第95話 華やかなる騎士の声

 晩餐の最中。

 カレーライスを食べている殿下の反応を見ている私。

 どうですか、初のカレーは。


「味に深みがあるんだな。しみじみと美味しい料理だ」


 お、良い反応。 流石カレー!


「カリーには神様の下さったご褒美の調味料使ってるんです」


「な、なんて貴重な物をいきなり出すんだ!

というか、神様のご褒美とは調味料だったのか!?」


 あ、そう言えば神様のご褒美について殿下に詳しい説明をしてなかったかも。


「調味料とか、生きたお魚とかいただきましたけど」

「生きた魚!?」

「川に魚影が無くて寂しかったのを嘆いていたら、祭壇の壺に魚の稚魚が」

「ああ! 瘴気の影響で川に生き物がいなかったからか!」


 私は頷いて肯定した。


「殿下がお父様から受け取ったプリンにも、神様からいただいたバニラと言う調味料が少し入ってましたよ」

「やたら滑らかで甘くて美味しかったあれにも!?」

「調味料は使うと消費しますので、ある時しか食べられません。いずれ尽きます」


「ならば、先に知っていたらもっと有り難がって食べられたのに」

「そうですか、申し訳ありません」

「あ、まさかやたら美味しいこのロズスターのチーズ焼きにも神の何か」

「それは元々ロズスターとチーズが美味しいだけですね」


「なんだ、驚いた」

「では、この後出てくるデザートのケーキには神様のバニラが入っていますので、有り難く頂いて下さい」

「ああ……。甘味にか、姉上が泣いて悔しがりそうな」


「ケーキはシエンナ殿下用にお土産を用意してあります。

ホールなので陛下や王妃様もご一緒に、お召し上がりになると良いのでは」


「あ、あるのか。姉……いや、陛下達の分も、ありがとう」


「毒見とはいえ、とんでもない物をいただいてしまい、恐縮です」


 顔色を青くしていたエイデン殿が会話に混ざって来た。

 あまりの事にびっくりされているのね。 


「あら、エイデン殿はお仕事なのですから、お気になさらず」

「ライリーの者は平然としすぎでは?」


 殿下がすっかり驚いてしまっている。


「ちょっと年始あたりに神様のご褒美でお祭り状態だったのです。

面白くて私もはしゃいでおりましたよ」


 ミシン等の事は言って良いのかまだ分からないな、どうしよ。


「面白い?」


 人によって違う物が出てくる壺ガチャが面白かったんだもん。


「調味料の美味しさには内心で毎度、感謝と感動をしておりますよ」


 何故呆れ顔をされるのか。


「娘がせっかく貴重な調味料で振る舞っている料理ですので、どうか冷める前に美味しく食されて下さい」


 固まる殿下にイケボで優しく言葉をかけるお父様。


「た、確かに……それもそうだな」


 もう一度カトラリーを動かす事に成功して殿下は食べていく。

 良かった。


 調味料自体は前世で食した物と同じで、食す度に実家のような安心感を覚えていた私だけど、知らない人にとってはそういう反応になるのかな。


「ワミードの大きいエビも美味しいですよね」


 とりあえず両親にも話題を振る。


「本当にプリっとして、美味しいわ」

「これもこんなにチーズと合うんだな」


 うん、気に入ってくれたみたい。買って来て良かった。


「そろそろ、デザートのマンゴールのケーキを持って来てちょうだい」

 私は執事にそう命じた。



「おお、うま……い」


 ケーキの味に感動している殿下を見て、私も満足気に微笑んだ。


「今回はバニラと生クリームを使っています。

甘くて濃厚で美味しいけれど、食べ過ぎると太りますと、シエンナ殿下にも注意をされて下さいね。

お一人で食べないようにと」


「流石に陛下や王妃の分まで食べたりは……いや、しかしこれを先に食べたら知らんふりで食べかねないか、

ケーキは陛下に渡すとしよう」


「ティア、運動をすれば良いのでしょう?」


 おや、お母様も一応、カロリーを気にしておられるのか。

 いつも美しいけど太る事ってあるの?


「そうですね、お母様も何か運動をされますか?」

「寝る前にダンスでもするわ、ジーク、付き合ってくれるでしょう?」

「もちろんだとも、シルヴィア」


「わあ! 素敵! じゃあ私もお二人を宝珠で撮影に行きますので!」


 美男美女のダンス!


「貴方もせっかく殿下がおられるのでダンスの練習をなさい」

「で、殿下は移動が多くてお疲れかも」

「私はかまわない。 鍛えているから平気だ、疲れていない」


「……私は見てる方がいいんですけどね」

「ティア。殿下の許可が出たのですから」

「はい……」


 まあ、バドミントンよりは将来的に役に立つよね、ダンスは。

 白いブラウスとウエストの前部分が紐で編み上げになってる、レースアップフレアスカートの組み合わせでレッスンをしよう。


 私が成人してグラマラススタイルになっていたなら童◯を殺せたかもしれない衣装である。

 残念ながらまだその年齢やスタイルには遠い。

 

 * *


 ケーキを食べた後には小休止後に腹ごなしのダンスレッスン。


 こんな所まで来てダンスレッスンに付き合わされる殿下が気の毒なのだけど、程よく疲れたら夢も見ずにぐっすり安眠出来るかもしれない。


 お父様とお母様の華麗なダンスを撮影したり、こっちもお母様にダンスレッスンを撮影されたりした。

 記録されるとなれば、全く手が抜けない!

 流石は辺境伯夫人! しっかりしている。


 * *


 さてと、この後、寝る前のスケジュールは入浴と、聖下用の蝋燭を用意しよう。

 サロンの暖炉の側で蝋燭に絵を描いて、誰か来たら本でも読んで貰う。

 もちろん対価に夜食は出すから。


 殿下はダンスもしたし、お疲れなら入浴後にすぐ休まれるかも。



 と、思ったけど、サロンで私が活動している気配を察知したのか、殿下達が現れた。


「殿下達はダンスまでしてお疲れでは無いのですか?」

「神の調味料を使った料理を食べたのだぞ、まだ興奮が冷めやらぬ」

 あの後、ダンスまでしたのにまだ興奮状態ですと?


「そ、そうですか」

「また蝋燭に絵を描いているのだな」

「退屈ならそこに本も数冊置いておりますので」

「退屈では無い、俺に気にせず絵を描けばいい」


 中央のテーブルの上にはリナルドのふわふわの寝床の籠が置いてあり、リナルドはそこでくつろいでいる。

 その白く小さな背中をそっと撫でる殿下。

 小さなもふもふの良さに目覚めたのだろうか。


「殿下も蝋燭に絵を描いてみますか?」


 美術の勉強になるかもと、提案してみたけど……。


「見てる方が良い」

 

「そうですか。では、そこの金髪の……リアン様でしたよね? 

私の為にそこの歴史の本を読んでいただけますか?

作業しながらも勉強が出来るので、夜にサロンに来た騎士には毎回頼んでいるのです」


 殿下の側近ではあるけれど、せっかくなので朗読を希望する。


「この栞が挟まっている所から朗読すればよろしいのですね。勉強熱心で素晴らしいです」


 殿下の側近の中でも金髪で一番華やかで女性にモテてそうな方にお願いしてみた。

 どの位美形かと言うと、ラノベの表紙を飾ってるヒーローみたいな見た目をしてる。

 騎士と言うより、王子様みたいだ。


 でも、一旦先に王城に向かい、ライリーに殿下が泊まると連絡してくれた親切な騎士様だよね。


「そうです、口に出して読み上げをよろしくお願いします」

「はい」


 多くの女性を骨抜きに出来そうな笑顔だ。凄い。王子の側近凄い。


 イケメンのイケボ聴きながら勉強と作業出来るって良いよね!

 前世ならアニソン流しながら原稿とかやってた。

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