序盤で死ぬ最弱の幼馴染に転生してしまったので、最強の裏ボスと力を合わせて【変身】する

恋2=サクシア

第1話 チーレム無自覚……こんなテンプレ、廃れちまえ

「なんだこの。つまんな」


 『GAME CLEAR』という文字が目の前で躍る中、男は吐き捨てるように呟いた。


 とある伝説のクリエイターが作ったファンタジーVRRPG『世界に幸福を、』――略して『せかふく』をプレイしていたのだが、彼はがっくりと肩を落とした。


「主人公強すぎ、敵雑魚すぎ、どんな奴でも倒せちゃう一撃奥義。これ、無双ゲー? それとも、ただのクソゲー? こんなんやってて、みんな楽しいの?」


 そう……このゲームの主人公は強い。


 なにせ『勇者の加護』というユニークスキル持ち。全属性の魔法に適応、武器も全部プロ並みに扱うことができる。故に職業ジョブも自由に入れ替え可能。

 プレイヤーが自由にカスタマイズできるように上手く陥れた設定だが……いかんせんパワーバランスが悪い。


 まあ百歩譲って主人公が強いのはまだいい。レベルを上げていくゲームとして、プレイヤーにストレスを感じさせないという利点がある。


 男が一番不満に思っているのは――メインストーリーそのものだ。


「なんで主人公の仲間は女の子ばっかなの? 一人くらい男キャラ出してくれよ。男のピンチには間に合わないくせに、ヒロインのピンチには必ず白馬の王子様のように駆けつける、そのご都合展開はなんなんだよ」


 『君は僕が必ず守る』――だなんて、ガムシロップに砂糖と蜂蜜を混ぜ合わせたような主人公の台詞を思い返しただけで吐き気がしてくる。


「もっとこう、あったでしょう? かっこいい悪役を出したりさ。なんで死ぬの男キャラだけなんだ? しかも絵に描いたようなクズばっか、結果的に御陀仏ばっか。あと露骨な主人公ヨイショも気持ち悪い。関わった奴ら、みんな主人公を褒めてしかない。そりゃまあ『勇者』っていう特別な存在だから、基本的に羨望の目に見られるのはわかるよ? けどさぁ……一人ぐらいいたっていいんじゃないの? 勇者を否定する人間が。なんで全肯定野郎ばっかなの? ……ああぁぁぁ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」


 早口で捲し立てる。SNS上なら一瞬で燃え上がりそうな発言だが、深く理解してくれる者だっているだろう。


 実際、『せかふく』は『メインストーリーはオマケ』『スキップ推奨』という評価が多い。真の面白さは自由度の高いクラフトと未だ発掘される裏技にこそある。


 『メインストーリーは無視しろ』――そんな前評判は重々承知だが、それでもストーリーをも重視する男にとっては許しがたいものだ。


「あーあ。こんなんだったら序盤に死んだショウくんの方がよっぽど主人公に向いてるでしょ」


 ふと、名前を挙げたのは、『主人公の幼馴染み』と設定されている男の中でも唯一の良心、ショウ。

 気も戦闘力も弱い彼は序盤でモンスターに殺されてしまうのだが……その死に様はすごく魅せられた。


 絶対勝てない闇のドラゴン、『グリムドラゴン』に襲われた妹を助けるため、弱くても身体を張った勇敢さ。


「超かっこいいじゃん、あれぞ男じゃん。それをあっさり倒せちゃう主人公には感情移入できねえわ。あとなんでその後、ショウくんの妹も攻略対象になってんだよ。見てて気分悪いし、攻略する気にもならねぇわ」


 攻略対象のヒロインが多いというのも、またこのゲームの魅力なのだが……なんでもかんでも主人公に恋してしまうキャラにも、なんの魅力も感じない。


 ところで、彼がこんなにもショウというキャラクターに感情移入するのは、ただ単に男もまた名前がショウという、実にしょうもない理由である。


「チート、ハーレム、ご都合展開、主人公ヨイショ、また俺、なんかやっちゃいました? なに? 最近流行ってるからって、こんななろうみたいなストーリーにしちゃったの? 悪いけど、全然面白くないから」


 最近『面白い』とネットで噂になっているので、興味本位にプレイしてみたが……とんだ期待はずれだった。


「【ログアウト】」


 そう呟いた瞬間、辺り一面真っ暗になる。

 ズシリと頭に何か装着されている感覚を覚えた時、男は目を覚ました。


「……はぁあ~」


 体を起き上がらせ、深いため息をつく。


「もういいや。別ゲーやろ」


 と。

 誰もいない部屋、ダイブ型VRゲームをプレイするためのヘルメット『V-GEAR』をしていても……別の気配があることに気がついた。


 自分以外の誰かがこの部屋にいる? いや、ありえない。男は独身一人暮らし。

 知らないうちに誰かがいるなんて――明らかにおかしい。


「えっ――」


 だが、もう遅かった。気づいた時には、その影はもう既に懐まで忍び寄っていたのだから。


「あっ……?」


脇腹に鋭い痛みを感じる。


「あっ、あぁっ……!?」


 なにか叫ぶ前に、男の体は膝から崩れ落ちた。


「やめ、がぷぇっ! ごぽっ! ぇ゛っ!」


 ようやく叫ぼうとした瞬間、喉元を刺される。抵抗が出来ない男に対し、尚も串刺ししていく。


 全身が痛い。呼吸ができない。誰にも助けを求められない。


 ――嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない死にたくない、まだ死にたくない!


 わけもわからず、フローリングに赤い絨毯を広げながら……男の意識はそこで途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る