第3話 パリにて
俺達が、パリ、シャルルドゴール空港に着くと、あのポップな絵の作者ポールが迎えに来てくれていた。
ポールは年は俺よりも少し上くらいだろう。背の高い痩せ型のフランス人男性は俺達を見つけると嬉しそうに握手をした。
彼の運転でアトリエに行く途中、早速、俺はあの絵について尋ねてみた。
「メールで連絡を貰った絵の事なんだけれど……」
「ああ、あの絵はヒロシに頼まれて描いたんだ。息子の結婚祝いに欲しいと言われてね」
「ヒロシって、もしかして、この人?」
ポールの言葉に、結婚式の時に撮った親父の写真を知子が見せて、俺の父親だと説明した。
「そうか、君がヒロシの息子か。三年くらい前かな? 街で絵を売ってたら、声をかけられたんだよ。ボクの絵を気に入ってくれて、それからヒロシがパリに来る度に、一緒に飲む仲になったんだよ。それが、一年くらい前に息子の結婚祝いに絵を描いてくれって言われて、描いたのがあの絵だよ。君たちの未来が明るく、暖かくなるように思いを込めて描いたんだよ」
確かに、明るい原色を多く使い、ポップな絵柄は見ていて気持ちが明るくなる。
しかし、彼の話からすると、あの親父が、俺達のためにわざわざ絵を発注したってことか? そして、一品物か。なかなか価格をつけにくいな。
「まさか、ヒロシの息子が来るとは思わなかったよ。しかも画商をしてるなんて……ヒロシも早く言ってくれれば良いのに」
そう言って、ポールはケラケラと笑って言った。
「親父はどんな話をしているんですか?」
「ヒロシ? そうだな、色々な国の話が多いかな。あまり家族の話をしなかったから、息子のために絵を描いてくれって言われた時は、子供いたのか~!! って思わず酒を吹き出したよ」
やっぱり、あいつは普段は家族の事なんて頭に無いんだな。あんな奴に負ける訳にはいかない。ただでさえ、画商として勝負を挑まれたんだ、ただの輸入商に負ける訳にはいかない。
「そういえば、もう一つの絵の作者も心当たりがあるって言っていましたよね。その方とも会えますか?」
「ああ、今、どこにいるかな? フランスにいると良いんだけど」
「え!? どこかに旅行に行っているんですか?」
「旅行というか、ヒロシって日本人なのだろう? ボクに絵を依頼するのと同時に、自分も絵を送りたいから、アドバイスをくれって言うから、一緒に描いたんだよ。初めてにしちゃ、上手かっただろう。パリに来る度に少しづつ描いて、この前、やっと完成したんだよ。」
「親父が描いた!?」
「お義父さんって、絵を描けたんですか?」
俺達は、思わず同時に叫んだ。
親父が絵を描いていたなんて、初めて聞いた。それもそうだが、ド素人が描いた絵と彼の絵を俺に比較させようとしていたのか? やはり、あいつはクソ親父だ。彼にも俺にもなんて失礼な奴だ。
しかし、そうと分かれば、答えは簡単だ。
ポールが描いた絵の方が、確実に価値がある。
ただし、気になる事が一つあった。
「ポールさん、一つ聞いて良いですか?」
「なんだい、何でも聞いてくれ」
「この額縁の事なんだけど……」
そう、あのクソ親父の事だ。絵に注意を引かせて、実は額縁が紫檀や本黒檀などの高級木材のアンティークと言う可能性がある。
「額縁がどうかしたか? そんなに高い物じゃないが、ヒロシと二人で絵にマッチした額縁にしたつもりだったが、気に入ってくれたかい」
高額ではない。つまり、額縁に大きな差は無いと言うことか。
それであれば、やはり初めに感じたとおり、親父が描いた風景画など、何の価値も無い。
ポールの言葉に確信した俺は、画商としてポールの絵を何枚か日本で売ることを約束して、パリを後にした。
気持ちの軽くなった俺は知子と一緒に、第二の新婚旅行とかこつけて、ローマでローマの休日ごっこをして帰国したのだった。
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