアンデッド化した魔物と言われています。その力は生前の強さに比例します。ここが古戦場だったことを考えるとレイスの上位存在、ハイレイスの可能性もあります。教会の人間として見過ごすことはできません」
ジニーが顎に手を添えて思考しながら述べる。
蓮華教は自我を持たず生ある者を貪るアンデッドの浄化を責務としている。
アンデッドの浄化は蓮華教徒の課せられた使命なのだ。
使命に燃えるジニーが前に出ようとするが、絵理歌はそれを止める。
「いくらジニーちゃんでもいきなりあれを浄化するのは無理なんじゃない? 私達が弱らせるから止めをお願い」
「確かにそうですね、気持ちがはやりました。皆さんお願いします」
ジニーに思いを託された絵理歌達が近づくとレイスが襲いかかってきた。
まるで一定距離に近づいた者を攻撃するようプログラミングされているかのように無機質で感情がない。
「みんなくるわよ! って、速!」
史がレイスの速度に驚くのも無理はない。
実は実際のスピードはそれほど速くないが、感情も予備動作もない動きは実際の速度よりも速く感じるのだ。
それは、蠅や蚊を集中して見詰めていても突然見失ってしまうのと同じ原理である。
前衛の絵理歌、晴香、史はレイスの突撃を躱すが、反応が遅れた為ギリギリだった。
「うう……なんかあいつが近づくと寒気がするわね」
「皆さん気をつけてください! レイスは触れた相手を憑り殺すと言われます!」
「物理攻撃ができないってこと! 厄介な相手ね」
ジニーの助言に絵理歌が愚痴をこぼす。
絵理歌達と難敵レイスとの戦いが始まる。
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