第16話:閑話・勇者の動向2

異世界召喚から36日目


「ええい、いつまで部屋に籠っているのだ!

 国境での戦いは激しくなる一方なのだぞ!

 無理矢理にでも引きずりだして戦わせろ!」


「しかしながら陛下、勇者ラントはゴブリンにすら勝てないのです。

 国境の激しい戦争で役に立つとは思えません」


「そんな事は分かっておるわ!

 ダンジョンで戦わせてレベルを上げさせるのだ!

 そうすれば腐っても勇者だ、特別なスキルを覚えて、役に立つようになる」


「……陛下、ゴブリンにすら勝てないラントにレベル上げは不可能です」


「それはまともの戦わせようとするからだ。

 護衛騎士達にゴブリンを捕らえさせて、身動きできない所を殺させるのだ。

 そうすればレベルが上がり、1人でもゴブリンを狩れるようになる」


「……そこまでしなかればいけませんか」


「バカ者!

 全てはお前の息子のせいであろうが!

 あの痴れ者が、女勇者達を見殺しにしなければ、1人や2人、死んでもよかった。

 それをお前の息子のせいで!」


「ひぅ、申し訳ございません。

 しかしながら、私の息子だけのせいでは……」


「やかましわ!

 言い訳など聞きたくない!

 それよりもさっさとラントのレベルを上げさせろ!

 お前が責任をもってやれ!

 失敗したらお前だけでない一族一門皆殺しと心得よ!」


「ひっ、おまかせください、必ずラントのレベルを上げてご覧にれます!」


 このような会話がなされたのが、最初のレベル上げに失敗してから10日後。

 異世界から勇者が召喚されてから25日目の事だった。

 愚かな王の我慢は10日しかもたなかった。


 赤居嵐羽は、籠っていた部屋から力尽くで引きずり出された。

 無理矢理ダンジョンに行かされ、護衛騎士が捕らえ身動きできなくしたゴブリンの心臓を、震える手で持った剣で貫かされた。


 最初はゴブリンに対する恐怖で一杯だった。

 腰が引け、全身がガタガタと震え、足が逃げようとする。


 そんな赤居嵐羽の手を護衛騎士の1人が握り、ほとんど護衛騎士の力でゴブリンの心臓を刺し貫く。


 赤居嵐羽のレベルを上げなければ殺される貴族がとった苦肉の策だった。

 まっとうな騎士や冒険者からは忌み嫌われるレベル上げだった。

 だがファイフ王国の貴族士族の間では、普通に行われていた。


 最初は怯え震え逃げようとしていた赤居嵐羽だったが、徐々に快楽を感じた。

 全く身動きのできない卑小な相手を自分の手で殺す。


 虐める快楽、自殺に追い込む快楽、児童福祉法と父親が自衛隊幹部である事を利用して、被害者の母親に悔し涙を流させる快楽。

 世間の非難を嘲笑して自由に遊び回る快楽。


 元々そのような快楽が大好きだった赤居嵐羽だ。

 醜く小さいゴブリンが、恐怖に泣きわめくのを嬲り殺す快楽にのめり込んだ。


 最初は一突きで心臓を貫いていたが、なれてくると全身を切り刻むようになった。

 四肢の腱を切って逃げる事も戦う事もできなくした後で、ゴブリンの生爪を順番にはぎ、手足の指を順番に斬り落としていく。


 最初は失敗して失血死させてしまった。

 だが徐々になれて、止血した後で四肢を先から斬り落とすようになった。

 まだ反応できるうちに、腹を刺して内臓を引きずり出して口に押し込んだ。


 護衛騎士の中には、そんな残虐行為についていけなくなる者もいた。

 報告を受けた国王や担当大臣は鼻で笑っていたが、交代を願う護衛騎士を辞めさせて最前線に送り、新たな騎士を護衛役にした。


 いつしか赤居嵐羽の護衛騎士は残虐非道な者ばかりとなった。

 赤居嵐羽と同じような性格でなければ、とてもついて行けないレベル上げだった。

 だが、どれほど熱心にレベル上げしても同じ事だった。


「えええい、いったいどうなっているのだ?!

 本当にレベル上げをしているのか?!

 あれから10日も経っているのに、何故1つもレベルが上がらないのだ!」


 国王の怒りももっともだった。

 普通の勇者なら、経験値特典があって当然なのだ。

 相手が最弱のゴブリンであろうと、1つくらいレベルが上がって当然なのだ。


「申し訳ございません、しかしながら、真剣にレベル上げしているのです」


「……効率が悪いのではないか?

 ゴブリンを嬲る時間があるのなら、もっと狩らせるべきではないのか?!」


「国王陛下の申される通りでございます。

 護衛騎士に命じて、嬲るのを止めさせます。

 捕らえて来たモンスターは即座に殺させます。

 ただ、本気でレベル上げをさせるのでしたら、ゴブリンだけでは無理です」


「もっと強いモンスターを捕獲しろと申すのか?」


「はい、今のラントではゴブリンすら狩れません。

 誰かが代わりにモンスターを連れて来てやるしかありません。

 同じ1匹のモンスターなら、少しでも強いモンスターを捕らえるべきです」


「だが、レベルの高いモンスターを生かして捕らえてくるのは難しいのではないか?

 苦しい最前線から歴戦の兵士を連れてくるわけにはいくまい。

 王都に残っているのは、余の近衛騎士とお前達の惰弱な息子達だけだ。

 お前達の息子に強いモンスターを捕らえる事などできまい」


「陛下の近衛騎士をお借りするわけにはいきませんか?」


「ならぬ、余の護衛に他の役目を与える訳にはいかん!

 お前が責任をもって強いモンスターを捕らえられるモノを集めよ!

 女勇者を失った責任を取れ!

 急いでラントのレベルを上げなければその首を刎ねる!」


「ひぃ、なんとか、何とかしてご覧に入れます!」


 担当大臣は必死だった。

 冷血な国王の性格は誰よりも分かっていた。

 だが自分だけが責任を取らされる気もなかった。


「恐れながら陛下、私の息子だけが女勇者を失った原因ではありません。

 他の連中にも責任を取らせてはいかがでしょうか?

 全ての家の私兵と家族を動員すれば、集められるゴブリンの数も増えます。

 強いモンスターを集めるのも大切ですが、数も必要なのではないでしょうか?」


「……そうだな、全ての家に責任を取らせよう。

 だが、お前に失敗に責任を取らせる事に変わりはない!

 明日までにラントのレベルが上がらなければ、お前の一族を皆殺しにする!」


「陛下、10日、10日のご猶予をお願いいたします!

 勇者のような特別な職業は、レベルを上げるのが難しいのかもしれません。

 勇者召喚と同じように、多くのモンスターの命が必要かもしれません!」


「……5日、いや、3日だ!

 3日の間にラントのレベルを上げなければお前の一族を皆殺しにする」


「陛下、5日、5日下さいませ!

 他の家々を動員するにも、私財をなげうって冒険者を集めるにも、3日はかかってしまいます!

 そこから3日で6日かかります、そこを5日で何とかしますから」


「……しかたあるまい、5日だけだぞ!」


「ありがたき幸せでございます!」


 赤居嵐羽の処遇が変化した頃、3人の女勇者は生き地獄の中にいた。

 ゴブリンに捕らえられた3人は、数十人のゴブリンに繰り返し凌辱された。

 子供を生む道具として扱われた。


 ゴブリンに強制妊娠させられた母体は、1カ月で子供を生む。

 人間なら10カ月で成長させる胎児を、10倍の速さで成長させるのだ。

 母体にかかる負担は想像を絶するものがある。


 特に栄養補給が大切で、大量に食べなければ母体の骨身が削られる。

 母子ともに栄養失調で死なないためには、大量に食べるしかない。

 それができなければ、骨身が削られる激痛に苦しむ事になる。


 人を襲って食糧にするのがゴブリンだ。

 3人の女勇者に与えられる食糧も人肉だった。

 それも、叩いて柔らかくしただけの生肉だった。


 元々身勝手で残虐非道な3人だ。

 自分が生き残るためだけでなく、快楽の為なら平気で他人を殺せる性格だ。

 激烈な飢餓感に襲われたら、生の人肉だって平気で食べる。


 「私はあんたらの子供を生んでやるんだよ!

  さっさともっと肉を持ってきな!」


 もともと人間とは評せない鬼畜な3人だったが、ゴブリンの子供を生む道具とされた事で、完全な鬼となっていた。


 ゴブリンの世界で生き残るために、積極的にゴブリンと交わった。

 生き残るため、少しでも待遇を良くするため、人である事を辞めた。

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