第19話 二年生 9月
3年生は受験で忙しく、勉強に集中させたい、と言うことで、修学旅行は2年生の9月にある。
由衣夏の高校は、私立らしく行き先は海外だった。
しかも、ハワイ。
調べると思った以上に飛行機に乗る時間が長い。
台湾やグアムではいけないのか?と思ったが、クラスメイトは台湾やグラムなどは子どもの頃から何度も行っている子が多く、ハワイですら、発表された時にまたハワイか〜と言う声が聞こえた。
由衣夏は飛行機に乗っている時間が長いのがイヤだったが、旅慣れたクラスメイトに言わせると、寝てしまえば大して変わらない、そうだ。
ツインルームの部屋割りで、日村ユウが一緒の部屋になってほしい、と言ってきたので、ユウと同じ部屋に決まった。
「もう、たまには別の人と一緒にいたいけんね。
このままじゃ、うち、ほんまに誰とも友だちになれんわあ」
ミミにべったりとされているから、気持ちはわかる。
1年生の4月から日村ユウがいたら、由衣夏はミミとべったりすることはなく、あの事件もなかったかもしれないなあ、と思った。
そうしたら、紘美に告白することもなく・・・。
ユウ以外のクラスメイトが全員知っているのだなあ。
もしかしたら、まだ由衣夏はレズだと疑われているかもしれなかった。
紘美は紗栄子と同じ部屋になるだろうし、ミミと同じ部屋になるのは由衣夏の方から願い下げだ。
そうすると、一緒の部屋になってくれる子は、せいぜいジュリかユウに限られてしまう。
ミミはジュリと同じ部屋になるようだ。
まあ、落ち着くべきところに決まったようだ。
みんなは免税店でお土産を頼まれたから買い物を頼まれてタイヘンだとか言っているが、由衣夏の母はブランド品や化粧品に興味がなさそうで、チョコレートを自宅とバイト先に買うくらいでよかった。
それより、南国の海ってどんなだろう、と思っていた。
青い海、ってものを見たことがなかったから、海を楽しみにしていたが、クラスメイトは日焼けしたくない、と言って誰も海には行かないと言う。
もしかしたら、レズの前で水着になりたくない、ということかもしれない。
それは由衣夏の被害妄想だろうか。
ひとりで行っても仕方がないが、ホテルのプールで泳ぐかもしれないから、いちおう水着は持っていくことにした。
初めての海外旅行なので、薬とか生理用品とか、もしもの場合のためを考えてしまって荷物がどんどん増えていく。
ユウが、シャンプーとかはホテルについてるし、タオルもあるだろうし、足りなかったら貸してあげるから、着替えと日焼けどめと歯ブラシだけは絶対忘れなければ大丈夫だと言ってくれた。
足りないものがあれば、大概はABCストアで買えるし、ワイキキは都会だから大丈夫だと。
パスポートと飛行機のチケットさえあれば日本に帰ってこれるから、大丈夫大丈夫、と言って安心させてくれた。
そんなこんなで、飛行機の中では揺れにいちいち反応してしまい、一睡もできなかったが、どうにかワイキキの空港に到着し、ホテルまでたどり着くことができ、オリエンテーションの後、自分の部屋に入った時は安堵の息をついた。
やっぱり、思った以上に遠かった。
飛行機はトイレも狭いし、トイレ中に揺れるし、怖すぎた。
「ベッド、うちはどっちでもええよ」
と、ユウが言ってくれるので、窓の方を選んだ。
「あ、そっち、よかった。
うち、眩しいのイヤじゃけ」
部屋の壁にドアがあったので、これは何か、と聞くと、ユウもわからないと言う。
もうひとつ部屋があるのか?と言うと、スイートでもないし、そんなに広い部屋じゃないはずだと言う。
ノックをしてみると、ノックが返ってきた。
思い切って開けてみると、紗栄子が立っていた。
「うわあ、何、ふた部屋続いてるん?」
どうやら紘美と紗栄子の部屋と続いているようだ。
4人になれたし、部屋も広く感じることが出来て嬉しかった。
「今からちょっと周りでも散歩しよっかって言うてるねんけど、来る?」
と言ってくれるので、一緒に行くことにした。
パスポートとすぐに使わないお金は、部屋のセキュリティボックスに入れよう、と言う話になった。
パスワードをどうする?と言うと、紘美が、
「163163。
これにしよ。
ひろみひろみ、やで。
覚えやすいやろ」
と、由衣夏の顔を見て言う。
そりゃあもう、絶対間違えないわ。
他の2名もそれでいい、と言うのであっさり決まった。
「ご飯がぜんぶついとるけ、お金ほとんどいらんね。
うち、別にわざわざハワイで買うもんなんかないけ。
同じもん、日本でも売っとるもん」
ユウも特に化粧品とか興味ないようだ。
しかし、紘美は免税店に行きたい、と言うので、せっかく来たから由衣夏も行ってみたいと思った。
免税店に入ると、さっそく音楽グループとすれ違った。
空港でも買い物をしていたのを見たが、まだまだ買うようだ。
トランクもヴィトンだったし、すごいなあ、と呆気にとられていた。
由衣夏はマスカラや口紅には興味はなかったが、香水を買いたいと思っていた。
こんな大人の女性になりたい、と思えるような、ちょっと背伸びをした香水が欲しかった。
免税、と言え、由衣夏にはけっこうなお値段だったが、ひとつだけなら自分に買ってもいいと思っていた。
由衣夏も多少はメイクをするが、ドラッグストアのプチプラを使っていた。
あまり派手にメイクをするのが苦手だったから、マスカラも透明を使っていたし、リップもうっすら色がつくものしか使わなかった。
紘美は化粧品は化粧品でも、ボディケアものを見ていた。
由衣夏はそれを見て、そうか、体もいろいろやることがあるのか・・・と思って驚いていた。
セックスをするようになると、見られるのは顔だけじゃないのだ。
紘美は由衣夏を見つけると、
「ここのスクラブとオイル、使ってるで」
と、教えてくれた。
クラランスのスクラブとオイルを勧められた。
それを使うとお尻がツルツルになって喜ばれるそうだ。
聞いていて、ちょっと悲しいが、顔以外にもお金をかけて努力しているんだなあと思った。
自分はセックスすることはないが、だからと言って手を抜いていてもいいわけじゃないよなあと思ったが、何からすればいいのか見当もつかなかった。
ビオレのボディソープで洗ってるだけだった。
お尻ってスクラブをするとツルツルになるのか・・・。
今日お風呂で自分のお尻を触ってみよう。
ガサガサだったら、自分もスクラブを買おう。
今日のところは、香水をいくつか香りを嗅いで、最終日までに決めて買いにこよう。
由衣夏はすぐに見るものがなくなってしまったが、紘美と紗栄子はまだ見たがっていた。
ユウも退屈そうだったので、ふたりとは別れてユウが言っていたABCストアに行ってみることにした。
「あー行こうや、なんでも売っとるけえね。
スパムおむすび、買って部屋で食べたいけん」
スパムおむすび。
由衣夏もどちらかと言うと、日本でも買える化粧品より、ハワイでしか食べれないような珍しいものの方が興味があった。
ローソンみたいなものを想像していたが、もっとあらゆるものが売っていて、小さなスーパーのようだった。
食パンとか、何人家族なんだろうと思うような、ひとパックにものすごい枚数が入ったものが売られていたり、当然ながら全てのパッケージが英語だったのも面白かった。
スパムおむすびと飲み物やチップスなどのお菓子を買って、部屋に戻った。
紘美と紗栄子はまだ戻っていなかった。
「観光とか連れ回されるだけじゃけ、一回来た事ある子は、みんな面白くないじゃろね。
火山にカメハメハ大王に、でっかい木。
ごはんも、朝と晩はホテルの宴会場でブッフェじゃし」
「わたしは初めてやから、何もかもが面白いで」
「そっか〜、初めてやったら、楽しいじゃろうね。
ほとんどの子が初めてじゃなさそうじゃけ、もっと違うところに行ったらええのに」
「うーん、あんまり先生たちも変わったところに行ったら、トラブルとか起きたとき、先生らが大変なんじゃない?
生徒も来たことがあるようなところやったら、もし何かあっても、生徒が自力で帰れるかもしれんやん」
「あ、なるほどねー。
先生らが楽したいだけじゃね」
「先生らはただで来てるやろうし」
「うわ、ほんまじゃ〜」
「ユウはなんも買わなくていいの?」
「うち、アロハとビーサンだけ買うかな」
「アロハか」
「由衣夏ちゃんは、何も買わんの」
「わたしは香水欲しいかなあ」
「ほんじゃ、またついてったげるけ、免税店で買ったらええわ」
ユウが親切な子で良かった。
「さっき、免税店で紘美がボディスクラブのオススメとか教えてくれてん。
スクラブとか、使ったことあった?」
「ええっ、そんなん、うちも使ったことないよ」
「お尻がツルツルになって、彼氏に褒められるんやって」
ユウは驚いたようだ。
感心したように、
「みんな色んなことやっとるんね。
うちもそれやってみよかな。
明日行って、香水買う時に、それも買おうや」
そんなわけで、ユウもお尻をツルツルにすることになった。
他は、ユウが言ったとおり、ザ・ハワイ、という観光で終わった。
とくに感動するようなものはなく、大王の像も写真で見たとおりだった。
由衣夏は香水とスクラブを自分のお土産に買って、それを使うことが楽しみだった。
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