VRドラマシナリオ「二人きりの夜♡」

戯男

二人だけの夜♡

 一人暮らしの部屋。ローテーブルの前に胡坐をかいて座っている。

 壁際には液晶テレビ。机の上には取り皿と箸が二つずつ。



彼女「おまたせー」



 左側から彼女が登場する。両手にミトンを着け、土鍋を持っている。



彼女「ほらほら。鍋敷きちゃんと真ん中に置いて」



 彼女がテーブルの上に鍋を置く。



彼女「はーい、今日はおでんでーす」



 彼女が鍋の蓋を取る。鍋から湯気が立ち、まだグツグツ煮えているおでんが見える。



彼女「よそってあげるよ。わかってるって。最初はまず大根でしょ? ふふ。あーんして食べさせてあげよっか?」



 二人でしばらくおでんを食べる。途中彼女が台所に立ち、ビールの瓶とグラスを手に戻ってくる。酒もほどよく進み、だんだん彼女の頬に赤みが差してくる。



彼女「ふう。おなかいっぱい」



 箸を置く二人。暫し沈黙。



彼女「……ねえ。もうちょっとそっち行ってもいい?」



 向かいにいた彼女が隣に来る。

 沈黙。



彼女「……あ、そうだ。そういえばこないだ、友達からいいものもらったんだよね」



 彼女、ソファの上のリュックを引き寄せて中を探り始める。



彼女「ほらこれ。VRゴーグル。ねえ。どんなのかちょっとやってみてよ」



 彼女の手によってVRゴーグルを装着させられる。



 暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




 一人暮らしの部屋。ローテーブルの前に胡坐をかいて座っている。

 壁際には薄型テレビ。机の上には取り皿と箸が二つずつ。



彼女「おまたせー」



 下手から彼女が登場する。両手にミトンを着け、土鍋を持っている。



彼女「ほらほら、ちゃんと鍋敷き真ん中に置いて」



 彼女がテーブルの上に鍋を置く。



彼女「はーい。今日はおでんでーす」



 彼女が鍋の蓋を取る。湯気が立ち、まだグツグツ煮えているおでんの具が見える。



彼女「よそってあげるね。わかってるって。最初はまずガンモでしょ? ふふ。あーんして食べさせてあげよっか?」



 しばらく二人でおでんを食べる。途中彼女が台所に立ち、熱燗の徳利と猪口を二つ

持って戻ってくる。酒もほどよく進み、だんだん彼女の頬に朱が差してくる。



彼女「ふう。ちょっと酔っちゃったなあ」



 箸を置く二人。暫し沈黙。



彼女「ねえ。ちょっとそっち行ってもいい?」



 彼女が隣に座る。

 沈黙。

 彼女が頭を肩に乗せてくる。



彼女「……あ、そうだ。そういえばこないだ、友達からいいものもらったんだよね」



 彼女がソファの上のバッグを引き寄せ、中を探り始める。



彼女「ほらこれ。VRゴーグル。ねえ、どんなのかちょっとやってみてよ」



 彼女によってVRゴーグルを装着させられる。



 暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




 一人暮らしの部屋。ローテーブルの前に胡坐をかいて座っている。

 壁際には薄型テレビ。机の上には取り皿が二つとカセットコンロ。



彼女「おまたせー」



 左から彼女が登場する。手にミトンを着け、鉄鍋を持っている。



彼女「ほらほら。ちゃんとコンロ用意しといてって言ったでしょ」


 

 彼女がコンロの上に鍋を置く。



彼女「はーい。今日はすき焼きでーす」



 コンロに点火する。鎮まっていた鍋の中が再び滾り始める。



彼女「よそってあげるね。わかってるって。最初は焼き豆腐でしょ? ふふ。あーんして食べさせてあげよっか?」



 しばらくすき焼きを食べる二人。途中彼女が台所に立ち、熱燗の徳利と猪口を二つ持って戻ってくる。酒もほど良く進み、だんだん彼女の顔に朱が差してくる。



彼女「ふう。ちょっと酔っ払っちゃったなあ」



 箸を置く二人。暫し沈黙。



彼女「ねえ。ちょっとそっち行ってもいい?」



 凭れ掛かってくるように隣に座る彼女。

 沈黙。

 彼女のつむじがすぐ近くに見える。



彼女「ねえ。こないだの約束——憶えてる?」



 沈黙。



彼女「憶えてるよね。だから……だから食べてくれたんだよね?本当は全部わかってて、その上で私の料理を食べてくれたんだよね?」



 喀血。



彼女「ありがとう。ぐすっ。ありがとう」



 吐血。

 目の前が歪み、横ざまに倒れる。視界が色を失う。



 暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




 一人暮らしの部屋。ローテーブルの前に胡坐をかいて座っている。

 テーブルの向かいには彼女。ホットプレートでお好み焼きを焼いている。



彼女「もうちょっとまってね。これで卵のせたら完成だから」



 コテを使い、お好み焼きをひっくり返す彼女。うまく裏返ったお好み焼きを自慢げにコテでポンポン叩く。



彼女「スペシャルだからね。豚もイカもエビも入ってるんだから。ふふ。あーんして食べさせてあげよっか?」



 彼女が台所に立ち、サイダーのペットボトルとコップを手に戻ってくる。



彼女「お好み焼きといえばこれだよね」



 しばらくお好み焼きを食べる二人。ホットプレートの上で直に切り分け、それぞれコテで口に運ぶ。二人で合わせて三枚食べる。



彼女「いっぱい食べちゃった。苦しい」



 お腹をさする彼女。



彼女「あはは。すごい、妊娠してるみたい。ねえ。ちょっと触ってみてよ」



 手を伸ばし、彼女のお腹に触る。



彼女「ちょっと。くすぐったいって。あはは」



 彼女のお腹に爪を立てる。



彼女「たっ……え? 何? 痛いよ」



 さらに深く爪を立てる。



彼女「痛……痛いって! やめて!」



 机の上からコテを取り、逆手に握る。ソースに塗れた金属の表面が鈍く光る。



彼女「ちょっと……!」



 コテを振り下ろし、尖った角を腹部に突き立てる。



彼女「あああああああああ!」



 肉に食い込んだコテを抉り、さらに深く腹部に刺し込む。



彼女「いいいいいあああああああああ!」



 傷口から血と脂肪と内臓が飛び出し、彼女の体と床を汚す。

引き抜いたコテを再び振り上げ、彼女の鎖骨の少し上あたりに振り下ろす。

 噴き上がった血液で目の前が真っ赤になる。



彼女「あ……」



 腹部を押さえていた彼女の両手がだらりと落ちる。

 血の勢いが徐々に衰え、床に横たわる彼女が動かなくなる。

 右手のコテを持ち変え、自分のほうに角を向ける。

 それを勢い良く自分の喉につき立てる。

 鮮血が噴き上がる。



 やがて暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




彼女「……どうだった?」



 一人暮らしの部屋。

 彼女は片手にVRゴーグルを持っている。



彼女「面白かった? ねえ、どんな映像が見えたの?」



 テーブルの上にはおでんの鍋がある。



彼女「私もまだ見たことなかったんだよね。ちょっと怖いって話だったから、最初やってもらって様子を見ようと思って。ごめんね?」



 彼女が自分でVRゴーグルを装着しようとする。それを制し、強引にゴーグルを奪い取る。



彼女「えー? 何? そんなに怖かったんだ? ふふ。大げさじゃないの? お試し映像だからそんな怖くないって言ってたけどなあ?」



 手を伸ばしてゴーグルを取り返そうとする彼女。



彼女「えー。いいじゃん。大丈夫だよ。てかちょっと私もやりたくなっちゃった。大丈夫だって。いざとなったらあなたがいるんだから」



 ゴーグルに手を伸ばす彼女。



彼女「嘘つき」



 ゴーグルに向けて伸ばされていた彼女の手が、こちらの喉笛に絡みつく。

 そのまま首を締め上げられていく。



彼女「なんで殺したの? なんで殺したの? ねえ。なんで? なんで殺したのよ? ねえ。ねえ。なんで殺したの? なんで殺したの?」



 視界がだんだん色を失ってゆく。端のほうからだんだん光度が落ちていき、やがて視界は真っ暗になる。

 彼女の声が遠くに聞こえるが、何を言っているかまではわからない。



 完全な闇。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




彼女「……どうだった?」



 一人暮らしの部屋。

 彼女は片手にVRゴーグルを持っている。



彼女「面白かった? ねえ。どんな映像が見えたの?」



 テーブルの上の鍋にはおでんが残っている。



彼女「えへへ。実はまだ私も見たことないんだよね。ちょっと怖いやつって聞いてたから、最初に試しに見てもらって、それで大丈夫そうならやってみようと思って」



 彼女が自分でVRゴーグルを装着しようとする。それを制し、強引にゴーグルを奪い取る。



彼女「えー? 何? そんなに怖かったの? ふふふ。大げさじゃない? サンプルみたいなもんだからそんなに怖くないって話だったけど?」



 手を伸ばし、ゴーグルを取り返そうとする彼女。



彼女「いいじゃん。大丈夫だよ。実は結構ホラーとか平気だし」



 ほとんどのしかかってくるような姿勢でゴーグルに手を伸ばす彼女。

 その左頬に右の拳を叩き込む。

 のけぞって尻餅をつく彼女。



彼女「え……」



 立ち上がり、彼女のほうへ一歩近づく。

 彼女はその場で後ずさりする。



彼女「ご……ごめんなさい。そんなに怒ると思ってなくって……」



 後ずさる彼女を蹴り倒し、その上に馬乗りになる。

 両拳で顔面を交互に殴打する。



彼女「やっ……やめ……あが……」



 みるみる変形していく彼女の顔。折れた歯が飛んで床に転がる。



彼女「この……」


 一瞬の隙をついて彼女が体を起こし、テーブルの上のビール瓶を手に取る。

 轟音とともに、左目のすぐ近くで茶色の瓶が粉々になる。

 視界が歪み、横ざまに倒れる。全てのものが色を失っていく。



 暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




彼女「目が覚めた?」



 暗い部屋。その真ん中で、どうやら椅子に縛りつけられているらしい。手足は動かず、立ち上がることもできない。

 彼女は目の上にガーゼを貼り付けていて、頬は青黒く変色している。



彼女「いてて……」



 頬をさすってから、人差し指を自分の口の中に突っ込む。

 しばらくして何かを吐き出す。床に奥歯が転がる。



彼女「あーあ。抜けちゃった」


 それを指先でつまんで拾い上げ、暫し眺める彼女。

 近づいてきて、抜けた奥歯を目の前に突きつけてくる。



彼女「ねえ。あーんして食べさせてあげよっか?」



 首を振る。しかし彼女は近づいてくる。



彼女「あーん」



 口の中に固いものが転がり込んでくる音がする。

 すぐに吐き出す。



彼女「……吐いたね。あーあ。吐いちゃった」



 部屋の隅へ行き、テーブルの上からドリルを手に取る彼女。

 二三回空回しをする。モーターの音が部屋に響く。



彼女「せっかく食べさせてもらったものを吐き出すなんて……そんな悪い口にはお仕置きしないとね」



 彼女がドリルを構えて近づいてくる。太いドリルの先が近づいてくる。

 モーターの音がしてドリルが回り始める。



彼女「ほら。あーん」



 回転するドリルが口に差し込まれる。

 唇や歯や歯茎や舌が砕かれ、かき混ぜられる振動が、骨を伝って鼓膜に直接伝わってくる。



 暗転。

 しかしすぐに視界は復活する。




     ※ ※ ※




彼女「どうだった?」



 一人暮らしの部屋。

 彼女は片手にVRゴーグルを持っている。



彼女「面白かった? ねえ、どんな映像が見えたの?」



 テーブルの上のコンロにはすき焼き鍋。



彼女「えへへ。実はまだ自分では見てないんだよね。ちょっと怖いやつって聞いてたから。ごめんね?」



 彼女がゴーグルを装着しようとするのを制し、強引に奪い取る。



彼女「えー? 何? そんなに怖かったの? 大げさじゃない?」



 腕を伸ばし、ゴーグルを取り返そうとする彼女。

 しかしやがて諦め、元の場所に座る。



彼女「そんなに言うならそうするよ。ふふ。ありがとうね。デザート食べよっか」



 彼女は机の上のガラスの器とスプーンに手を伸ばす。



彼女「ほら。食べさせてあげる。あーん」



 スプーンの上には歯。



 暗転。




     ※ ※ ※





「……どうだった?」

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VRドラマシナリオ「二人きりの夜♡」 戯男 @tawareo

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