第5話再会
行商人の馬車に揺られること二時間ほどでアルストロメリア王国の城塞都市ダンデライオンに到着した。背の高い城壁に囲まれた大きな町である。
行商人によると北と南の門から出入りでき、町の住民以外は通行税銀貨三枚支払って中に入るとのことだ。
絵理歌たちはオークを倒していなかったら文無しだったのでオーク様様である。
オークに感謝しつつ中に入り行商人、ホワイトラディッシュの面々と別れると、町を散策しながら一緒に召喚されたシスル女学園関係者を探すことにした。
町では人間、獣人、エルフ、ドワーフと多種多様な種族を見かける。人間が一番多く、獣人が一割、エルフとドワーフはごく僅かに見かける程度だ。おそらく人間の国なのだろう。
「人間以外の種族を見ると異世界に来たことを実感しますね。町並みも綺麗で、中世ヨーロッパ風なのに道は舗装されているし排泄物も落ちていない」
「あら、詳しいわねえりたん。おそらくは魔法によるものか、下水道が整備されているか、またはその両方だと思うわ。どちらにしろ綺麗で清潔なのは良いことね」
「清潔にしとかないと変な鳥さんマスクつけることになるからね」
「ペストマスクのことかしら? ハルキャンも詳しいわね。でもあれは医者がつけるマスクよ」
雑談しながら目抜き通りを進んで大きな広場へ出ると人だかりができていた。
「音楽が聞こえる。エリちゃん面白そうだから行ってみよ!」
「前にもこんなことがあったような……」
晴香の言葉に絵理歌は疑問を抱きながらついて行く。
すると人だかりの中心には、入学式が行われた大講堂の前で路上ライブをしていた
景は歌いながらギターをかき鳴らし、ねむはキーボードでメロディを奏でる。演奏している曲はノリの良い和製ロックだ。
どこから持ってきたのかヘッドマイクと楽器はワイヤレスアンプを使っているので、二人の音楽は広場中に響き渡り注目を集めている。
「朝の可愛い子とねむちゃんだ!」
「学園長のお孫さんの薊ねむちゃん? 久しぶりに見るけど大きくなったわね……いろんなところが……。一緒にいる可愛い子は誰かしら?」
「三角景さんと言って、ねむさんの従姉妹らしいですよ。今日入学式の前に会いました」
ギターとキーボードだけでは音の厚みにかけるが二人は技術と情熱でそれをカバーする。
聞いたことのない曲だ。おそらくオリジナル楽曲だろう。熱唱する景が絵理歌には輝いているように見える。
絵理歌たちは暫く時を忘れ二人に声援を送った。
ライブ会場と化した広場は大盛り上がりとなり、観客たちはノリノリで「ブラボー!」などと叫んでいる。
しかし盛り上がりすぎたのか、衛兵が出てきたので一同は二人を連れて逃げることにした。
「ねむさん! 景さん! こっちよ!」
「絵理歌さん! 皆さんも! 無事で良かったですわ」
「おおう! 朝の姉さんじゃねえか!」
一同は機材を素早く回収して広場を後にした。
落ち着いて話ができる場所を探していると『ぐううぅぅ……』お腹の鳴る音が響いた。
「もうお昼過ぎだし、お腹ペコリンだよ」
「そうだね、このままじゃカタボリックするし昼食を食べつつ話しませんか?」
晴香と同じくお腹の空いていた絵理歌は食事に行こうと提案する。
「昼食は賛成だけど肩ボトックスがしたいの? やっぱり巨乳だから肩がこるのかしら?」
「カタボリックですよ! 空腹が続くと筋肉から体を動かすエネルギーを持って行って、筋肉が減るんです。私はシュラッグで僧帽筋を鍛えてるので肩こりはそこまでひどくありません」
「えりたんは理論派ね。ありがとう勉強になったわ」
「わたくしはシュラッグが気になりますわ……」
絵理歌は史の質問に答える。乳神様であらせられるねむには後でシュラッグを教える約束をした。
食事ができる店を探していると軽食も出しているおしゃれな喫茶店を見つけたのでここで昼食を取ることにした。
少しお高めの店だが絵理歌たちはオークの素材を売ったお金があり、ねむと景も路上ライブでお金を稼いだとのことで問題ないようだ。
せっかくなのでオーク肉を使った肉サンドイッチを注文する。
パリパリのバゲット風のパンに、葉野菜を敷いて食べやすいよう薄切りにしたオーク肉と、玉ねぎのような野菜(オニオイと言うそうだ)を甘辛いタレで炒めた物を挟んだ料理だ。
オーク肉は豚や猪肉に近い味で、パンと野菜にもオーク肉の旨みが染み込み、時折感じる野性味は魔物ジビエ料理と言えるだろう。値段が一人前銀貨二枚とお高いだけある。
異世界魔物肉料理を堪能した絵理歌たちは再会したねむたちと情報交換する。
「――以上が私たちがこちらの世界に来てからの出来事よ」
「魔物と戦ったりされたのですね……。シスルの皆さんを探して帰還方法を探す案は賛成ですわ。是非協力させてくださいませ」
「良い案だな! あたしも協力させてもらうぜ!」
二人に今後の目標に賛成してもらい、こちらの世界に来てから何をしていたか聞いてみると。
「わたくしたちは気が付いた時には二人でこの町にいまして、人攫いに強引に攫われそうになったり、景が町のチンピラと喧嘩して二人で逃げ回ったりしていましたわ」
「あれはチンピラ共がしつこいから悪いんでい!」
「お金も持っていませんので宿代もなく途方に暮れていたところ、景から路上ライブで稼ごうと提案されまして」
「我ながらナイスアイデアだろ。楽器も機材もあったしな!」
どうやら二人もなかなかにハードな状況だったようだ。
他のシスル女学園関係者を見ていないか尋ねる。
「わたくしたちは見ていませんわね。こちらの世界に来てわかったことは、バラードよりもロックのような、ノリが良くて激しい曲の方が好まれることでしょうか。バラードの良さも伝えて行きたいですわね!」
「あたしはこっちの世界でも歌うだけだぜ! 歌は国境を越えるんだ。世界だって越えてみせらあ!」
二人は熱く宣言するが、どうやら特に情報は持っていないようだ。
愉快な仲間が増え絵理歌は嬉しく思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます