エピソード:46 マグナスとの語らいと、終幕にかけてのラッシュ

 校長の元へと転移しようとする前に、当然だけど、現在位置を確かめたら、中央大陸のアルカストラ西の山脈の端の方ではなく、もっとずっと南のユーツェル連邦共和国のどこかにまで移動していた。


 さーっ、と血の気が引いていった。

 現在メダル獲得数ランキングで二位、私を追走している水野舞といつの間にか合流していたら、かなり厄介な事になる。というかもう、その可能性を前提に置いた方が無難かも知れない。

 私は、探し物や遠視や縁結び、過去見などの加護スキルを駆使して、何が起こったのかを掴み、また焦って校長を狩りに行ったら何が起こり得るのかも予見の加護スキルで何通りか確かめた。


 校長が転移させられたのを予見出来てなかったのかって?うん。言い訳にはなるけど、北や東の残りを入念に狩り尽くすだけでなく、前原さんを西大陸の状況偵察に送り込んだり、中央大陸で確保しておくべきメダルを抑えたりするのにも予見は使ってたの。

 で、同じ相手を予見の対象に取ったとしても、時間経過で予見の内容は変わったりするのね。予見した範囲だと移動とかしてなかった筈が移動してたりとか誰かに殺されてしまったりとかね。予見は確定した未来を見るというよりは、起こり得る可能性が高い未来を見るものだから。


 で、その可能性を変動させてるのが、確率を司る現在の主神、アルゴニクスだからね。自分の都合の悪い未来を見させてくれなかったのだろうね。

 だとするなら、今いる先の方が都合が良いから移動した筈。その手段が水野によるものかどうかはわからないけれど、その協力者によるものだったとしても、私が採っておかなければいけない対策は講じておく。


 ほぼ過半数近くのメダルを入手した事で、絵描きの神様の加護レベルを100以上にした状態で、他の神様の加護レベルも100に出来た。


 他の神様の加護を100にすると、その神様とも対話し助言を求められるようにもなる。ほぼ、最初にその神様が誰かを選んで加護を与えたのと似たような状態になれる。

 で、時の大神の加護レベルを100にした状態で予見を使うと、x秒後ではなく、x時間後の未来まで見れるようになった。あくまでも、確定ではなく可能性な未来だけれども、参考にはなる。


 そうやって私は、終局までの流れをほぼ読み切った。

 だから私は、その布石の一つとして、マグナスさんに会いに行った。彼は、私が最初に会った場所で普通に生活してた。


「おひさしぶりですね、マグナスさん」

「七瀬綾華だったか。ひさしぶりだな。順調みたいだが」

「校長先生は他の誰かに連れ去られてしまいましたけどね。あなたはなぜ見逃したのですか?そう言われてたから?」

「お前の想像に任せるよ。それで、何を聞きに来た?あれから週に一度はグリフォンもどきで酒や食料や調味料なんかを届けてくれたからな。答えられる事なら答えてやるぞ」

「前回の主神を決める戦いで、あなたに加護を与えていたのは現在の主神のアルゴニクスだった。間違い無いですね?」

「ああ」

「なら、その前の主神は誰だったのです?そして、あなた達がどうあなたの世界から拉致されて、どういう風に戦いが展開して、決着したのか、お聞かせ頂けますか?」

「・・・ふむ。話してもいいが、記憶があやふやになってる事も、話してはいけない事も含まれるかもな」


 私は、どんっ、と酒樽を魔法の鞄から取り出した。予見でも評判が良かった物の一つだ。


「おお、ドワーフ達の蒸留酒か。それも、レイキア工国王家御用達の酒本のか。良く入手出来たな?」

「今ではいろんな伝手が出来たもので」

「なら、つまみの類なんかも」

「もちろん用意してますが・・・」

「なんだ、もったいぶるなよ。聞きたい事があるなら聞け」


 私はハムやベーコンやチーズなど、酒好きならば好まれるというおつまみの類をマグナスさんの前に並べながら尋ねた。


「あなたの故郷は無事だったんですか?」


 マグナスさんはどこからか取り出したマイジョッキに、樽の蓋を割って中から掬った蒸留酒を呷り、おつまみにも手をつけながら答えた。


「それを聞くって事は、もう推測はついてるんじゃないのか?」

「元の世界に戻れるとは聞いてますけどね。あなたの時と私達の時とでいろいろ違ってる可能性もありますが」

「サイア。俺の恋人だった女は願ってたよ。戦いに勝ち抜けば、戦いに参加した全員を、元の世界に元通り戻せるかと。それは無理だと分かっていたらしい」

「それがほぼ答えという訳ですか」

「お前が言った通り、俺らの時とお前らの時とで、いろいろ違うかも知れないがな」


 ふぅむ、だとすると、また考える事が増えたというよりは、減った。まだ考察は進めておかないといけないようだ。

 どうでもいいけど、蒸留酒ってそのままストレートで飲むものなんだっけ?ま、いっか。


「それじゃ、あなたの時も、同郷の者達と戦わされたと?」

「そんなところだ」

「もうちょっと詳しく聞けます?」

「同じ村というか町というか、その中間くらいの大きさの小さな町の住民さ。とりたてて目立ったところもない筈の、平々凡々な町だったな」

「戦いに勝ち抜いても恋人さんを生き返らせなかったのは、それが彼女の願いだったから?」

「そんなところだな」


 マグナスは小さくないジョッキですでに3杯目を空けていた。つまみも並行して減っていってた。


「あなたの時も、アルゴニクスはゆったり始めてたの?」

「詳しい事は言えないが、全体としてもっとゆっくりだったな。お前達は急ぎ過ぎだ。まあ他人が口出せる事でも無いが」

「じゃあ、半年から一年くらいかかったんです?」

「十ヶ月くらいだったかな。もう遠い昔だ。お前らはあと何人残ってる?」

「はっきりと百人を切りましたね。というか七十人くらいか。そのうち、私が250枚以上、二位が100枚以上、三から五位は50枚前後って感じで、実質、この五人の誰かが勝者になるでしょうね」

「それで、お前は勝ったら何を願うつもりだ?」

「言えません」

「まあいい。それで、残ってる質問は、戦いの推移だったか?」

「ですね」

「お前もまだ知らない神の加護スキルなどの知識は伝えられないから、漠然とした話にはなってしまうが」

「構いません」


 そうして語られたのは、もっとほのぼのとした人々が、唐突な殺し合いに巻き込まれ、逃げ場を無くされ、何度ものランダム対戦を経る中で覚悟を固めていき、やはり七大神の加護を受けた者達を中心にトップグループが形成されたものの、マグナスさんはその恋人とともに生き延び、勝ち抜いていったらしい。


 最期に残ったのがマグナスさんとその恋人なのかは聞かないでおいた。たぶん私の参考にはならないし、マグナスさんも聞いて欲しそうな雰囲気はしてなかったから。


 んー、どの大神がどんな加護スキルをそのプレイヤーに与えるのか、出来る限り知りたかったけど、それは教えてもらえないとすると・・・


「ふーむ、だいたい分かりました。で、ここからは、過去じゃなく未来の話になるんですけど、あなたはどうやって神々の戦いに介入するつもりなんですか?

 校長を手助けしてと思ったけどそうじゃないみたいだし、神様も殺せないし殺しても主神を決める戦いは止められない止まらないみたいな事言ってましたよね?」

「お前が俺の立場だとしたら、どうする?」

「質問に質問で返すのは失礼ですよ、ってのはさておき、勝者として、二度とこの主神を決める戦いを繰り返すなって望みは適わなかったんですよね?」

「そうだな」

「つまり、勝者としての望みを叶える力だけだと足りない。でも、あなたはそれを知っていながら、神々の戦いに介入できる存在になる事を願い、叶えられた。

 そうか、例えば、あなたが駒全員を殺してしまえば」

「能力的には出来るだろうけどな。だが、それは禁則事項に含まれてて出来ない」

「他にどんな規則事項があるんですか?どの神がどんな加護スキルを持ってるとかも含まれてるとして」

「その駒に加護を与えてる神が教えてない事を教える事も基本的に禁じられている。過剰な手助けとかもな」

「ここで校長の生活をおりしてたようなのは許容範囲内と」

「だな」

「でも、私が校長先生を狩ろうとしたら絶対邪魔してたでしょう?」

「お前を殺しはしなかったさ。お前があきらめる程度には痛めつけたりはしただろうが」

「そういう後出し情報はずるいですよ」

「俺も狙ってハタノと出会った訳じゃない。主神の配剤って奴だろうな」

「は~っ、んじゃ、あと一つか二つですね、残ってる質問は」

「とりあえず言ってみろ」

「前々回の戦いの時の主神は誰ですか?」

「・・・残りの質問は?」

「・・・この主神を決める戦いって何回目なんです?そもそもどうして始まったんですか?神の名を冠する必要の無いようなのまでものすごくたくさんいますけど、賑やかしですよねあれ?」

「賑やかしか。言い得て妙だな」

「それで、前々回の時の主神とか、その前の主神が誰だったかは言えるんですか、言えないんですか?」

「前々回の時の主神も今と同じだった。その前のは言えない」

「知らないじゃないんですね。で、何回目なんです今回で?」

「教えられないとは言われてるが」

「文明の進み具合から言って、たぶん多くて五、六回目くらいと私は見てます。ポルジア王国ではちゃんと伝わってないか隠されてた。ラングロイド帝国でも認識してるのは二回か三回程度」

「今の大国の姿に落ち着いたのは、前回の戦いの結果が大いに影響してたんだがな」

「その話はまた後日として、どうして始まったのかは言えるんですか?」


 マグナスさんは、話の最中でも酒を樽から汲み飲み下す動作は続けてた。つまみも半分がところは彼の胃の中へと消えている。(私も少しはつまんだけど)

 でも、酔った様子は無かった。陽気に振る舞ってはいるのだけど、そう努めているという印象を受けた。

 恋人を亡くしているのであれば、楽しい思い出の訳が無い。まして、戦いの後の五百年もの間、ずっと、次の戦いを待ち続けていたのだ。今回の戦いを最期の物とする為に。


 そのマグナスさんは、もの悲しそうな表情で、でも何かを期待するように、私を見つめた。見つめ続けている。私が、彼の期待している答えを返せるまで、この注視は続くのだろう。


 考えろ。

 マグナスさんは言った。

 彼は、プレイヤー達を殺せないと。

 介入は出来るが、彼はおそらく神々を殺せない。殺せたところで戦いは止まらないと明言されている。

 プレイヤーを殺し尽くせば戦いは終わるが、次回以降もまた続いていく事になる。神々をそれまでの間に止められるのか?いや、仮定が違うか。


 求められる答えは何だ?

 主神を決める戦いを止める事?それは無理らしい。

 ならば、マグナスさん達や自分達みたく異世界からプレイヤーを拉致してくるのを止められないか?これはたぶん、事前の不正準備とかを防ぐ為の手段でもあるのだろう。人が絡むようになる前は、神々同士でもっと酷い争いが起きてたとしても不思議じゃないし。


 求められるべき答えが定まってないから、問われるべき問いも見つからないのかも?


 出来る事が無いのなら、マグナスさんの願いは叶っていなかった筈だ。

 マグナスさんの願いが叶えられるものだという事は、つまりそれは、願いを聞き届けた主神の意に沿う物であった可能性が高い。主神が叶える意志を持っているのに叶えられないのは何故か?何らかの条件が足りない?それはプレイヤー側からしか提示できないか実行できないのか?


 主神を含めた神々自身でも止められない。

 マグナスさんの様に、勝者となって願いを叶えられた存在でも手出し出来ない?それって願いを叶えられたと言えなくない?神様が嘘ついた?いやそれは無い。

 マグナスさんは化け物じみたステータスとかを、前回の戦いの後も保持し続けている。何の為に?願いを叶える為に必要だから。

 だとしたら、神様達にもマグナスさんにも足りない何かを、プレイヤーなら、いや私なら補えるって事か?


 だとすると、絵描きの神様の加護スキル250で出てきたものの出番かな。


「マグナスさん、うまくいくかどうか分からないけど、神様達の主神を選ぶ戦いをどうにか出来るかも知れない案があるんですけど、賭けに乗ります?」

「賭けるのは、お前か、俺か、それとも両方か?」

「どちらかと言えば、マグナスさんの比重が大きいかな」

「何をすればいいんだ?」

「変身、かな?」

「・・・何に?」


 マグナスさんは目的を果たすだけの機能は持たされていると推測される。けれどその主体になる事は禁じられているのだろう。なら、その機能を果たせる存在にしてあげればいい。


 私がスケッチブックを取り出して目的の何かをスケッチし始めようとした途端に、中空から釣り針と釣り糸が現れた。

 一般人なら目にも留まらぬ速度でスケッチブックが唐突に消失したようにしか見えなかっただろうね。でも、甘い。時の大神の加護を得た状態で加速状態を維持するまでもないステータスの素早さは素であったのだけど、保険だ。予見もしてあったしね。

 私同様に、現れたと同時に針をつかみ取れたであろうマグナスさんに目配せして思い留まらせる余裕さえあった。彼なら釣り針を引っ張って下手人を逆にこちらに引っ張り込む事さえ出来ただろう(私でも同じ事は出来たが、予見してその結果は避ける事にした)けど、そうするとたぶんベストな結果につながらないから、囮にしたスケッチブックと釣り針と釣り糸を経由して下手人に呪いもかけておいた。私にしか解けない呪いを。どんな内容かは後のお楽しみ。もちろん、呪いの神様の加護スキルです。


 釣り針に引っかけられたスケッチブックが虚空の彼方へと消え去ってから、マグナスさんは尋ねてきた。


「見逃したという事は、それが策なんだな?」

「策のうちの一つですね。てわけで、彼女さんの思い出の品とかありません?」


 マグナスさんが無言で取り出してくれたのは、何の変哲も無い銀の指輪だった。


「結婚したら、互いにつける予定だった。それは、サイアが俺に遺した形見だ」

「お預かりしますね。これ、『変質』させても大丈夫ですか?」

「『変質』か。なるべくなら、別の指輪にして欲しいが」

「じゃあ複製したのを変質させましょうか」

「でも、お前はスケッチブックを、まぁ準備してあるか」

「もちろんですよ。私の力の大半がそのスケッチブックにあるのなら、それを奪ってしまえば無力化出来ると考える敵が出てくるのは当然の流れですからね」


 私は魔法の鞄からオリジナルと100%同じクオリティの複製ページの束を取り出して、サイカさんの結婚指輪になる筈だった物を、マグナスさんの指のサイズに合わせてスケッチ。

 変質の神様の加護スキルには、付与エンチャントと類似の効果を与えられる物があった。甘いを辛いに変えるとかもそうだけど、例えばこれは結婚の証となるべき存在だった。

 だから存在の定義を変質させる。この指輪は前回の主神を決める戦いに勝利したマグナスさんにしか装備できず、破壊されず、盗まれない。この指輪を装備したマグナスさんは、その願いを果たせる姿に自身を変えられる。任意で姿は元に戻せる。

 私のイメージ画と設定テキストを見せて、細部をマグナスさんと詰めてから指輪をはめてもらった。


「いけそうだ」

「それは何よりです。さて、最初の一ヶ月が経過してランダム対戦が始まるまで20時間を切ったくらいですから、少し荒っぽく試運転行きますよ?」

「望むところだ」


 私はマグナスさんの手を取り、転移した。

 風の大神の加護を受けた人とその恋人が二人で籠もってる空島。いわゆる某有名アニメ映画のラで始まるあれが一番イメージに近い。遠見や収束なんかで位置は常に把握してあった。


 積乱雲の中は嵐で、その中は比喩でない雷竜の群がいて、その内側の島の中には大量の空も飛べる兵器が~、てのは一部想像も混じってるけど、そう大きく外してはいないだろう。


 私はマグナスさんと、その空島の遙か上空から落下しながら、その体を変質させた。何の変哲も無い、長剣。でも、その内側に秘められた力はマグナスさんの物そのもの。


 まずはお試しで、軽く剣を振ってみた。巨大な空島を覆っていた雲が吹き飛ばされ、嵐もかき消されていた。その中にいた雷竜達もはるか彼方まで弾き飛ばされて姿が見えなくなってた。


「だいじょうぶそうですね。思いっきりいっちゃってください!」


 実質五百年以上分の思いを込めた一振りから放たれた力で、空島は真っ二つに切り裂かれた。遙か下方の海面にまで大きな切れ込みが入った。

 まだまだいけると伝わってきたので、空島はばらばらにさせてもらった。二度と再利用出来ないようにね。


 崩壊した空島から飛び出してきたのは、風の大神の加護を受けた誰かとその恋人。まだ諦めてないようだったので、加速ヘイストしてマッハを越える速度で彼らに衝撃波をぶちあてた。

 何とか風の大神の加護の力で相殺近くにまで持ち込んだみたいだったけど、こちらの勢いまでは止められず、剣になったマグナスさんをそのプレイヤーのみぞおちに突き込んで気絶。彼女さん諸共殺さないようにする方が大変だった。

 二人を確保して無力化した後は、実験台になってもらった。そのまま死ぬのとどっちが良いかと問われれば、もしかしたらでも生き残れる方がマシだよね。

 メダルの数が足りないかとも思ったけど、幸いにも、実験はうまくいった。二人には無力化した状態でだけど、自分の築いておいたセーフスポットに避難させておいた。


 水野舞から交渉をもちかけるメッセージも入ってたけどとりあえず無視。


 残り19時間ちょい。たぶんいける。

 私は自分を励ましつつ、新たに得た風の大神の加護スキルを100まで上げて、時の大神の加速と自動マップスキルも併用しつつ、この星の上空を一時間かけて周回し、全体を自動マップに落とし終わった。残った全プレイヤーの位置情報と併せて。


 西大陸には、前原さんと輝人と冒険者達にすでに有力者達の動向を捕捉してもらってあったけど、予見もなん通りか繰り返した後で、火の大神の加護を受けた相手とその協力者二人の元へと転移。

 向こうはこちらがスケッチブックを、つまり力の大半を失ったと沸いてたところだったみたいだけど、残念。

 絵画世界も当然の様に展開して彼らを取り込み、風の大神の加護の力で火の大神の加護の力を封殺しつつ、協力者二人から問答無用で無力化。

 まぁ、さっき同様にどてっ腹にマグナスさんが変身変質した剣の束を叩き込むだけの簡単な作業なんだけどね。

 そしてさっきの二人とは違い、問答無用でメダルは必要な処理を施した上で回収。生きたままね。それを見て抵抗する気を無くしてくれた(下手な抵抗すればわかってるよね?くらいは言ったけど)ので、彼も同様に処置。


 こんな事が出来るのならもっと早くにとか言われたけど、無理言わないで欲しい。今日の今日でようやっとやり方が判明して、ぎりぎりどうにか実現出来ると実験台二人を経て確かめられたのだと伝えて、彼らが持ってた140枚越えのメダルもゲットして、彼らもさっきと同じセーフスポットへ。ついでに前原さんと輝人も送っておいたけど詳しい説明は後回しにさせてもらった。あ、前原さんだけは先に処置しておいたけどね。


 それからはほぼ最短の間隔で転移をメダル保持者の元へと繰り返して、さくさくと処置していった。彼らをいちいちセーフスポットに転移させるタイムロスが惜しかったので、一番最寄りの場所へと、複製メジェ助達に乗せて送らせておいた。ああ、もちろん、おかしな事はしないように制約はかけさせてもらっておいたよ。大詰めの盤面をひっくり返されてもつまらないからね。


 残りは意図的に見逃してた中央大陸のクロっちとオタ五人衆、水野舞と浦島次郎と秦野校長というところで、私の保有メダル枚数は450枚を越えていた。


 残りは14時間未満。十分間に合いそうかな。

 水野舞と何度かメッセージをやり取りしてみたけど、水の大神がこちらの処置内容に不満があるようで、徹底抗戦の姿勢を崩してないそうな。

 大神は消す訳にも行かないし同様の処置受けてもらわないといけないので、彼女の現在地の海面から1000メートルくらいの上空に転移。

 すかさず高圧水流の水槍が海中から無数に放たれてきた。何通りにも対処出来たんだけど、海中の水が供給されてる限り無限に打たれてくるだろうから、先ずはその供給源を断つ事にした。


 光の大神の加護スキルレベル100で実現可能になる、星の昼間の方から光をレンズや反射鏡で中継して放つ、ソーラレイというかコスモレイ?極太な太陽光線。

 無数の水の槍もその源となった海の水も、一瞬で蒸発して消え去った。もちろん、自分や水野舞には当たらないように調整してある。

 海中なら絶対に負けないという自信があったのだろうけど、海底にまで届く光の柱が通過した後、そのトンネルに海の水はなだれ込んではこなかった。

 闇の大神の加護スキルレベル100でその光が通った後のトンネルの壁を闇でコーティングして海水を一切通さなかったからね。

 それでも水野舞はというか水の大神は、水魔法とか彼女の背後に細長い支柱の様に残ってた海水で何とか形勢を取り戻そうと足掻いたけど、風の大神の加護の力で彼女の体ごと私の近くまで吹き上げて海面から引き離し、法の神の力で彼女の力の一切を封じてから絵画世界へ。


 彼女も似たような領域展開を行おうとしたけど、メダル総量が違い過ぎた。99枚を水の大神の加護レベルを上げる為に使ったら、他に十数個使える加護スキルがあっても、ばらけるならそのレベルは1ー2、水魔法スキルを最低限使い物にするなら十枚は取られるから、まぁ、複製アー助達に混じっていつの間にかアーライさん自身が混じってたりしたので、相手を殺したりしないよう注意して引き留めないといけないくらいだった。

 相手が一縷の望みをかけたらしい雷の神の加護も、闇と土の大神の加護で防いだり、マグナスさんの剣身で切り消したり弾き返したりね。


 ほとんどいじめに近い様相になってきたので、彼女が両手を上げてギブアップ宣言。彼女の持つメダル百枚以上、水の大神のメダル以外は回収させてもらってから、彼女も処置、しようとしたけど、浦島君を先に助けて欲しいという事で、彼の元へと転移して彼にかけた呪いを解いて処置してから、水野さんも処置完了。


 大神のメダルが揃ったところで、本命ともいうべき現在の主神アルゴニクスの加護を受けた秦野校長をどうすべきか。


「悩む事は無い。君がこれから為そうとしている事を完遂するつもりなら、私のメダルも手中に収めておくべきだろう」

「そうすべきか、校長というか主神にはまだそのままでいてもらった方が無難か、ちょっと微妙そうなもので。それに、倒す処置順番的に最後じゃなくていいんですか?」

「かまわないだろう。もう主神の座を巡る争いは無くなるのだから。まぁ、完全にこの戦いが仕組み的に終わる前に、私も君に叶えてもらいたい願いがあるのだが」

「かまいませんよ。想像はついてますから」

「では、心おきなくやってくれたまえ。加護レベルをつぎ込めば対話も継続できるからね」


 そして私は秦野校長の確率の神アルゴニクスの加護のメダルも他のと同様に処置した。

 その処置の内容は、こんなののセットだ。

 この神切マグナス剣で加護の象徴であるメダルを切られた神は、今回の戦いで敗北するだけでなく、次回以降の主神を決める戦いに参加できなくなる。

 敗北しても最後のメダルを奪われるまでは、プレイヤーは死なない。所持メダルがゼロ枚になって初めて死亡するからだ。

 だから、処置後のメダルの複製品を渡して、元のメダルを回収する事で、元のメダルを失っても命までは喪わない状態を実現した。複製スキルレベル100でも一応大丈夫ぽかったけど、確証が無かったので可能な限り高いレベルにして複製した。

 複製時に変質させて、このメダルは元のメダルとは違い加護スキルは喪失し、他人の複製メダルを奪っても加護レベルは上昇しないし、他人のメダルや複製メダルを奪おうとすると死亡ではなく消滅する様にした。命をつないでいる複製メダルごと。


 戦いは、ほぼほぼ終わった。


 後は、オタ五人衆とクロっちと輝人のつもりだったんだけど、オタ五人衆はクロっちに狩られてしまったと様子を見に行かせた輝人に報告を受けた。

 今度は輝人が早まってクロっちを殺さないようメッセージとかでなく伝達の神の加護スキルで説得し、いったんアルカストラに寄って休息してから、私は中央大陸南東部にいるクロっちの元に向かったのだった。

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