鬼才貴族の自由奔放な旅路~すべてを見通すこの眼で世界さえ見通す~

矛盾ピエロ

序章 幸福な呪い

第1話 鬼才生誕

 薄く開かれた瞼から覗く狭い世界に目を向けたとき、見えたのは両親の顔でも清潔な室内でも暖かく柔らかい日差しでもなく――――“感情”だったと思う。もやのように、或いは糸のように不定形に空間に立ち込める“それ”を感情だと認識したのはもっと後の話ではあるけれど生まれて初めて目にしたものとしては感情それに間違いなかった。


「奥様!生まれました!立派な男の子ですよ!」


 空気の振動が鼓膜を叩く。その感覚に奇妙なものを感じたことを今でも覚えてる。

当時を思い返している今、その感覚を説明するとしたら新鮮さと懐かしさが同時にやってくるようなそんな不思議な感覚。


 バタンッ!と何かが勢い良く衝突すると、

「シャルロッテ!」と凛としつつもどこか力強さを感じさせる声が室内に響いた。


「旦那様、落ち着いてください。そんなに声を張り上げては奥様にも坊ちゃまにもよろしくないですぞ」


「あ、あぁそうだな。ごめんよシャルロッテ」


「ふふ、大丈夫ですよユリウス」


「...その子が僕たちの子かい」


「えぇ、私たちの新しい家族です」


 そして――また感情が増える。

あか、あお、きいろ、しろ、みずいろ、ももいろ。いまだに足りない語彙では全ての色に名前を付けることは出来ないけれど、室内にはさらに多くの感情が混じりあい最早なにが見えているのかも分からなかった。もしかしたらなにも見えてはいなかったかもしれない。


 それでも決して不快ではなかったと思う。

もう何年か前のことだからやっぱりはっきりと覚えているわけではないけれどそんな気がしてる。


 とはいえ、圧倒的な情報量は小さく脆い身体に相当な負荷をかけていたことに変わりはなくて。

狭い視界の端でお互いに見つめ合う男性父さん女性母さんがいるのを認識した時にはすでに意識も消えかかり、半ば気絶するように消耗した体を休め始めた。




小さく儚く、世界に◎△$♪×%が誕生した

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