第38話陽葵ちゃんを奪還する作戦会議

「しいくがかり先生。お待ちしておりました」


「わざわざ出向いてくれなくても……辻堂さん」


マルカワ出版の社屋の車よせにわざわざ出迎えに来てくれた担当編集の辻堂さん。


わざわざリムジンで送り迎えしてくれた上、大人にこんな待遇をされると心苦しい。


しかし辻堂さんは何故かその綺麗な眉を釣り上げると俺に指摘して来た。


「先生。先生はご自身の事を理解されておりません。先生の小説が何万部売れているのか把握されています?」


「えっと、確かこの間100万部を超えたとか?」


「そうです。我が社に年10億近い売上を与えてくれた上、アニメ化で更に売れそうです。それに例の『最恐の吸血鬼になるぞ』のゲームが大当たりでこれまた10億近い売り上げを……あのゲーム会社は我が社の子会社です。先生は我マルカワグループのVIPなのです。ご自覚ください!」


「で、でも、だからってここまで良くしてもらうなんて……ここまで来るのに電車でもそれ程時間変わらないし」


「そういう問題ではございません。電車で移動中に万が一刺されなどしたらどうします?」


ええ!? そこまで考える?


「それに運転手をクビにしても良いと?」


「い、いや! おじさんはいい人だから止めて!」


「なら大人しくVIP扱いされてください」


「は、はい」


やっぱり辻堂さんは大人らしくあっさり俺を納得させる。


でも正直こんな高待遇だと本当にむず痒い。


「まあ、それより今日は陽葵さんの事で」


「はい。お願いします」


「辻堂さんすいません。公私混同なのはわかってるのですが」


「陽葵さん。ご安心下さい。担当としては先生のメンタルを整えるのも努めです。ですから公私混同ではありません。むしろ経費でフレンチをご馳走になってる私の方が公私混同!」


それは確かにそうだと思った、うん。打ち合わせにフレンチの店使うの俺だけだと思う。


まあ、フレンチのシェフが俺のファンだと辻堂さんが聞きつけて行ったのが始まりだけど。


まさかお店の人がみんな俺のファンだとは思わなかった。お店の人もお互い同じ趣味で驚いていたけど。


☆☆☆


「そういうことですか……陽葵さんがそんな名家なんて……びっくりしましたが……しかし気を落とさないでください先生! 先生だってフツメンですけど我が社の社長令息!」


「辻堂さん。応援するかディスるかのどっちかだけにして……」


「は? わたくし先生をディスるようなこと言いました?」


「陽葵ちゃん、お、俺」


「先輩、辻堂さんなこれっぽっちも先輩ばディスたりしとらんばい。どげんしたと?」


「う、うう」


愛する陽葵ちゃんにすらフツメン扱いをスルーされた。そりゃ俺はフツメンだけど、そこまではっきり言われると傷つくんですけど?


「そんなことより」


そんなことなの?


「そうばい先輩、そげんことより事態ばどう収拾するか話し合おう」


「そうです先生。陽葵さんの婚約パーティはもう明日と迫ってるんですよ」


「う、うん。そうだけど」


「「何をいじけてるんですか?」」


どうせ美人の辻堂さんや可愛い陽葵ちゃんにはフツメンのことはわかんないんだよ。


自分でもわかってるけど、はっきりフツメンと言われると傷つく。


「わかりました……二人共美人だから俺の気持ちはわからないですよね。いいんですよ」


「「は?」」


「ごめん。もういいから前後作を考えましょう!」


俺は冷静に考えて養父の力を借りようと思った。養子になったばかりで心苦しいが俺の本当の親より力になってくれるように思える。


俺は二人に自分の考えを話した。


「陽葵ちゃん、辻堂さん、俺、お父さんの力を借りようと思う。こんな時の家族だと思う」


「駄目です先生!」


「そうばい先輩!」


「な、何で?」


俺は意味がわからなかった。どう考えてもいい意見だと思う。お養父さんはマルカワ出版の社長で経済界にも顔が効く。出版界という業界は企業規模の割に意外と発言力があるんだ。


「何で駄目なの? 絶対いい方法だと思うぞ?」


「先輩は乙女心がわからんとね?」


「そうですよ、先生。囚われの乙女が明日意に沿わぬ相手と無理やり婚約させられるんですよ? 男ならやることは一つでしょう?」


「そうばい先輩!」


気のせいか二人は興奮しているような気がする。まさかのシチュエーション萌え?


「じゃ、俺はどうすればいいの?」


「そんなの男なら力ずくで婚約会場に囚われの姫を奪いに行くに決まってるでしょ!」


「そうばい。先輩はきっと愛するうちば取り戻す為に明日ん婚約披露会場んドアば『バンッ』て開けて陽葵ば救いに来てくるーと信じとー!」


「_____マジ?」


「「マジです!!」」


こうして俺は明日の婚約会場に突撃するはめになった。


何故こうなった?

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