父と子と、ハンターと
クロノヒョウ
第1話
「パパ、何してるの?」
旅をしながら息子と訪れたとある町のとある山。
途中、ただならぬ気配を感じた俺は辺りを気にしながらひたすら山道を登った。
案の定、どうやら息子を狙ったハンターたちに見つかってしまったようで、俺は息子を背中に乗せて逃げ回り偶然見つけた山小屋の中に身を隠した。
小屋の中にあった木材で窓を塞いでいると息子が心配そうに俺を見ていた。
「悪い奴らからお前を守るためだ。少しの間辛抱してくれ」
俺は息子をギュッと抱きしめてそう言った。
「苦しいよパパ」
「はは、悪い。いいか、パパは窓とドアを塞いで誰も入れないようにバリケードを作る。お前はそうだな……おっ、ここに隠れていろ」
俺はそう言って床に見つけた扉を開けてみた。
大人でも充分入れそうな床下収納に息子を忍ばせた。
「いいか。何があっても出てくるんじゃないぞ」
「うん、わかった」
「閉めるぞ」
「うん……ねえパパ?」
「ん?」
「もしもの時は、パパ変身していいよ」
「ノア、お前……」
「ボク知ってるよ。パパが人間じゃないってこと。だからボクも……」
「ノア、いったいいつから……いや、そんなことは後だな。そうだよノア。パパはお前をどうしても守らなくちゃならない。その為にはなんだってするさ」
「うん」
「とにかく、ここでじっとしてるんだ」
「わかった。パパ気をつけてね」
床下の扉を閉めてその辺にあったカーペットを敷きさらにソファーを置いた。
俺は急いで窓とドアに板を打ち付けタンスや食器棚を壁に寄せて中に入れないようバリケードを作った。
だがこんなものはただの時間稼ぎにしかならないということもわかっていた。
最強のバリケードはこの俺だ。
もしもハンターたちが中に入ってきたら俺は変身して息子を守る。
そう心に決めた時にはもうドアをガンガン叩く音が聴こえてきていた。
息子を捕らえようとする人間から逃げ続けていたが、もはやこれまでか。
いやそんなこと考えている暇はない。
ドアに打ち付けた板がミシミシときしんできたところで俺はゆっくりと息を吸い込んで人間の姿から大きなドラゴンの姿へと変身した。
大きな羽根を広げ屋根を突き破り山小屋の周りを取り囲んでいたハンターたちに向かって炎の息を吹き掛けた。
小屋の周りに円を描くように炎の輪が出来た。
「わあっっ」
ハンターたちは一歩二歩と後ずさりしてただ炎を見つめることしか出来ずにいた。
これで諦めて退散することだろう。
俺はほっと胸を撫で下ろし人間の姿に戻った。
が、次の瞬間だった。
どこからともなく大量の水が降ってきた。
「ハッハッハ。お前が火を吹くことくらいお見通しさ」
「なんだと……?」
ドアのすき間から外を見るといつの間にかハンターたちの後方にはタンクを積んだ荷車が何台も停まっていた。
そこから次々に放出される水。
俺の炎のバリケードもすぐに消されようとしていた。
「くそっ」
「はは、残念だったな」
どうすることも出来ずにいるととうとうハンターの男がひとり、小屋に入ってきた。
「息子はどこだ?」
「さあな」
「ふむ。おそらくその床の下あたりに隠したんだろう。ハンターの嗅覚もなめられたもんだな」
「なぜだ。なぜ息子を狙うんだ」
「確かに……この世界はドラゴンと共存している。人間を殺さないという協定を結んでいるからな」
「ああそうだ。俺たちドラゴンは人間を殺したり食べたりしないという約束をちゃんと守ってる。なのに何故俺の息子が産まれたとたん狙われるんだ。そっちこそドラゴンを傷つけないという協定違反じゃないのか?」
「ドラゴンは傷つけない。だがお前の息子はどうだ? ドラゴンの子どもは蛇だ。なのにお前の息子は人間。それがどういう意味かはお前が一番よくわかっているだろう。ドラゴンと人間の間に産まれたハーフの子。彼がこれからどんな災いをもたらすか」
「そんなことまだわからないじゃないか。ノアはまだ普通の人間と何も変わらない小さな子どもなんだぞ。そんな子を捕まえようとするなんて酷すぎる」
「恨むなら自分を恨め。人間との子を作るなどという恐ろしいことをした自分をな。それに我々はただのハンターだ。ハンターは依頼を受けて仕事をする。それだけだ」
「じゃあ……ボクがおじさんに依頼するよ」
「ノア!」
「ほう……」
突然床下から顔を覗かせたノアが叫んだ。
「ノア、出てくるなと言っただろ」
俺はソファーをどけてノアを床下から出した。
「ハッハッ、面白いことを言うな、ハーフの子よ」
ハンターの男が愉快だと言わんばかりに笑った。
「で、この俺に何を依頼すると言うんだ?」
俺はノアの体を抱き寄せた。
「ノア……」
「パパ聞いて。パパには黙ってたけど、ボク、ちゃんとドラゴンみたいな姿になれたんだよ」
「まさか……本当か? ノア」
「うん。でもパパとちょっと違ったんだ。だから恥ずかしくて言えなかった。ごめんなさい」
「いいんだ。いいんだよノア」
「ほう、それは面白い」
「それでね、ボク知ってるよ。ハンターのおじさんの国は毎日日照りが続いて大変なんだって。だからおじさんは一所懸命仕事して国のみんなの為にお金を稼いでるんだ」
「な、なぜそんなことをお前が」
ハンターの顔を見る限り、それは嘘ではないようだった。
「ノア、誰に聞いたんだ?」
「変身してお空を飛んでたらね、りゅうじんさまっていうカッコいいお爺さんがいて教えてくれたんだ」
「竜神様……?」
「それでね、ボクならおじさんの国を救えるんだって」
「どういうことだ」
ハンターが真剣な顔をしてノアに聞いた。
「ボクがおじさんの国に雨を降らせるんだよ。そうしたらおじさんの国はゆうふくになるって言ってた。だからボクがおじさんに依頼するよ。おじさん、パパとボクを守って。そしたらボクがおじさんの国をゆうふくにしてあげるから」
「なっ……なんと……。ハッハッハ。それは面白い。面白いぞハーフの子よ。ハッハッハ……」
ハンターの男は口を大きく開けて笑っていた。
「よしわかった! その依頼、引き受けよう!」
「おい! 本当にいいのか?」
「やったねパパ!」
「いいも何も、俺にとっては願ってもないことだ」
「ち、ちょっと待て! お前はこの子の、ノアの言うことを信じるのか?」
「ははっ、ハンターの嗅覚をなめるなと言っただろう。その子が嘘をついてないことだけは俺にはわかる」
「お前……」
「そうと決まればすぐに故郷に帰ろうではないか。お前たちの住む場所もすぐに用意する。先に行って待ってるぞ! ハハハ……」
「おい……」
「おじさん、ありがとう!」
ハンターは笑いながら山小屋を出ていった。
「よかったねパパ!」
「ノア!」
俺はノアをまた強く抱きしめた。
「なんて立派な息子なんだ」
「苦しいよパパ」
「はは、悪い悪い」
「ねえ、ボクたちも早く行こう」
「ああ、そうだな」
そう言って俺とノアは一緒に空を見上げた。
故郷に帰るハンターたちの頭上。
一匹のドラゴンと一匹の竜が楽しそうに仲良く大空を飛んでいた。
完
父と子と、ハンターと クロノヒョウ @kurono-hyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます