蒼人誕生編-Birth of Traveler-

第0.1話 蒼人誕生

僕は、夢を見ていた。

見覚えのある、懐かしい夢。


‥‥いや、この夢は夢じゃない。

これは、記憶だ。

過去の、今までの自分の記憶。

僕が産まれてから今にいたるまで、僕がどんな人生を歩んで来たかを記す記憶。

僕のこれまでの人生の記憶が、走馬灯のように流れてくる。


なぜこんな何気ない日にこんな夢を見るのか。

それはきっとこの夢から目覚めて朝を迎えた時、僕の物語が始まるからだろう。


人生は一つの物語だ。

人から生まれ、色んな人と出会い、様々な出来事と向き合って、自分の物語を作ってゆく。

それが人の歩む人生。


僕もこれまで長く大変な人生を歩んで来た。

色んな人と出会い、様々な出来事を乗り越えて来た。

僕が歩んで来た約二十年の出会いと出来事の記憶が、今の自分の存在を形成している。


僕は約二十年間人生という名の物語を作って来た。

そしてこの夢から覚めた時、また新しい物語が始まる。

ひょっとしたら、いつか誰かに僕の物語を観てもらうかもしれない。


せっかくだ。

僕の物語を観てもらうことになる皆さんに、僕のこれまでの人生の物語をお話しよう。


皆さんは僕の子供のころのお話なんて興味ないかもしれないけれど、僕の物語を観る人達に僕のことを知ってもらうために、僕の今までの人生をお話する。


皆さんが退屈しないように、僕の中で印象に残っている出来事をお話するとしよう。

出来るだけ短く済ませるので、しばし僕の思い出話にお付き合い願いたい。


それでは、僕の約二十年の思い出話を始めるとしよう。


蒼人誕生編-Birth of Traveler-


▽▽▽


21xx年、五月七日。


雪が溶けた春の日、とある田舎町に建つ一軒家の中で、[僕]は産まれた。

そして、僕が産まれてからすぐに、


母さんが死んだ。


母さんは僕を産む時衰弱していたらしく、出産の時にはすでに瀕死の状態だったそうだ。

母さんは僕を産んですべての生命力を使い果たし、産まれた僕の顔を見る事もなくこの世を去った。


母さんは自分に残った命全てを使いきり、僕をこの世界に解き放った。

まるで自分の命全てを僕に託すかのように。

僕は母さんに命と未来を託されたのだ。


僕が物心つく頃にはもう母さんが居た面影は無く、僕は母さんから与えられる思いを知る事無く、子供時代の十数年間を過ごす事になった。


▽▽▽


想為蒼人ささめソート

それが僕に与えられた名前。


僕の家族のメンバーは僕と亡くなった母さんと、僕と血が繋がらない義理の姉と、僕と義姉さんを一人で育てた父さんの四人(今は三人)家族だ。


父さんの名前は想為正義ささめマサヨシ

父さんは口数が少なく、必要な事以外はあまり喋らない人だ。でも生活するために必要なあらゆる事を教えてくれた。


外での移動の仕方、食事を自分で作る方法、人との関わり方、そして…世界での、戦い方。

世界で日々を送るためのこれらの説明、訓練は主に父さんから受けた。

特に世界で戦う方法、つまり戦闘手段は念入りに教えこまれた。


僕は生まれた時から生粋の[剣使い]だった。

そして父さんも凄腕の剣使いであり、とても強い父さんから得意の剣術を厳しく叩きこまれた。

おかげで今の僕はどの相手からも勝利を取りえる剣術の力を手にいれた。


次に、僕や父さんと血が繋がらない義理の姉。

義姉さんの名前は継菜ツグナ

義姉さんは父さんにも負けないほどの力を持つ[刀使い]だった。

その力は若い頃から誰にも負ける事が無く、いつの年でも刀使い界隈で無敗を誇る実力者だ。


そしてなぜか僕に対してとても生意気で、小さい頃からよくちょっかいをかけてきた。

無駄に体を押し付けて来たり、僕の好きな食事を横取りしたり、入浴中にいきなり入り込んで来たりと、義姉さんはうんざりするほど僕にいたずらを仕掛けて来た。


僕が恥じらいを覚えてからも義姉さんはいたずらを仕掛けていた。

ボディタッチもやたら多く、僕の純粋な男性としての心を振り回された。

皮肉な事に、義姉さんからのいたずらのおかげで女性に対しての緊張感が無くなり、どの女性に対しても落ち着いて対応出来るようになった。


義姉さんはいたずらをしながらも僕の面倒を見てくれて、僕もなんやかんや自分の事を考えてくれる義姉さんを信用していた。この時はまだ。


父さんと義姉さん、幼い頃は頃二人と一緒に三人で暮らしていた。義姉さんがいたからそこそこにぎやかだった。


そんな頃、僕はよく母さんが写る[記録画]を見ていた。

記録画は写真と映像、音声、文章を一枚のフィルムに納める事が出来る。

僕が見ていたのは母さんと父さん、義姉さんが写った家で撮られた記録画だった。

父さんを除いて、二人は笑顔だった。


僕は家族三人が写ったフィルムをタップして、母さんが書いたと思われる文章を表示した。

そこには母さんが、残された家族に向けて送る言葉が記されていた。


「親愛なる家族へ

この文章を見る時には、もう私はこの世にはいないだろう。


私は長い間、一つの世界と一つの家族を束ね、導いて来た。

その中で私は多くの人を惑わし傷つけ、悲しい目にあわせて来た。

私がこの世界から、あなた達の前からいなくなるのは、私が犯してきた罪に対する罰なのだろう。


私は、残される家族の事が心配でならない。

正義は子供達の事をちゃんと育てられるか。

継菜はしっかりとこの世界から立てるか。

蒼人は世界から何を学び、どんな未来を迎えるのか。


私は子供達に伝えたい事が山のようにある。

その事を伝える役目は正義に託した。

もう私に出来る事は何も無い。

ただ、これだけは伝えておきたい。


この先いかなる困難が訪れ、いかなる運命を辿ろうと、決して自分の信念を曲げないで。

どんな人と出会い何かを委ねられても、あなた達の未来を決めるのは、自分の意思だけだから。

自分の歩む道は自分で選びなさい。

自分の歩む運命は、自分で決めなさい。

それさえ出来れば、きっとこの広い世界を思うがままに巡る事が出来るでしょう。


子供達よ、健やかに育ちなさい。

そしていつか世界を巡り、自分の生きる意味を見つけなさい。

私は遠い場所で、あなた達を見守っている。

あなた達が自分にとって正しく、悔いのない物語を紡ぐ事を信じています。


無限の思いを込めて。

あなた達の母、想為聖羅ささめセイラより」


「…母さん…」


僕はその文章を読むたびに、心の中で泣いていた。


母さんの暖かさが、思いが感じられる文章に、母さんの面影を感じていた。


幼い頃も、今も心の中には家族のフィルムと母さんの文章が残ってる。

どんなに長い時間が経っても、僕は母さんの文章を、母さんがこの世界に残した思いを忘れる事は無いだろう。


時が経ち、僕は学校に入る。

そこで僕は、彼らと運命の出会いを迎える事になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る