夢にまで見た異世界召喚に巻き込まれたけれど、虐め勇者の高校生に役立たずはいらないと追放された。

克全

第1話:プロローグ

 ゴォオオオオ!

 目の前に迫ってくる大型トレーラー!

 前にいるクソガキ共の会話に怒りを感じ、注意力が散漫になっていた。


 同級生を虐め殺した話を自慢げにしていた連中がはねられていく。

 命懸けで天罰を下してやろうと思っていた男の頭が破裂した。

 虐め殺した同級生の死に様を嘲笑った女がタイヤに踏み潰される。


 他の連中も、1人残らずはね飛ばされ、ひき殺されていく。

 こんな連中に天罰を与える神様によくやったと言ってやりたいだ、ダメだ。

 なんで何の関係もない俺を巻き込む?!


 いや、俺だけではない。

 俺の前にいる、人のよさそうな熟年男性も潰されている。

 この世には神も仏もいないのか!


★★★★★★


「すまなかったな。

 配下の天使が失敗してしまったようだ」


 目を開けると偉そうにふんぞり返った巨人が俺を見下ろしてやがる。

『すまなかったな』と形だけ謝っているが、本気で悪いとは全く思っていない!

 全く悪いと思っていないのに、裁判用に謝っている犯罪者と同じ態度だ。


「欠片も悪いと思っていないくせに何を言ってやがる!

 どうやら俺は死んだようで、お前は神を自称する邪悪な悪魔だろう!

 俺を騙して何をやらせる気だ?!」


「おのれ!

 人間ごときが我を悪魔と申すか!」


「はぁあ、自分の配下だと言う天使の失敗1つ謝れない。

 失敗を無かった事にする力もない。

 人間ですら真っ当な者なら部下の失敗には真摯に取り組むぞ!

 それで神を自称するなど片腹痛いわ!」


「神である我が人間ごときに頭を下げてやっているではないか!

 それを感謝する事もなく文句を言うなど不遜だぞ!」


「その言動が神にあるまじき品性下劣な態度だと言っているのだ!

 神を自称するのならもっと慈悲深く謙虚な態度を身に着けろ!」


「やかましいわ!

 卑小な人間ごときが、神である我に口答えするなど絶対に許さん!

 魂ごとこの世界から消し去ってくれる!


「ふん、やれるものならやってみろ、腐れ悪魔!」


 死後でも自分を貫けた事を誇ろう。

 天使を配下と言う、ここまで身勝手な神など俺の神ではない。

 俺が手を合わせた事があるのは八百万の神々と仏様だけだ。


 いや、八百万の神々も氏神様も仏様も本気で信心した事などない。

 信心とお布施をゆするだけの神や仏など人間の創った妄想でしかない。

 俺が信じるべきは正義、俺が正しいと思えるヒーローだけだ!


「神の鉄槌を受けよ、思い上がった人間!」


「思い上がっているのはお前だ!」


 ギャババババババ!


 轟音と共に幾千の雷が降り注ぎ、自称神を打ち据えた!

 それでも神を自称するモノだけあって黒焦げになる事がない。

 

「異国のモノが我らの国で勝手なマネをするな!」


「おのれ、下級神の分際で全知全能の我に逆らうか!」


「はん、誰であろうと我らの母なる国で勝手なマネをするならブチ殺すだけだ!

 先に我らの縄張りに手を出したのはお前らだ。

 本気でやるのなら何時でも相手になってやる。

 これは八百万の神々と仏の総意だ!」


「くっ、本気か、本気で神々の最終戦争を引き起こす気か?!」


「もうこれ以上お前らの好き勝手にはさせん!

 この世界が崩壊しようとお前らを滅ぼす!」


「……分かった、今回の件は引こう。

 失敗をしでかした天使を滅し、この人間を天国に迎えればいいのだな」


「何を勝手に俺の死後を決めてやがる!

 悪魔が創った天国など誰が行くか!

 俺は輪廻転生して次の人生こそ正義のヒーローになるのだ!

 今生では上手く行かなかったが、次の人生こそ正義のヒーローになるのだ!」

 

「おのれ、我の誘いを断るとは、不遜にも程があるぞ!」


「はぁあ、俺はバカじゃないぞ!

 お前のような悪魔の誘いに乗ったらどうなるかくらいわかっているんだよ!

 天国と言いながら、地獄に突き落とすのだろうが?!

 俺が俺様の天国だと笑いながらな!」


「おのれ、おのれ、おのれ、許さんぞ、絶対に許さんぞ!」


「「「「「じゃかましいわ!

     許さんのは我らじゃ!

     我らの信者氏子は必ず護る!

     異国のモノは死にさらせ!」」」」」


 圧倒的な存在感と共にあふれんばかりの力が感じられた。

 神を自称していた奴がバラバラにはじけ飛び燃え去るのが感じられた。


「佐藤克也、異国のモノを相手によくぞ申した。

 神々と仏を代表して褒美を取らせる。

 好きなモノを望むがいい」


「……だったら正義のヒーローになれるようにしてくれ。

 複雑に発展してしまった世の中で、正義を金儲けや欲望のはけ口のするような者がいない時代に生まれ変わらせてくれ」


「残念だが、未来永劫そのような世界はこない。

 弱肉強食は生物の理だが、ここまで発展した世界では強さも多様なのだ。

 嗜虐心を満たすために弁護士となり、加害者に手を貸して被害者やその家族を踏みにじる者を無くす事はできない。

 この世界では、神が直接下界に手を出す事に厳しい制限がある。

 神を騙って金を騙し取り、人を虐げ殺す者に天罰も与えられない。

 佐藤克也が望む正義のヒーローに成れる未来など来ない」


「だったらそんな世界を創ってくれ!

 創世の神々ならば、俺の望む世界を創れるのだろう?

 その世界に生まれ変われるようにしてくれ!」


「確かに佐藤克也の言う創世の神々はおられる。

 この世界の神々の更に上位の世界に、創世の神々はおられる。

 だが、我らには創世の力はない」


「俺を創世の神々の紹介する気はないのだな」


「我々の力では創世の神々のモノを頼むことはできない」


「……だったら違う事を頼んでもいいか?」


「おお、我らにやれる事なら何でも聞いてやろう!

 我らの天国に来るか?

 それとも神々の列に加わるか?

 なんなら仏になりたいと言う話でもよいぞ?」


「俺の記憶では、多元宇通論というのがあった。

 神々が実在し、創世の神々もいるのなら、多くの世界もあるのではないか?」


「……確かにこの世界以外のも多くの世界があるが、まさか……」


「創世の神の数だけ世界があるのなら、俺の望む世界もあるはずだ。

 俺の正義を貫ける世界に転生させて欲しい。

 それが、それだけが俺の頼み、いや、悲願だ!」


「……佐藤克也の望む正義を貫ける世界はある、あるが、いばらの道だぞ」


「いばらの道は望むところだ!

 自分が望む正義の味方に簡単になれるとは最初から思っていない!

 努力して、努力して、死ぬほどの努力を重ねて初めて手に入れられる」


「そうか、そこまでの覚悟があるのならよかろう。

 神や仏ともあろう者が、人間との約束を守れないとあっては恥だ。

 だが、あの世界は弱肉強食が激しい。

 新生児死亡率は2割、大人になれるのは半分しかいない。

 向こうの神に話しをつけると言っても……」


「それで構わない。

 他の世界に転生させてくれなど、無理無体を言っている事くらい分かる。

 志半ばで死ぬことになろうと諦めない。

 何度転生する事になっても自分の夢は自分でかなえてみせる!」


「佐藤克也はそう言うが、我ら神や仏にもメンツがある!

 褒美を取らせると言っておいて、異界で病気や事故で死なせるわけにはいかぬ。

 どんな環境に生まれ変わるか分からない世界より、天狗隠しができる異界がいい。

 そうだ、今回の元凶となった異界の神に責任を取らせよう」


「今回の元凶?」


「今回の件は、ある異界の神があの腐れ神と闇取引をした事が原因だ。

 本来は禁止されている異界間の転移を密かに行ったのだ。

 その点を突いて、佐藤克也に特別な力を与えて転移させよう」


「神様の配慮はありがたいのですが、お断わりさせていただきます」


「なに?!

 神仏の加護が欲しくないと申すのか?!」


「ここまでご配慮下さった神仏のご好意を無碍にするのは許されない事です。

 ですが、何の努力もせずに神仏のご加護を頂くわけには参りません。

 それでは努力に努力を重ねて力を得た人々も申し訳ありません。

 神仏のご加護を頂くのなら、それだけの努力をしなければ許されません」


「は、う、うむ、もっともな言葉だが、少々腹が立ったのも確かだ。

 努力か、神仏の加護を得るに相応しい努力か……

 だったら、時の流れが止まっている場所で修業してみるか?

 仙人達が修行する場所があるが、そこで1000年修行してみるか?」


「お願いします、どうか俺に修行の機会を与えてください」


「お前達人間に伝わっている仙界とは違うのだぞ?

 俗界を離れた清らかな世界などではないのだぞ?

 地獄をも超える厳しい世界で、何万何億も苦痛に満ちた死を繰りかえすのだ。

 それほどの厳しい修行の連続なのだぞ?」


「構いません、神仏のご加護を得るのが簡単ではない事など覚悟しています」


「どうしても辛くなったら途中で言うがよい。

 我らは何時でも佐藤克也を天国に迎える」

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