第154話 海の魔物
『魚の稚魚を貰った時に壺に入ってた酸素供給の石はまだ持ってるね?』
「うん、持ってるよ」
『吸血鬼騒ぎのあったルーエ侯爵領の海から、10日後に魔物が出るという神託が下ったよ。
ラナンと言う自分の騎士も得たし、罪の無い領民の為、倒しに行って徳を積んでみる?
新年のお祝いの神様の贈り物が数は増え無いけど良いものになるよ』
神託!? どうしてモモンガ似の妖精に神託が下るのか分からないけど聞いてもきっとはぐらかされる。
でも神様の贈り物は欲しいし、気になるし、人助けで徳を積めるなら良いのでは!?
「行く!! 行きたい!」
『じゃあ次は、親と国から許可を得ないとね』
「親と国……」
『吸血鬼騒ぎのあったルーエ侯爵邸は主人が行方不明になってて国の預かりになってるんだろう?
あそこの転移陣を使わせて貰うか、海に近い神殿に転移陣使用許可を求めないといけない』
「お父様に相談して来るわ」
「は!? 神託とはいえ、何故そんな危険な所にティアみたいな子供が行くんだ。
国と騎士に任せなさい」
「でも神託を持って来たのが私の妖精のリナルドなんですよ。
私じゃなくて良いなら他の人にこのお話は来るのでは?」
「……しかし……」
「お父様、私にもラナンと言う騎士もつきましたし、何も一人で挑むとは言っていません」
「……はあ、とにかく、国に神託の件を報告せねば……魔物が出るなら人命に関わるからな。
其方が現地に出向く話はとりあえず保留だ」
「はい……」
とりあえず国に報告してから判断するのは仕方ないね。
* *
数日後。
「国王陛下が聖下に神託の件が真実か問うたら確かにルーエ侯爵領から禍々しい気を感じるとの事で、国が護衛をつけてくれるそうだ。
どうしてもティアが行くと言うなら、私も出陣する」
「本当ですか! お父様! ありがとうございます!」
「全く。ルーエの民、人命に関わるから特別だぞ」
「はい!」
* *
さらに予言の日の2日前の昼。
「ティア、気をつけて、決して無理はしないで」
「はい、お母様。気をつけて行って参ります」
「シルヴィア、アシェル、留守は任せた」
「はい。あなた、お気をつけて」
「一緒に行けないのが残念だけど、ジーク、ティア、こちらは任せておいてくれ。
武運を祈ってるよ」
「「ありがとう」」
騎士っぽい服を着た私はお父様と騎士二人を連れて、転移陣からルーエ侯爵邸の庭園に飛んだ。
「来たな」
「ギルバート殿下! お誕生日あたりに会ったばかりなのに、また会いましたね」
何とギルバート殿下が側近を連れて、転移陣前にいたのである。
「また会いましたね、ではない。危険な事に首を突っ込んで」
「殿下こそ、ここは嫌な思い出がある場所でしょうに」
「其方が行くのに、私が来ないはずが無いだろう」
「何故ギルバート殿下が私の保護者みたいに」
「其方を守るためだ!」
うーん。
男として女の子を守りたいのだろうけど、臣下はこちらなので逆では?
「自分の身は自分で守りますので、ご自分の身を最優先で守って下さい」
う、眉間に縦皺。
殿下にものすっごく不本意って顔された。
「……とにかく、こちらを本拠地とし、一泊して、海の近くの神殿の転移陣から現場の海へ向かうと言う事だ」
「殿下、屋敷の部屋は適当に使って構わないのですか?」
「一応神官の手で館全体の浄化は済んでいるが、死体の無かった侯爵の部屋と侯爵夫人の部屋を分けて使うと言う事になっている。
私が侯爵の部屋、辺境伯とセレスティアナが夫人の部屋に。
ライリーから同行している騎士は空いている好きな部屋に」
「なるほど、ありがとうございます」
「お父様、ラナンは私達と一緒の部屋で良いですよね?
お部屋の中でもテントを使うか仕切りを作れば」
「ああ、それで良いよ」
「リナルド、魔物が出る正確な時間は分かるのか?」
殿下がリナルドに問うた。
『ごめん、そこまでは分からない』
「一応海辺の漁村の者には漁には出るなと警告はしてあるが」
「リナルド、どんな魔物が出るかは分かるのか?」
『海系だと思うけど』
「大雑把だが、仕方ないな」
まだ夜も明け切らぬような時間に、軽く食事を済ませて、海辺の神殿に転移した。
「流石に朝からは来ないかな?」
私は潮風に吹かれつつ、海を睨んでそう言った。
海辺で船の用意をする騎士達と、砂浜の背後の林でテントなどを用意している騎士達がいる。
騎士は総勢60人くらい。魔法師は30人。治癒師は10人って所。
ここには総勢100人くらいの部隊が派遣されていた。
「……セレスティアナ、な、なんだ? その格好は?」
「水中戦も対応出来るように水着姿ですが」
今の私は白のフリル付きの水着姿に、酸素石の入った小さな巾着袋を首から下げている。
「いやいや、そんな格好で戦闘をするやつがいるか!」
「鎧なんか着て船から落ちたら沈むのでは?」
「其方は船に乗ったり、海に入る必要は無い。砂浜の、後方で待機を」
「申し訳無いのですが、聞けません」
「ティア、せめてマントだけでも羽織ってみてはどうか」
「お父様……。水に入る時は脱ぎますけど、そうですね、マントくらいなら」
結局、お父様の要望で水着にマントという格好になってしまった。
ミスなんとかみたいな……マニアック。
* *
そして、逢魔が時になって、海から禍々しい気配が迫って来た。
「あ! あれは何だ!?」
「鮫だ! 鮫の魔物だ!」
「魔物だからって何故鮫が飛んで来るんだ! 飛び魚じゃあるまいし!」
何と鮫映画みたいに何故か鮫が沢山、飛んで来る!!
「戦闘用意!」
「抜剣!」
「迎撃せよ!」
「くらえ!」
「ストーンバレット!」
お父様の魔槍と私の魔法攻撃が空飛ぶ鮫に命中した!
鮫を貫いたお父様の魔槍は華麗に手元に戻っていた。
「燃えろ! 発火!」
「……チッ! 無理だった!! じゃあこれは……!!」
近くにいる殿下の側近のエイデンさんが魔力を高める気配を感じた。
軽やかに宙を舞って、鮫の体に一瞬手を触れた後、ブシャア!と目の前の鮫の魔物が口や目から勢血を噴出させた。
「体液沸騰いけた! 触るといけましたよ!」
殿下の側近のエイデンさんが声を上げた。
あ! あれか! 水か炎系魔力で体液蒸発や沸騰試してみろって私が以前言ったやつ!
何故か分からないけど、突然燃やすのは無理だったっぽい。
殿下の様子を見ると、風の精霊の力を使っているのか、疾風のように飛んで来る鮫を剣で斬り伏せている。
剣には私のあげた飾り紐の御守りがちゃんと付けられている。
ラナンも流石、戦闘タイプらしく、流れるような動きで剣を扱い、魔物の鮫を次々と倒していく。
マジで凄い。
まるで鮫が豆腐みたいにあっさりと切られていく。
皆が頑張って鮫の魔物を討伐して、だいぶ数を減らした所で、海から一際大きな水飛沫が上がった。
「クラーケンだ!」
「ギュオオオオオオ!!」
──クラーケンの声!?
巨大イカだ! 凄い! 触手モンスターだ!
いや、感心してる場合じゃない!
「広範囲魔法攻撃は待て! 誰か触手に捕まっている!」
「美女だ!?」
『あれは人魚だ! クラーケンに人魚が捕まっているよ!』
「え!? 本当だわ! 下半身が魚の美女!」
ズドッ!!
瞬間、クラーケンの眼球の間、急所を正確に驚異的な速度で槍が貫いた。
お父様の魔槍だ!
墨なのか、魔物の血液なのか、黒い液体をぶち撒けてクラーケンが海に沈み行く。
私はマントを脱ぎ捨て、叫びながら海へ走った。
「人魚さ──ん!」
私は首から下げていた巾着から酸素石を取り出して、口の中に入れて、海に入った。
「待て! セレスティアナ!」
「戦闘員! 残敵の鮫を倒せ!」
「「はっ!!」」
殿下が声を上げてから、水の中まで私の後を追って来る。
クラーケンは倒れても、触手が絡み付いたままの人魚さんを水中で発見!
私は手で触手を引き剥がそうとするも、しっかりと引っ付いて上手くいかない!
殿下や騎士が水に入って来て、触手を剣で切り裂いた。
私は触手から解放されても、まだ気絶してる人魚さんを横抱きにして陸に上がる。
ん? 殿下って水の中に鎧のまま?
見れば殿下とその騎士は光る薄い膜に覆われている。
「魔法で結界を張っていたんだ」
「え、凄い! 便利で器用ですね」
「だから騎士に任せておけば良かったのだ」
「さ、参加する事に意義があるんですよ」
「バカな事を言ってないで、早く服を着てくれ」
「まだ人魚さんが目を覚まして無いんですが」
『その人魚に外傷は無いけど、クラーケンに魔力を吸われたせいで枯渇状態だよ』
「リナルド。この人魚さん、寝てれば魔力は回復するの?
砂浜に寝かせるのと、水の中ではどちらが良いのか分かる?」
『波打ち際で大丈夫だよ。少し魔力を分けてあげれば良い』
「どうやって?」
『ティア、人魚の胸元に手を当てて魔力を流してみて』
「……失礼します」
私は人魚の柔らかな胸の上に手を重ね、魔力を流し込む。
長く波打つ銀髪の美しい人魚さんは、しばらくして目を覚ました。
伝説の人魚をこの腕に抱けたとか、マジで感動した!
しかも美女。
人魚さんは助けてくれた御礼をすると言って、一旦海に帰ったけど、すぐに戻って来て、大きなアコヤガイを2つと、真珠のネックレスを私にくれて、また海に帰って行った。
「私は魔力をあげただけなのに……触手を切ったのは殿下と騎士でしたよね。
この真珠、どうやって山分けします?」
「全部其方が持っておけ。
其方の妖精の予言で平民に魔物の被害が及ばなかったのだから」
「じゃあ、クラーケンを倒したお父様。
この真珠のネックレスを受け取って、お母様へのお土産にしてください」
「え? 良いのか?」
「はい。私はこのアコヤガイの中の真珠をいただきますし」
一応私もサメを魔法で9匹くらい倒したから、年始のご褒美も期待出来るし。
「殿下! 一応引き上げましたが、クラーケンの死体はいかが致しましょう!?」
騎士が砂浜にいる我々の側に駆け寄って質問に来た。
「ええと……」
「ギルバート殿下! クラーケンはイカ焼きじゃないのですか!?」
「は!?」
「シーフードでしょう? 食べられないのですか?」
「た、食べる? この巨大イカの死体を?」
殿下が、私を見て正気かお前?って顔してる。
『食べられるよ』
リナルドが食べれると言った! 妖精のお墨付き!
「せっかく仕留めたのですから、イカ焼きにして皆で食べましょう! タレ付きと塩味の二種で!」
「……もう、其方の好きにしろ」
やや呆れた様子の殿下だったが、食べてみると美味しかったので、結局喜んでいた。
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