第2話

『転校生が来て欲しいです。退屈な毎日を変えるような刺激的な奴がいいです』


 無事、第一志望の高校に合格した僕は、勉強漬けの毎日に嫌気がさしていた。どうせ、僕が紙に行きたい大学名を書けば、その願いは必ずかなってしまう。それならば、勉強をそこまで必死にやる必要はない。


 だからこそ、僕は退屈な毎日に刺激を求めた。高校一年生の4月の終わりに、日直が回ってきたとき、学級日誌のコメントに転校生が欲しいと記入した。


 それはすぐに叶うことになる。


「転校生だ。席は真ん中の列の一番後ろが空いているな。そこに座ってくれ」


「ハイ」


 GW明け、転校生はやってきた。僕は転校生の性別を記入しなかった。男でも女でも自分を楽しませてくれるのなら、どちらでも良かった。ただ、刺激的な奴だったら誰でもいい。そいつは確かに僕にとっては刺激的な奴だった。


 ちょうど、名簿順で座っていた席で僕は、真ん中の列の一番後ろだった。そのさらに後ろに席を新たに設け、そこが転校生の席となった。転校生は自分の席に着くとき、僕の席の横で一瞬立ち止まった。そして、僕と目があった。その瞳の中には、怒りや憎悪と言った負の感情が読み取れた。


(これはおもしろくなりそうだ)


 どう頑張っても、僕が転校生を呼び寄せたという証拠は見つからないだろう。それなのに、転校生は僕が悪いと言わんばかりの態度だった。


 こうして、僕の波乱に満ちた高校生活が幕を開けた。


「ねえ、君は自分の能力がどれほど周りに不幸を及ぼしているか、気付いているだろう?」


「何のことだかわからないんだけど」


 転校生はさっそく、僕に接触してきた。転校初日は睨むだけで話しかけることもなくただ僕の後ろの席で、クラスメイトに囲まれていただけだった。高校生にもなって、GW明けという微妙な時期に転校生が来るのは珍しい。そのため、興味を持ったクラスメイトが転校生に群がることに不思議はない。しかし、すぐにその熱は冷めていく。次の日にはもう、クラスメイトの興味は薄れたのか、誰も転校生に近づくものはいなくなった。


 次の日、転校生は僕が一人でトイレに向かったのを見て、ついてきた。僕はツレションとかいう、仲間と一緒に行動するタイプではない。そこを見計らって転校生が話しかけてきた。突然、僕の能力の核心に触れた質問に白を切ってみる。


「それ以上、能力を使うつもりなら、僕は君を消さなくてはならない」


「能力者を排除するために、うちの高校にやってきたわけ、か」


 漫画みたいな展開だ。どうやら、転校生には僕を消すための算段が付いているようだ。転校生は、冗談を言っているようには見えない。真剣な表情でじっと僕の反応をうかがっている。


(さて、転校生をどう扱うべきか)


 転校生を意のままに操ることは簡単だ。他人を操るなど、紙に書いたことはないが、実現不可能な願いではないだろう。すでに自分の能力はどうやって知ったのかばれているはずだ。紙に書いたら何かしらの力が働いて、僕の言うことを聞かざるを得ない状況になるだろう。


「僕には能力が効かない」


 しかし、心を読まれてしまったのか、転校生は先に僕の行動を止めてきた。そんなことを言っても、試してみないとわからない。


「僕は君を排除して、これ以上、不幸な人間を増やさないようにしなくてはならない」


「そうなんだ。じゃあ、僕が不幸になってもいいというわけだね」


 僕の能力が効かないのは、はったりかもしれない。だとしたら、もっと面白いことを思いついた。


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