第11話:信用

異世界召喚から35日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


 俺は親切な門番に案内されて王都の中に入った。

 事前に得ていた知識では、人口14万もいる巨大な都市だ。

 ここにあるダンジョンは、それだけの人間を養える魔獣が沸くのだ。


 俺が安心して王都内に入れるのは、オリビアを魔境に置いてきたからだ。

 両親に変化しかけているゴーレムだけでなく、護衛に1000のゴーレムを残し、ハーフエルフの隠里に張った以上に強固な結界を張ってある。


 人間が相手なら、並の相手なら十万を超える軍勢でも撃退できる。

 上位スキル持ちの魔術士や剣士が多数いる軍勢が相手でも、軽く撃退できる。

 それどころか、本居地を逆撃する事もできるだろう。


 それだけの準備をして王都の様子を探りに来ていたのだ。

 運が良過ぎて、様子を見るだけのつもりが、深く食い込んでいる。

 おもしろくなってきたので、このままどこまでやれるのかやってみる。


「この辺りは、城門を突破した敵を迎え討てるようにしてある」


 王都城壁の内側大門を抜けると、枡形虎口が5つも連なっていた。

 何度も方向転換しなければいけないので、移動距離が長くなってしまう。

 だが内側大門を突破した敵を迎え討つには最適の造りだ。


「この当たりは騎士団所属の貴族が屋敷を構えている。

 平時の奇襲には、家族と使用人が屋敷の防壁と矢狭間を使って敵を射る。

 戦時には、屋敷に配下の騎士を入れて敵に備える」


 かなりの防御力を備えた王都だ。

 城壁を乗り越えられなくても、城門を破壊され王都内に入り込まれる事はある。


 その時に備えているのは良いが、護るべき騎士が寝返っていては無意味だ。

 騎士団所属の貴族が屋敷を構えているという事は、連携を考えて城壁と城門を任されている騎士団の配下だろうが、騎士団が裏切っていては機能しなくなる。


「国境の領主と騎士団長を寝返らせていたら、後は城門を護る者を裏切らせれば、他の者が忠義を貫いてもどうにもならない。

 反対側、ファイフ王国側の城壁と城門を護る騎士団長の評判はどうなんだ?」


「……武力は騎士団長にふさわしい方だ」


「武力以外は騎士団長にふさわしくないのだな?」


「身分差にとても厳しい方と聞いている」


「野望、欲深いのか?

 特にこの国では手に入れる事ができない、領地に関する執着はどうだ?」


「……この国が国土に恵まれていない事は誰でも知っている。

 今更その事をどうこう言う人などいないだろう。

 この国で生まれ育った人間なら……」


「そういう言い方をするという事は、ファイフ王国側の城壁と城門を護る騎士団長は、この国も生まれ育ちではないのだな?」


「遠国貴族の庶子だと聞いている。

 この国に来た頃は、平民出身の冒険者と色々もめたとも聞いている……」


「色々ともめたというのは、ダンジョン内の行方不明も含むのか?」


「なぜそれを?!」


「寝返りを疑われるような騎士団長が、若い頃に身分差でもめているのだぞ。

 気に食わない平民を、密かに殺している事くらいは直ぐに思いつく。

 それで、なぜそんな奴が騎士団長に任命されているのだ?」


「……噂だが、多くの貴族に賄賂を贈っているようだ。

 最初に冒険者として名をあげ金を稼ぎ、跡継ぎが不安な騎士家に婿入りした。

 その後はダンジョン騎士として名を高め、賄賂を贈って地位をあげて行った」


「その婿入りした騎士家だが、元となる両親や娘は生きているのか?」


「流行病で死んだと聞いている」


「本当に病気で死んだと思っているのか?」


「今日までは病気で死んだと思っていた。

 だが、貴君の話しを聞いておかしいと思うようになった」


「そうか、だったら先ほどの上司に言った方が良いぞ。

 俺のような人間にまで情報がもれているのだ。

 いつファイフ王国軍が攻め込んで来るか分からないぞ」


「分かった、貴君を父に預けたら直ぐに戻って説得する」


 門番は俺と話しながらも歩く速度を緩めずに自分の屋敷に案内した。

 屋敷と言っても立派な庭があるわけではない。

 中央に井戸があり1階に厩がある、騎士階級が住む集合住宅だ。


 俺は砦のような集合住宅の、頑丈な門を通って中庭に案内された。

 中庭と言っても軍馬用の井戸を中心にした狭い庭だ。

 屋敷はその中庭を四角く囲むように石と日干しレンガで建てられている。


 3階建て、いや、屋根裏部屋も含めると4階建てだろう。

 中庭側の窓は比較的大きいが、外側の窓は矢狭間になっている。

 敵が王都内に入った時には、騎士屋敷が砦の役目をするのだろう。


 ダンジョンのモンスターが溢れ出ないように。

 敵対する王家や貴族家に攻め取られないように。

 限られた兵力で限られた盆地の中にある巨大ダンジョンを囲い込む。


 貴族階級だと、非常時に騎士や従騎士を入れる庭がいる。

 だが騎士階級は、逆に城壁や城門、貴族屋敷に詰める役目だ。

 王都内の施設を使って軍馬の訓練ができるなら、庭など不要なのだろう。


「父上、この方は敵に通じている裏切者を明らかにできる大切な証人です。

 それだけに、裏切者に狙われる可能性がとても高いのです。

 騎士長閣下のご指示で我が家がお預かりする事になりました」


「そうか、だったら私に任せろ。

 これでも1代子爵位を授かる現役の百騎長だ。

 相手が世襲貴族であろうと一歩も引かぬ。

 だからハーパーは安心して役目に戻れ」


「ありがとうございます、父上。

 私はお言葉に従い役目に戻らせていただきます」


「ああ、任せろ」


 俺を案内してくれた、心優しい門番は役目に戻って行った。

 互いに名乗る事もなく、表向きは事務的に。

 この世界の人間に興味などないので、無理に名前を聞く必要もない。

 

「礼儀作法の成っていない、できの悪い息子で申し訳ない。

 息子が紹介してくれなかったので、改めて私から名乗らせてもらおう。

 今日は非番で家にいるが、普段は騎士団の役目でダンジョン狩りをしている。

 先ほど聞いていたと思うが、百騎長の任期中は子爵として扱われている。

 エブリン・ツー・ラスドネルだ。

 騎士家としては世襲権を持っている」


 とても丁寧に自己紹介してくれたのは、俺が士族や貴族だった時の為だろう。

 比較的身分を気にしない人間でも、最低限のマナーは必要になる。

 同じ日本で生まれ育ったのに、手づかみで飯を喰う人間の常識を疑うのと同じだ。


 別に平民として接しても良いのだが、対等の会話をするにはある程度の身分が必要だろう。


「ご丁寧なあいさつ痛み入ります。

 カーツ・リッター・サートと申します。

 平民に生まれて冒険者となり、各国のダンジョンや魔境を巡っております。

 ここよりはるか遠い国で1代騎士に任じられておりますが、平民として扱っていただければ幸いです」


「ほう、1代で騎士の称号をいただけるとは、なかなかの武勇なのですね」


「はい、自慢するわけではありませんが、それなりの武力だと思います。

 そうでなければ、盗賊に偽装してこの国の村々を襲うファイフ王国の兵士200人を、たった1人で捕らえることなどできません。

 まして関所や街道を通らず、魔境を突破して王都に来るなど不可能です」


「なに?!

 ファイフ王国の兵士が盗賊に扮して村々を襲っていただと?!

 そんな報告は受けていないぞ?!

 しかも関所や街道を通らず魔境を突破しただと?!」


「盗賊に扮した連中は、この国の廃城を拠点にして村々を襲っていました。

 領主や担当騎士団長がファイフ王国に寝返っていなければ、とても不可能です。

 息子さんと上司には申しませんでしたが、盗賊を捕らえた時に、ファイフ王国や裏切者達と連絡を取っていた証拠、手紙を確保しています」


「直ぐに王城に参内する!

 急な事で申し訳ないが、ご同行願いたい!」

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