ロボットにウケるレストラン

ちびまるフォイ

顔が半分ふっとぶ

「はあ、客来ないなぁ」

「来ないねぇ」


人間の労働をロボットが肩代わりするようになった現代。

AIは急速に発達し、人口よりもAIロボットのほうが多くなっていた。


そうなってくると、レストランには客が来ない。


そもそも外を出歩く人間などめったにいないのだから。

なんでもネットで注文すればロボットが届けてくれる。


「なんで客来ないかなぁ」


「そりゃ外にはロボットしかいないからねぇ」


「わざわざ外でてうちのレストランに足を運ぶような人間はいないかぁ……」


レストランのガラス越しに見えるのは生真面目に歩くロボットばかり。

どこを見てもロボット、ロボット、ロボット。


「あ」


「どうしたんだよ突然」


「こんなにロボットがいるなら、ロボット用のレストランを作れば人気出るんじゃないか」


「オイルでも売るの?」


「知らないのかよ。最近のロボットAIは味覚もあるんだぜ。

 食事でのエネルギー補給もできるようになってるんだ」


「ロボットが外でメシ食ってるとこ見たことないけど」


「そりゃロボット用のレストランなんて、うちしかないからな」


「すでにやる前提かよ」


これまで冴えないファミレスを続けていたが、

ここぞとばかりに入り口に『ロボット大歓迎!』とのぼりを出した。


「さあさあいらっしゃい! 世にも珍しいロボットのためのレストランだよ!」


「開店セールやってまーーす……」


華々しく開店してからしばらくすると、店はあっという間に苦境に立たされた。



「……店長」


「言うな。わかってるから」


「ぜんぜん売れてないっす」


「わかってるって!!」


「ロボット推しを前に出しすぎた結果、これまで入っていた人間の客も来なくなりましたよ」


「なんでロボットに受けないんだ! ちゃんと美味しいのに!」


「そっすよねぇ……」


けして料理の味が落ちたわけではない。

ロボットにも入れると銘打っただけで、店はこれまでとなんら変わっていない。


「どうして……」


「店長、どうします? 前のように戻します? このまま続けてもしょうがないでしょう」


「……わかった」


「了解っす。おもてのノボリさげておきますね」


「ああもうわかったよ! だったらもっとロボット寄りにしてやる!」


「て、店長!?」


「うははは! エネルギー効率ばつぐんのメニューを出してやる!

 人間の客なんて気にするこたぁねぇ! どうせこないんだからなァァァははははは!!」


「店長ーー! 店長ぉーー!!」


なかば自暴自棄とも取れる店長の暴走により、店は大きくロボットよりにリニューアル。


これまで人間用に「オーガニック」だとか「ロカボ」だとか「グルテンフリー」だとかを出していたはずが

エネルギー補給効率を極限まで突きつけて、味付けはとにかく濃く。

辛味と酸味を極限まで振り切った罰ゲームにもってこいのメニューが並んだ。


一見さんバイバイに改良された店だったが、

リニューアルするやロボットが大行列する大人気店になった。


「て、店長! もう手が回りませーーん!!」


「こ……こんなに売れるなんて……!」


いろいろこだわっていた料理が売れず、

やけっぱちになったロボットメニューがバカ売れしたので店長は複雑な顔をしていた。


店長は常連になったロボットの一人を捕まえて聞いた。


「こんなこと聞くのも変な話だけど……うちの店の何がそんなにいいんだ?」


「ロボットは刺激物や効率を求めます。そうプログラムされてますから」


「な、なるほど……」


店長の暴走がロボットの好みをピンポイントで撃ち抜く結果になった。



それから数日もすると店の話題はついに人間まで広がった。


さまざまな動画配信者が面白がって撮影に来たり、

テレビクルーが取材にきたり、芸能人がやってきたりと大忙し。


「店長! ついにうちもロボットだけでなく人間の客にも人気になりましたね!!」


「そうだな! これは完全に勝ち確定のレールに乗ったぞ!!」


二人はハイタッチ。


インフルエンサーが訪れた店ということもあり、

ロボット用レストランには人間も長蛇の列を作るようになった。


開店の前の日から並ぶ客まで出てくるようになり、

社会現象になるほどレストランは一大ムーブメントとなる。



その1ヶ月後。


レストランには誰も来なくなった。


「て、店長……客が来ません!」


ロボット用のめちゃくちゃな味付けにしているので、

お世辞にも人間が食べて美味しいしあがりにはなっていない。


話題性だけで人は集まってもリピートされないので、

しまいには人がいなくなってしまうのは必然であった。


「なんでだ!? みんなあんなに来てくれてたのに!?」


「どうしましょう……。せめてロボットでも来てくれれば」


「そうだよ! 飽きっぽい人間ならまだしも、どうしてロボットまで来なくなったんだ! 前はあんなにいたのに!」


町からロボットが消えたわけではない。

店の外にはいくつものロボットが横切っている。


なのに店には入ってこない。



店長はしびれを切らして店の外に出た。

店の外にいるロボットの肩をつかんで問い詰めた。


「おいロボット!」


「なんでしょうか」


「どうして店に来てくれないんだ! 何が不満なんだ! 教えてくれ!」


店長はロボットに土下座した。

その様子を見てロボットは冷静に答えた。


「我々ロボットは、もともと人間の代わりに危険な場所へ向かうようプログラムされてます。

 危険な場所に向かい安全を確認するのが仕事です」


「……それが?」




「人間が好き好んで並ぶようなお店なら、もう危険な場所ではないでしょう?」




数日後、店長は料理に火薬を入れ始めたという。

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