第11話 事前準備①
「コホン、それじゃ、とりあえずはじめましての人に自己紹介しとこうか。
大宮3年の神崎 創です。最近、桃花さんと杏花さんのお義兄ちゃんになりました。よろしく」
場所を色鮮やかな花畑の近くの皆で座れる広いテーブルに移してまずは軽く自己紹介から始めることにした。
「じゃあ私からっ!
「はい、よろしくね」
元気だなぁ。自己紹介の通りなのだろう、EDEN内のアバターの外装も彼女が一番見た目に気を使ってるように見える。
いくつかのアクセサリがアバター用の課金アイテムだし。
「じゃあ、つぎ私。
「あっはっは、正直者だぁ。よろしく」
正直過ぎない?初対面だよね?怪しんでるのに堂々とそれ言っていいのかなぁ...?ちょっともっちゃんに似た雰囲気を感じる子だ。
「はいはい!じゃあ次私!
「君も正直だね...自分で言うのもなんだけど相当怪しいから。こういうの引っ掛からないようにね」
この子はリンゴに似てるかも。なんというか、心配でつい色々世話を焼きたくなる感じというか...
「では次は私が。お初にお目にかかります。
「おぉ...!お嬢様っぽい。よろしくね」
みんなが通ってる
今でもそれなりの名家は風習的な感じで御陵に入れることもあるとかないとか。鷲沢さんもそのタイプかな?
「えっと、あの、く、くくく
「そんな緊張しなくても良いんじゃない?リラックスリラックス」
「ひゃいぃ」
「...うん、とりあえずよろしくね」
うーん、絵にかいたような緊張っぷり。なんとなくだけど年上に好かれそうな感じがする娘だ。庇護欲的な?
一通りの自己紹介が終わり早速本題に入る。
「じゃあ、もう渡しちゃおっか。焦らしてもいいことないだろうし、事前準備に時間使いたいだろうしね」
「そう言えば引っ越しの時にも言ってましたよね?杏ちゃんに聞いておけばよかったかも...」
桃花さんと鷲沢さんと車井さん、あんまりこのゲームについて事前情報とかを調べてない子たちはなんことか見当がついてないみたいだ。
杏花さんとその友達は見当が付いているようで特に疑問には思っていないっぽい。普段、遊んでいるゲームのちがいによるものだろうか。
「あー事前準備ってのは読んで字のごとくなんだけど、OFTONの場合だと購入手続きとゲームのインストールはもちろん、アバター作成がゲーム開始前に出来るよ」
「自分の分身というかプレイヤーの容姿の設定ですよね?」
「うん、まぁこだわり強い奴はとことんこだわるからね。分かってると思うけどEDENベースのアバターからはかけ離れさせた方がいい」
「そうなんですか?」
「桃花さんたちはあんまり大人数で遊ぶゲームはやらないんだよね?」
頷く三人を見て、それならばと補足説明をしておく。
「ほら、EDENで使われてるアバターは現実の身体にかなり似通った容姿で作られてるじゃん?
OFTONでは初期アバターがEDENベースだから身バレの危険性があるんだよね。最低限髪の色弄ったりとかはしてた方がいいよ。
せっかくのゲームなんだから突飛な色を試したりするのも面白いかもね」
「詳しいんですね...」
感心した様子の鷲沢さんには申し訳ないが、マルチプレイメインのゲームをやってる人間なら当たり前のネットリテラシーだ。
「いや、この手のゲームだと必須の知識だからね。杏花さん達も知ってるでしょ」
「まぁ...」「知ってまーす」「ん」「はーい!」
片手間に購入権譲渡の手続きを進めながら初心者三人が楽しく遊べるように少しだけOFTONについて説明しておこうかな?
「はい、購入権譲渡したからアバター作っておいでよ。ゲーム開始前ならアバター変更は何度でも可能だから今全部決めなくてもいいよ。
アバター作り終わったら少しだけこのゲームの説明とかしようかなって思ってるんだけど...いる?」
「いいんですか?」
「まぁ、事前に出回ってる情報程度だけどねー」
「ぜひお願いしたいです」
「はーい、あっ受け渡し自体はもう終わりだから帰りたい子は帰っても大丈夫だけど...?」
多分、杏花さんたちは事前情報とかもしっかり確認してそうだし聞いてても退屈かな、と思ってそう言ってみたんだけど...
なにやら皆で固まって相談している様子。相談が終わると...
「いえ、私たちも残ります」
ということで、皆が購入手続きを終えるのを確認するとゲームのインストールと並行して各自アバター作成に行くことに。
「じゃあ、一時間ぐらいでここに再集合かな?アバター作り終わってログアウトするときにEDEN内で直前にいた場所を指定して戻ってくれば、ここに戻ってこれるから。
司は悪いけど留守番お願いね。俺もアバターは作り終わってるからすぐ戻ってくると思うけど、もっかいチェックしてくるから。その間は頼んだ」
「はいはい、先輩はともかく皆はじっくりアバター作ってきてね」
自分と彼女たちの扱いの差よ...ま、普段の行い的にしょうがないか。
「それじゃ、またあとでねー」
司以外がゲームにログインしたのを確認して俺もログインする。
#####
『Only Fairy-Tale ONLINEへようこそ。現在はリリース前の事前準備期間です。プレイすることはできません。アバター作成へと進みますか?』
機械らしさを全面的に押し出した電子音声に従ってアバター作成へと進む。
とはいえ既にあらかた作り終わってはいるんだけども...
『前回保存されているアバターがこちらです』
そう言って映し出されたのは自分とうり二つの姿。桃花さん達にはああ言ったが実は俺もあんまり容姿は弄ってない。
しいて挙げるならやっぱり体毛の色や瞳孔の色などだろう。
先天性白皮症、あるいは白化現象とも呼ばれる遺伝子疾患。俗にいうアルビノの容姿は目立ちすぎる。
容姿で困ったことはこれまでの人生で特にないが、身バレを考えるとそのあたりは変更しておくのが無難だろう。
自分で言うのもなんだが大学とかでも目立ってるし...
というわけでOFTONがファンタジー色の強いゲームであるという点からも今回はファンタジーな見た目に寄せてみた。
真っ白な髪を光に輝く金髪に
真っ赤な瞳を金髪に合うように鮮やかな碧眼に変えた
体格とかはあんまり変えてないが、骨格は少し弄った。というか、アバター作成で骨格まで弄れるのえぐいよなぁ。
より合理的な骨格の配置にすることで運動機能を若干向上させてある。
デザインとして存在する印象的な傷や刺繍は入れるかどうか迷ってこの前は入れなかったんだけど...なんか入れるか?
せっかくだからとペイントについて見てみるとずらーっと並んだ傷の表現や刺青の表現の多さに感嘆する。おっ!自分でデザインも出来るのかよ。
横一文字やバッテン、斜め傷に三本の鉤爪でつけられたような傷など多種多様だ。
刺青の方も魔術的な幾何学文様や神秘的なもの、炎などの自然現象を象ったものや動物や植物のものもある。
錦鯉の刺青など完全にそっちの筋の人が付けてるやつだ。(偏見だけど)
「これは悩むなぁ...アバターは基本的に変更不可らしいしこだわり強い奴はキャラメイクきつそ~」
思い当たる一人がこの空間で一人頭を抱えながら悩んでいる姿が目に浮かぶ。
適当に雫を象った入れ墨を左目の下に入れてみる。
「おっ、思ったよりいいじゃん」
涙っぽく水色にしてみるか...うーん、いや現実味の無い色の方が...いややっぱりこっちの...
#####
「うっし、これでいいか」
最終的に雫の刺青の色は紫にした。なんとなくこれが一番似合ってる気がしたから。
うん、他に弄るところもないしそろそろ戻るか。
『アバターに変更を適応しますか?』
肯定して、ログアウト時の移動先を直前にいた場所、つまりJardenierに設定。
“
どこからともなく聞こえたその声に一瞬だけ指を止める。
「うん、俺も楽しみにしてる」
ぽつりと独り言のような声量でそう返すと躊躇なくログアウトのボタンを押した。
#####
「あっおにーさんじゃん」「おつでーす」
その声に振り向くと、集合場所には
時間を確認すると30分経ってない。まだまだ他の子達は時間がかかりそうだ。
「おつおつ」
「思ったより時間かかりましたね?先輩」
「うん、顔に刺青だけ追加で入れてきた」
「あ~あの辺りも拘ろうと思ったら無限に時間溶けるからなぁ~」
うんうんと来栖さんが肯定してくれてる。
「二人はやっぱ既に作ってた感じ?」
「ですねー。まさか購入権を捻じ込んでもらえるとは思ってなかったから、めちゃびっくりです」
「...実際のところどうやったんですか?」
「んー?あー...そこはほら、あれだよ、あれ...伝手があったのよ。奇跡的に」
「奇跡的に?」
「うん。奇跡的に」
めっちゃ訝しそうにこちらを見てくる蛭間さん。我ながら言い訳が適当だなーとは思うよ。
「いや、適当ですか。先輩そういう所治さないとですよ。一部の教授の間でも不満が漏れてますからね?毎度その愚痴を聞かされる私の身にもなってくださいよ」
「えぇ~そんなの無視しときゃあいいのに。どうせザビ先とかその辺でしょ?対した成果もあげてない奴のことなんか気にする必要ないって」
「ザビ先?」「なんのことですか?」
「あぁ、
「ぶふっ」
来栖さんがツボにはまってしまったらしい。肩を震わせながら俯いてしまった。
「ていうか司、単位的にもザビ先関係ないよね?」
「まぁ、ザビエル教授は関係ないですけど。貒之里教授が...」
「あータヌ爺か。どうせ来年にはもう消えてるだろうし良いんじゃない?今年だけテキトーにやり過ごせば」
「あれ?定年でしたっけ?」
「いや、ここ数年成果出せてないらしいから来年の研究審査通らんのだって」
「あーなるほど」
「研究審査ってなんですか?」
俯いてツボにはまってしまった来栖さんを置いて蛭間さんは聞きなれない単語に質問してきた。
「端的に言うと教授陣に対するテストみたいなもんかな。ウチでは教授の勤続年数が5年って決まってて、5年の間に一定以上の研究成果を出さなきゃ大宮からは追い出されるんだよね。で、他の大学に転勤になるか企業に拾われることになる。審査に通ったらまた5年間は大宮働きって感じ」
「...結構厳しいんですね」
「んー...よく分かんないけどそんなもんじゃないの?一応ウチの大学世界的にも注目を集めてるし下手な教育するわけにもいかないだろうし」
「そういうもんですか」
「そういうもんだよ」
といった感じで話していると他の子達も徐々に終わりつつあるようで一人、また一人とこの場へと戻ってきた。
#####
「はーい、じゃあみんな揃ったしちょっとだけマルチプレイの際に気を付ける事とかOFTONの説明とかしようかな。疑問とか補足があったらその都度口挟んでもらう感じで」
「よろしくおねがいしまーす」「お願いします!」
といった風に軽いノリでゲームの説明が始まった。
「えーまずマルチで気を付ける事かな。大きく3つぐらい?」
「3つですか?」
「うん、一つは個人情報の厳守ね。マルチ、大人数が一緒くたにやるゲームだと色んな人間がいるからさ。現実で接点を持たせないように個人情報は絶対教えないようにね。
特に君たちは女の子だから邪な輩に声かけられたりもするだろうから。そういう意味でも注意。もちろんだけど友達の個人情報も厳守で」
「はーい」「気を付けます!」
「うんうん。二つ目はマナーと金銭関係かな、あと詐欺。さっきも言ったけど色んな人間が遊んでるからさ。無条件で初対面の人間を信用しないようにね。
あと、基本的なマナーは楽しく遊ぶためには必要だから。そんで金銭関係なんだけど...OFTONでは通貨としてネゴって単位が使われてるんだよね」
「ネゴ、ですか?」
「うん、そんでここからがOFTONの魅力の一つというか、他のゲームで真似できない部分なんだけど...ゲーム内通貨のネゴをEDEN内で使われてる仮想通貨のフェリンに変換できるんだよね」
「えぇっ!」「そんなことが...」
「画期的だよなぁ。まぁ、1000ネゴ=1フェリン、1フェリン=1円で換金効率は抑えられてはいるけどこれからはゲームで直接的に稼げる時代になるわけだ。
ゲームなんだから稼ぎ方なんていくらでもあるだろうしね」
そんな風に説明していると、来栖さんから質問が挙げられる。
「はーい質問いいですか?」
「どうぞー」
「私たちもそのことは知ってはいたんですけど...なんで他のゲームでは換金が出来なかったのかなって。
他のゲームでも似たような機能があってもおかしくなさそうって思ってたんだよね」
「あー意外と簡単なことでね。Demi-Godsが許可してなかったんだよ」
「Demi-Gods...たしか今回のゲームを作ったっていうAIのことですよね?都市伝説だと思ってた...」
桃花さんの言う通り彼女たちはこのゲームが発表されるまでその存在を都市伝説だと思われていた。
まぁ、それぐらい
「このゲームはそのDemi-Godsが作り上げたゲームだからね。
自分たちの特権を使ってこのゲーム特有のシステムにしたんじゃない?その方がメリットがあるって結論を出したんだろう。
...まぁそんなわけで金銭関係はしっかりね。他のゲームによっては課金は普通にあることだし、わざわざ高校生相手に言うことではないと思うけど」
頷いて肯定する皆を見てから次の話にシフトする。次はマルチゲームにおいて個人的にかなり重要なことだと思ってる。
「マルチで重要なことの最後は情報の取り扱いだな」
「個人情報の他にも気をつけろってことですか?」
「いや、情報といってもこれはゲーム内で手に入れた情報のこと。マルチプレイのゲームは個々人のプレイでゲームの進行が全く異なることが多々ある。
特に昨今のオンラインマルチはルート分岐なんかもえげつない作り込みがされてたりするしね。
だから公正であっても公平ではないし、情報の独占とかは良くある話なんだよね」
「結構殺伐としてるんですね...」
「全員が全員じゃないけどね。俗にいうガチ勢とかそういう連中は負けず嫌いが多いからさ。だから重要そうな情報とかは安易に話さない方がいいかも」
ここまでは基本的なマルチプレイの注意点。本題はここから、OFTONについて少しだけ詳しく説明していこう。
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