第33話 魔法の水と蝶

 虹色と銀色のお魚の名はクラルーテと言うらしい。

 白身魚だと聞いたので……うーん、餡かけでも作ろうか。 

 火は通すべきだよね。


 お昼のお魚レシピを考えてると、妖精のリナルドが近くに美味しくて食べられるキノコがあると言うので、採りに行った。


 見た目は前世で見たタマゴタケに似てる。傘の部分が赤くて可愛い。

 軸の部分、根本が卵の殻を突き破って生えてるみたいな外見。


 鮮やかなキノコだけど、本当に毒は無いわね?とリナルドに聞いた。やはり毒は無いと言われた。

 更に味見、いえ毒見。

 毒見は騎士のレザークがかってでた。

 ……どうやら無毒。


 殿下がいるのでキノコの安全性は目の前で証明しなければならない。

 

 開けた川の近くでお食事にする。

 敷き布の用意などをする。

 お料理セットや調味料を亜空間収納からお父様に出して貰って、石を組んで簡易かまども用意。


 採取したキノコとにんじん、玉ねぎを加えて白身魚クラルーテの餡かけを作った。


「甘さと程よい酸味…美味しい……これも初めて食べる味だ」



 殿下の食レポを聞くにお口に合ったようだ。

 お連れの騎士達も治癒魔法師さんも気に入ったみたい。 



「まさか辺境伯令嬢、自ら手料理を振る舞って下さるとは」



 殿下の騎士達がずいぶんと感激して下さっている。


 うちの騎士達にはもはやよくある事だと思う、私が手料理を振る舞うのは。

 でも料理人が覚えてくれたレシピの料理はだいぶん再現してくれるから

 楽させて貰ってる。


 もちろん魚だけだと足らないだろうから作り置きとはいえ、亜空間収納でほかほか出来立て同然の塩むすびとバゲットも出した。


 炭水化物のパンとおむすびは好きな方をどうぞ方式であったが、皆両方食べていたし、両方美味しいと言われた。


 デザートの果物は葡萄。そして焼きマシュマロとビスケットを出した。


 焼きマシュマロとビスケット。

 火があると作りたくなるやつ。

 殿下も串に刺したマシュマロを火で炙って楽しげで何より。

 記録の宝珠にも殿下のキャンプを楽しむ姿を記録。


 カメラ機能付き宝珠は私が手を離せ無い時はお父様やうちの騎士も撮影に協力してくれていた。


 マシュマロは焼いた後にビスケットにのせて食べる。

 マシュマロは苦手な方も多いのでちょっと心配だったけど好評でよかった。


 もっともマシュマロと言ってはいるけどバニラエッセンスの代わりにオレンジやいちごのフルーツペースト使っているので実はギモーブと言った方が良いのかもしれない。

 ゼラチンを使うのは変わらない。


 今回のキャンプ料理も全て、お父様も「美味しいよ」と、

 いつものイケボで言ってくれた。 

 うふふ。


 カメラ宝珠を握って、「すみません、今の台詞と笑顔、もう一度」などと、リクエストしていた。

 ほら、お母様も後から見るので。 ね?

 


 * * *


 収穫も有ったし、あと少し散策したら今日の所は一旦帰ろうと言う事になった。


 森の比較的浅い場所から森の奥をチラリと覗き見たけど確かに魔の森らしく、暗く鬱蒼として、怖い気配を感じる。まあ、奥と言っても現在地から見えるのは中程の所か。


 後日また森に来るのだろうか。今度はもっと奥に。殿下の気分次第かな。


 散策途中、近くに野苺と綺麗な花があるよ、と、リナルドに言われて少し進むと野苺を発見。

 そこそこ摘む。 やったー! 野苺美味しそう〜!


 さらに奥へ進むと野薔薇っぽい花発見!リナルドが言ってたのはこの花の事らしい。

 よく見ようと思って近寄ると右方向、目視可能な距離に木に寄りかかるようにして亡くなっている、白骨化した遺体を発見した。

 思わず息をのんだ。


 服や装備はぼろぼろだけど、首からは金属製のネームタグのようなものがぶら下がってるのが見える。

 ここで亡くなった冒険者のようだ。


「遺品としてギルドにあのタグだけでも持って帰ってあげた方が良いでしょうか?」


 私がお父様にそう聞くと、


「魔の森とはいえあまり深く無い所で亡くなってるのに誰も遺品の回収してないなら捜索に出されていない、身寄りも仲間もいないソロ冒険者だったのだろう。非業の死を遂げた遺体にはあまり触らない方がいい、よくないものが憑いて来る事がある」



 そう言われて、死の間際の邪竜に呪われ、死にかけた過去がある私は、せめてもと、思った事を願い出た。



「じゃあ、せめて、お花やお水を手向けるくらいなら良いでしょうか?」

 


 お父様にそれくらいならと、頷いて許可を貰えたので私は土魔法でスープを入れるお椀のような器を作った。

 お花は妖精のリナルドが綺麗だと言っていた野薔薇に似た白い花を摘んで供えた。


 本当は野苺も供えようと思ったけど魔物か動物が荒らしに来ると言われたので、水と花だけにした。


 私が器を持って、「お父様、水筒のお水を」と、言いかけたら、「俺が」と、殿下が言って、器に魔法で水を注いで下さった。


 魔法で作られた水は煌めいて透明で美しかった。思わず見惚れるほどに……。

 厳かな聖者の奇跡の様にも見える。

 

「……殿下自ら下さったお水で……光栄な事でしょう」


 私はそう言ってお花とお水を、遺体の側にお供えした。


 何となく綺麗だろうと思って、器のお水の中にお花を一つ入れたら、ふわりとどこからともなく、黒と緑と青のグラデーションの羽根を持つ綺麗な蝶が飛んで来た。


 ……昔どこかで蝶は亡くなった人の魂を運んで来ると聞いた事がある。

 もし、そうだったのなら、お花とお水…喜んでくれたかな……。


 殿下のもしもの時の治癒の為に同行していたのは神官さんだったようで、お祈りの言葉を唱えてくれた。


 私達は神官さんのお祈りの言葉を聞きながら胸の前で両手の指を絡め、亡くなった冒険者の冥福を祈った。

 



 ──今度は帰還する為に風が渡る森を注意深く進む。


 お祈り効果か魔の森とも思えない程に光が差す道を行き、森を抜けた。

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