第7話

「大変です! ゴードン王子がいらっしゃいました!」

 ライラは驚いて部屋を飛び出した。

 玄関にはグローサ国の紋章が入った馬車が止まっている。

「ゴードン様!?」

 ライラが驚いて声をあげると、二人の従者に囲まれたゴードン王子が気まずそうに笑って答えた。

「ライラ様、仮面の出来上がりが楽しみで……来てしまいました」


「まあ、お忙しいでしょうに……」

 ライラはゴードン王子を応接室に案内し、メイド長にお茶を出すようにお願いをしてから部屋に戻った。ライラは一番好きな桜色のドレスに着替えると、出来上がったばかりの仮面を持って応接室へ戻った。


「お待たせいたしました、ゴードン王子」

「素敵なドレスですね、似合っています」

「ありがとうございます。あの、これが作った仮面です」

 ライラは仮面をゴードン王子に渡した。

「これが……素敵な色合いですね。白と黒のコントラストが美しいです」

 ゴードン王子の言葉を聞いて、ライラは言った。


「早速ですが、つけていただけますか?」

「はい」

 ゴードン王子は後ろを向いて仮面をつけた。

「……いかがでしょう?」

 仮面をつけたゴードン王子は、生来の美しい右側の顔と、ミステリアスな仮面の存在感で、ライラには一回り大きくなったように感じられた。


「お似合いだと思います」

「そうですか? 鏡で確認したいのですが……」

「少しお待ちいただけますか?」

 ライラはメイドに鏡を持ってくるように頼んだ。

「待っている間に、お茶はいかがですか?」

「いただきます」

 ライラの言葉を聞いた別のメイドが、紅茶を用意するため部屋を出て行った。


 応接室にいるのはライラとゴードン王子だけになった。

「仮面をつけたまま飲食もできるよう気を付けました。仮面は私の前ではつけていても外していても、お好きなようにしてくださいませ」

 ゴードン王子はあいまいな笑みを浮かべた。

 紅茶をいれにメイドが戻ってきた。

 ゴードン王子の前にタルトと注ぎたての紅茶が置かれ、ライラの前にも同じものが並べられた。


「いただきます」

 ゴードン王子は静かに紅茶を飲んだ。

「お待たせいたしました、鏡をお持ちいたしました」

「ありがとう」

 ライラは受け取った手鏡をゴードン王子に渡した。

「いかがですか?」

「……思っていたよりも、もっと美しい仮面ですね。表情がないようで、どんな表情にも見えそうです」

 ゴードン王子の声が明るく響いた。


「これからは、この仮面をつけて舞踏会やティーパーティーにも積極的に参加するようにしたいと思います。ありがとう、ライラ様」

「よろこんでいただけて嬉しいです」

 ライラはふうと息をついて、紅茶を一口飲んだ。

「これで、マルクの前にも堂々と立てる気がします」

「え?」

 ライラの問いかけにゴードン王子は答えず、ただ笑みを浮かべていた。


「それでは、またお会いいたしましょう」

「はい」

 ゴードン王子は紅茶とタルトを残したまま、王宮へ帰っていった。

「……本当に待ちわびていらっしゃったのね」

 ライラはゴードン王子を乗せた馬車が見えなくなるまで、門の前に立っていた。

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