第8話:盗賊団

異世界召喚から25日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点


 ハーフエルフの隠里を出て5日の時が過ぎていた。

 最初は途中の村に立ち寄る気だったのだが、止めた。

 この国はとても水が悪く、生水が全く飲めないのだ。


 過熱したら美味しく飲める水なら、まだ我慢する。

 だが俺の基準では、加熱してお茶にしてもコーヒーにしてもマズすぎた。

 だからエールやシードルにして飲むのだが、それでも俺にはマズ過ぎる。


 だから生活魔術で水を浄化して飲むのだが、この世界の人間には見せられない。

 圧倒的なレベル差のある生活魔術は、ただの水を甘露の味にする。

 たかが水のために他人の欲望を刺激して犯罪に走らせるわけにはいかない。


 何より、ゴーレムを本当の両親のように慕うオリビアが村に寄るのを嫌がった。

 姿形は俺の魔術で偽れるが、圧縮強化したゴーレムはとてつもなく重い。

 粗悪な材料で建てられた村の宿など、簡単に床が抜けてしまう。


 村でゴタゴタするよりは、馬車でゴーレムに甘えていたいのだ。

 オリビア自身が自分の行動の異常性を理解しているのだろう。

 村に寄るよりも馬車でゴーレムと過ごす事を選んだ。


「たすけてください、おねがいします。

 とうぞくに、おかあさんとおねえちゃんがつれていかれたの」


 馬に馬車をゆっくりと牽かせていると、粗末な家から子供が出てきた。

 まだ7歳か8歳、あるいは栄養失調の9歳かもしれない。

 土まみれの所を見ると、簡素な穴に隠れて盗賊から逃れたのだろう。


「分かった、助けてやる。

 クレアヴォイアンス、千里眼。

 プレゼンス・ディテクション、気配察知。

 インフラレド・ディテクション、赤外線探知。

 アルトゥラサニク・ディテクション、超音波探知……」


 普通に旅をしている間も、警戒のために索敵魔術は使っている。

 だが、のぞき趣味があるわけではないので索敵範囲は狭くしていた。


 もし索敵魔術を使わずに不意を突かれたとしても、簡単に返り討ちにできる。

 だから最低限の索敵魔術しか使っていなかった。

 しかし盗賊を見つけてこの子の家族を助けるとなれば、最大範囲が必要だ。


「おにいさん、まじゅつしなの?」


 この子を出来るだけ早く安心させたかった。

 だから普段は心の中で想うだけで発動させる魔術を、わざわざ唱えたのだ。


「ああ、そうだよ、直ぐにお母さんとお姉ちゃんを助けてあげる。

 だから安心していなさい」


「うん」


「オリビア、この子にシチューとパンを食べさせてあげなさい」


「はい!

 パパ、ママ、この子にご飯を食べさせてあげるの」


 俺は馬車をゆっくりと粗末な家の方に向けた。

 予定が狂って、村まで行けない馬車や旅人を相手に商売をしていたのだろう。


 商売と言っても、大麦粥や大麦茶を売る程度だと思うが、それでも貧しい農民には大切な現金収入なのだろう。


「オリビア、俺はこの子のお母さんとお姉ちゃんを助けに行く。

 何があってもパパとママの側から離れるなよ」


「はい、分かりました」


 俺は内心の怒りをオリビアと子供に悟られないように笑顔で話しかけた。

 索敵魔術を使う俺の感覚に、許し難い現場が感じ見る事ができたのだ。


 とてもではないがゆっくりと馬車で行く気になれない。

 何よりオリビアと子供に見せられるモノじゃない。


「瞬間移動、テレポーテーション」


 普通の瞬間移動、テレポーテーションには制限がある。

 1度行ったことがあり、明確に現場を思い出せなければ術が発動しないのだ。

 だが、俺は複数の魔術を連携させる事ができる。


 多くの索敵魔術で現場を確認すれば、行った事がなくても瞬間移動できる。

 索敵魔術で見て聞いて感じる事ができれば、初めての場所にでも瞬間移動できる。

 今回も俺の索敵魔術の限界ギリギリの場所に瞬間移動した。


「外道、死にさらせ!」


 口では死ねと言っているが、楽に死なせてやる気は全くない。

 この場にいる100人を超える女子供の苦しみに相応しい、生き地獄に叩き込む。

 生爪をはぎ、関節を全て粉砕してやる!


「「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 瞬間移動すると同時に、魔法袋から1000を超えるゴーレムを放っている。

 盗賊が100人いようが1000人いようが、全ての女子供を助ける。

 そのためなら、俺の全能力が誰に知られてもかまわない。


 億を超える式神を無効にされた分、億を超えるゴーレムが魔法袋にある。

 和紙ではなく羊皮紙に、呪文ではなく魔法陣が描かれている。

 和精霊や鬼神ではなく、妖魔や神魔を核とした召喚魔術陣だ。


 それが既に召喚された状態で魔法袋に保管されている。

 召喚されていない魔法陣も億を超える数が保管されている。

 何も描かれていない羊皮紙も億を超える数が保管されている。


「「「「「いたい、いたい、いたい、いたい!」」」」」


 俺の放ったゴーレム達が盗賊達をボコボコにしている。

 最初は責め苛まれている女子供を助ける事が優先だった。

 だから盗賊達の武器となりえる両腕の骨を粉々に粉砕した。


 次に女達を保護するために盗賊達を力づくで引き離す。

 女子供を傷つけないように、盗賊達を殺さないように。

 その力加減が結構難しいが、知能の高い俺のゴーレムには簡単な事だ。


 女子供を安全に保護のために1人1体はゴーレムが必要だ。

 盗賊達を拘束するためには、盗賊1匹に1体のゴーレムが必要だ。

 女子供と盗賊達の間に壁となるゴーレムも同じだけ必要だ。


 万が一、盗賊達を逃さないためにアジトを包囲するゴーレムも必要だ。

 俺は惜しむことなく3000体のアース・ゴーレムを放っている。

 最初の1000体は女子供の安全確保のために放った上位ゴーレムだ。


「もう大丈夫だ、今直ぐ家に帰してあげる事はできないが、盗賊達を拷問して黒幕が分かったら、黒幕も滅ぼしてから家に帰してあげる」


 こういう盗賊団の影に黒幕がいるのは常識だ。

 村々を荒らし回っているのに国軍も領主軍も動かない。

 動いたとしても必ず裏をかかれてしまうのは黒幕がいるからだ。


「……もう家には帰れません」

「夫も子供も殺されてしまいました」

「村に戻っても、後ろ指をさされて生きていかなければいけません」

「直ぐに家に戻してください!」

「妹が、妹が家で待っているのです」


「家族が心配な者は俺の仲間が迎えに行く。

 家や村に戻れない者は、俺が幾先を考えてやる。

 しばらくはこのアジトで暮らすがいい。

 黒幕を滅ぼしたら、ここをもっと住み易くしてやる」


 盗賊団がアジトにしていたのは廃棄された城だ。

 廃棄された城にしては、城門も新しい物が取り付けられていた。


 俺のように瞬間転移できなければ、攻城戦で苦しんだ事だろう。

 拠点として国軍や領主軍と戦う事を考えていたのかもしれない。


「あいつらはまだ生きているのですね!」


 俺の話を聞いて、目の奥に復讐の炎を宿した娘が聞いてきた。

 

「ああ、だがただ生かしている訳ではない。

 殺せばそれで苦痛が終わってしまう。

 それでは貴女方の長い苦しみに比べて楽過ぎるだろう?

 生れてきた事を後悔するほどの拷問を加えてやる。

 望むならそれを見せてやるが、それでも今直ぐ殺したいか?」


「……いいえ、長苦しめてくださると言うのなら、それを見させてもらいます。

 恋人の前で、何人もの男に嬲られた苦しみは、ただ殺すだけでは晴らせません」


「私も、私も見させてください。

 私も夫や子供の前で嬲られました!」


「私は目の前で親兄弟を皆殺しにされました。

 あいつらの苦しむ姿を見させてください!」


「分かった、それぞれが望む事をしてあげる。

 だがまずは、愛する家族が心配な者を優先する。

 9歳くらいの女の子に頼まれてここに助けに来た。

 お母さんとお姉ちゃんを助けてくれと言っていた。

 心当たりのある者はいるか?」

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