仮面の王子は真実の愛を知る
茜カナコ
第1話
「すまない、ライラ。隣国グローサの王子、ゴードン・シリウス様との縁談が決まった」
「え……? ゴードン様といえば、あまり良い評判を聞いたことがないのですが……」
ライラ・クロースは不安な面持ちで父親に訊ねた。
「ああ、中々人前に現れず、放蕩の限りを尽くし、民にも恨まれていると言う。しかし、隣国が責めてきたら我々の住むピコラ国は、なすすべがない」
「……生け贄、ということですか……?」
ライラは寂しそうな笑みを浮かべた。
「ゴードン王子とピコラ国の王女が結婚をする予定だったのだが……王女は『醜い王子と結婚するくらいなら命を絶ちます』とおっしゃってナイフを首元にあてたらしい」
ライラの父親は深いため息をついた。
「それで、私に白羽の矢が立ったということですか?」
「すまない、ライラ」
ライラはうなだれる父親に向かって言った。
「仕方の無いことです、お父様。……私で良いのならば……覚悟を決めましょう」
ライラの言葉を聞いた父親は、ライラを強く抱きしめた。
「大人しくしていれば、危害を加えられることはないだろう。……すまない」
「いいえ。辺境伯の娘として生まれたのですから、どこへ嫁ぐかは自分では決められないことだと思っていました。それに、今回の婚約は国を守るためには当然のことでしょう」
ライラは父親の顔を見つめ、にっこりと笑った。
「それに、噂だけでは真実はわかりません。実際に会ってみたら良い方かも知れませんし」
「……ありがとう、ライラ」
父親はライラをもう一度抱きしめると、ちいさな声で言った。
「辛いことがあったら、帰ってきてかまわないからな」
「……はい、お父様。……私、そろそろ部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。時間をとらせたね」
「いえ、では失礼致します」
ライラは栗色の長い髪をなびかせて、早足で自分の部屋に戻っていった。
部屋につき中に入ると、ライラは扉に鍵をかけてからベッドに顔をうずめて声を上げた。
「ああ! まさか私があの悪名高いゴードン様と婚約することになるなんて!!」
ライラは舞踏界でチラリと見たゴードンの火傷の跡の残る醜い顔を思い出し、暗い気持ちになった。
「ゴードン様……贅沢でわがままな王子だという噂だけれど……私に妻が務まるのかしら」
ひとしきり落ち込んだ後、ライラは冷静になった。
「キチンと話したこともないのに、相手を判断することは失礼ですよね……。ゴードン様と会って話をしなければ……」
トントン、とドアをノックする音が聞こえた。
「はい、何でしょう?」
「ライラ様、お食事の用意が出来ました」
ドアの向こうからメイドの声が聞こえた。
「すぐにまいります」
ライラは気持ちを切り替えて、夕食の席についた。
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