第111話 光る風の中で
実物が来たので馬車の座席用スプリングコイル用の仕切り付きの袋をミシンで縫う。
内側が厚めの生地で綿もかませて外側は革。
その様子はもちろんマイラに見せ、今後の参考として貰った。
袋にコイルを入れて、実際に馬車の座面に組み込む。
その為に職人も呼んだ。
「これで、いかがでしょう?」
職人に促され、座面に座ってみる。
……今の所良さそう。
「ありがとう。近場で良いのでとりあえず実際に少し馬車を走らせてみましょう」
* *
両親と共にスプリングコイルを使った馬車に試乗してみた。
結果として、合格!
「これは……売れるでしょうね」
生粋の貴族のお母様にも売れるだろうと言う言葉をいただいた!
「後は出資してくれる人の分を優先で作って貰う事になるな」
「はい、お父様」
「試作品が成功したので本格的に量産体制に入ると、方々に連絡がいりますね。手紙を書きますわ」
「ありがとうございます。お母様、宜しくお願い致します」
お金が動くわよ〜。経済が回るよ〜。
* * *
朝活をしてステンドグラス風の祭壇用の神様の絵を完成させた。
早速飾り、朝の清廉な空気の中で、私は祭壇前で膝をつき、一人静かに祈りを捧げる。
この絵は窓から差し込む光を受けると、宝石の様に煌めく。
「明日は神様から頂いた種を畑に播きに行きます。どうか万事滞り無く、成功しますように……」
メイド伝てに祭壇用の絵が完成したと聞いて、朝から次々にお祈りに人がやってきた。
「おお、本当にできている。凄いなティア、綺麗に出来ている」
「まあ、本当、光を受けて神々しいわ」
両親とも思わずといった風に祭壇の絵に見入っていた。
それから集まった皆で膝をつき、胸の前で指を絡めて、お祈りをした。
* * *
ついに来たわこの時が。
菜の花畑が遠いので、今回はそちらは魔物の件で見送りになった。
なので先に砂糖とチョコレートの植物の畑から着手する事にしたのだ。
護衛騎士は馬で来たけど、私とお父様は改装したばかりの馬車で現地に来た。
リナルドは私の肩の上。
本日のコーデは淡いグリーンのワンピース。
「では、砂糖とチョコレート瓢箪畑に到着致しました。先に土魔法で耕し、肥料を混ぜて、土を作ります」
深く澄んだ青空の下、深呼吸をして、土魔法でボコボコと耕していく。
そして耕した畑に肥料を混ぜる。
この段階で農民に作業を代わって貰う。
作業終わりの差し入れとして、農民達に事前に準備して来たチーズバーガーとポーション入り果実水を渡すと喜ばれた。
「凄いです! 疲れが吹き飛びました!」
それはね、疲労回復のポーションがドリンクに混ざってるから。
「このお肉を挟んだパンもめちゃくちゃ美味しいです!」
「こんな美味い物初めて食べました!」
そうそう、チーズバーガーは私も大好き。美味しいよね。
「さて、いよいよ次は種播きね、最初の種のひとつまみ分は自分で植えてみます」
「大丈夫ですか、お嬢様、服が土で汚れてしまうのでは」
騎士が心配して声をかけてくれたけれど……
「大丈夫よ、服は、洗えば良いの」
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神様から頂いた、大切な種だもの……服より大事。種を播き、軽く土を被せる。
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「種を播くお嬢様のお姿があまりにも神々しく尊い……」
「プラチナブロンドがキラキラしてる。まるで大地に祝福を与える天使のようだ」
なんか大袈裟な事を言う誰かの声が聞こえたけれど、神様から賜った種を播いているから、もしかしなくても、これは神事ですか……?
柔らかくなった土に種を播いた。
砂糖の分とチョコレートの分、両方とも。
「……ふう、後は農夫の皆さんにお願いするわね」
「「「はい!」」」
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その時、一陣の風が吹いた。
私の長いプラチナブロンドの髪もふわりとなびいた。
思わず口をついて出た。
「良い風……」
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「「よーしやるぞ!」」
追い風みたいに、急に吹いた風の勢いに乗って、農夫達が張り切っている。
「……よし、しかと記録したぞ」
お父様は記録の宝珠を握りしめていた。
「お、お父様、いつの間にか撮影していたのですね」
「もちろんだ、留守番のシルヴィアにも後で見せてやらねば」
帰り道、ふと足元を見ると、畑の畦道にはいつの間にか祝福のような小さな白い花が咲いていた。
農夫達に後を任せて陽が沈む前に帰路につく。
馬車の中から春らしく新緑の草原や、森を眺めて、本当に蘇ってくれて良かったと思う。
その日は夜半から雨になった。
新しい畑に、神様が恵みの雨を降らせて下さったのかしら……
私は微かな雨音を聞きながら、ベッドの中で、心地よい眠りについた。
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