第31話割に合わない依頼

「個人的な質問は後で頼む。それで、具体的に今後の捜査をどうしたらいいかアドバイスがあったらお願いしたいんだが、今のところ手詰まりでな」


 晴香の質問で脱線した話題をタコスが軌道修正してアドバイスを求める。

 ギルドでは情報がほとんどなく、専門家の意見を聞きたいのだ。

 シエルは「そうですね……」と少し考えて口を開いた。


「犯人が冒険者を狙っているのは強い者の血を吸った方が力を高めることができますし、眷属を作るにしても強くなるからでしょうね。どちらにしても情報が少なすぎますから、今のところは冒険者の皆さんに注意を呼び掛けて様子見するしかないですね」


「やはりそれしかないか……」


 吸血鬼族は普通に修行しても強くなるが、血を吸う事でも強くなれる。

 ただでさえ他種族よりも強い吸血鬼族がさらに強くなり、眷属を作って配下を増やせば国を滅ぼしかねない戦力になると言われる。

 御馳走ではあるが血を吸わなければ生きられない種族ではないので、多くの吸血鬼は他種族の血を無理やり奪ったりはしないのだが、はぐれ吸血鬼は己の欲望のままに生きる。

 その為、はぐれ吸血鬼が悪さを始めたらすぐに倒さなければならないのだ。

 非常に危険かつ緊急度の高い敵である為、高い報奨金も用意される。

 だが、狙われているのを自覚しているはぐれ吸血鬼は力をつけるまで姿を見せないので、討伐するのが難しいのだ。


「ディステル会の皆さんには普段通り活動しながら並行して調査をしてもらうのがいいと思います」


「そうだな、他の冒険者には俺から気をつけるように言っておこう。高ランク冒険者でもなきゃあ死ぬだけだからな」


「では、私はこれで失礼しますね。協力して吸血鬼を討伐しましょう」


 方針が決まり会議が終了したので、絵理歌達は依頼を受けて行くことにした。

 依頼ボードにはペットの捜索、薬草採取、魔物討伐まで様々な依頼が紙に書かれて貼られ、依頼書を受付に持って行き受注することで受けることができる。

 絵理歌達は今まで迷宮探索しかしてこなかったので、調査がてら依頼を受けてみることにした。


「ん~、これなんてどうかしら。面白そうじゃない?」


「人助けにもなるし、いいですね」


 少し悩みつつ史が選んだ依頼は孤児院を兼ねた町の教会からのもので、内容は薬草採取だ。

 報酬は低いが人助けにもなると絵理歌が賛成すると、みんなも賛同してくれたので受付に持って行くことにした。


「皆さんが依頼を受けるのは珍しいですね」


「せっかく冒険者になったのに迷宮にばっかり行ってたからたまにはね」


 ビオラのいる受付カウンターが空いていたので持って行くと少し驚いた表情を見せるが、史が説明すると納得したように頷いた。


「ああ、この依頼ですか。報酬が安い上に危険なせいで塩漬けになっていたんです。実力のある方はこういう依頼は受けませんので、皆さんが受けてくれると助かります」


「薬草採取なのに危険なの?」


 採取依頼が危険なのはおかしいと思った史が問いかけると、ビオラは困ったように眉間に皺を寄せて話始める。


「採取してほしいのは紅水仙べにすいせんという花なんですが、この辺りではメリア湿地にしか自生していないんです……」


 メリア湿地とは城塞都市ダンデライオンから馬車で半日ほど進んだ所にある広大な湿地帯である。

 かつて大きな戦が行われた古戦場であった為、多くの兵の死体がアンデッド化し跋扈する危険地帯になっていた。

 紅水仙はアンデッドの発する瘴気を栄養に育つ珍しい花で、瘴気を吸う性質が利用されて強い毒や呪いを消す妙薬の原料になっている。

 ビオラは安い依頼料の割に危険であり、貴重な薬の原料である紅水仙をそのまま売った方がよほど儲かることから割に合わない依頼なのだと説明してくれた。


「事情がありそうだし、今回は人助けも兼ねてるから一度その教会に話を聞きに行ってみるわ」


「ありがとうございます。メリア湿地は危険な場所ですが、ディステル会の皆さんなら安心して送り出せます」


 人助けの為、割に合わない依頼を受けてくれた絵理歌達にビオラは嬉しそうに感謝を述べる。


 何か事情がありそうな教会に話を聞きに行くことにした絵理歌達はビオラに場所を聞き、町はずれにある教会に向かうのだった。

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