第86話 青竜は語りだす

 私の分はリリーに量を制限されている。もちろんダイエットのためだ。少し物足りないぐらいが体には良いらしい。食べ終わって、食器を片付けようとした時だった。


「そういえばアイツ、ブレイドにも求婚したんやな」

「はっ!?」


 衝撃な一言を言ったあとスピアーはリリーの作った料理をまだひょいひょいと食べていく。

 腹八分目で止めてる身としては目の前で食べ続けるスピアーが恨めしい。

 って、違う違う。


「いや、オレにも言ってきたんやで。まあ、竜と人間で子どもなんてできんからなぁ。ほら、この前言うとったやろ? 竜は生まれ変わりするって。生態から違うんや。それがなくてもエマちゃん以外好きになるつもりはないからお断りやけどな」

「へー、そうなんだ」


 ルニアも食べ終わっているのに面白そうだなと会話に入ってきた。


「それじゃあ、竜はなんで人を好きになるんだ?」

「あー、違う違う。そこはな、エマちゃんだからとー」


 スピアーはこちらにじっと目を向けてきてニカッと笑う。


「美味しくなるからやで」


 ぶわっと背中に寒気が走る。食べられる。そうだった。もう一人食べると宣言してる竜がいたんだ。


「やだなぁ。冗談でしょ? 美味しくなるなんてどうして」


 怖いけれど何故だが聞かないといけないような気がした。

 私、心のどこかで何か思い出したいと思ってる。


「あー、そうやなぁ。教えてもええんやけど、――――」


 スピアーは立ち上がったあと、顔を私の耳に寄せてきた。


「出来れば二人きりの時がええな。あの怖い顔のブレイドに聞かれたくない事もあるし」


 ◇


「――で、どうしてまとめてくるねん……」


 スピアーの割り当てられてる部屋に今大人数でおしかけてます。スピアーの部屋は寝るだけって感じでベッドだけ。椅子も何もない。どこに座ろうかと悩ましいところだ。


「それは、そうでしょう? 食べるぞーって言ってる人のところに一人でのこのこくるわけないじゃない」


 実は一人でも大丈夫かなと思ってはいたんだけれど、ブレイドもルニアついてきた。そしてなぜかフレイルまで一緒だ。


「まあ、そらそうか。しゃあない。どうせフレイルも知っとる話やしなぁ」

「何? やっぱりブレイド何も覚えてないの?」


 フレイルが身を乗り出して聞いてくる。


「なーんにも。オレ何度か聞いたけど、ブレイドなんにも覚えてないわ」

「うわー、それでよく横に立てるなぁ」


 二人がブレイドを見ながらそんな話をする。何が言いたいのかわからないけれど、別に昔の事なんてどうだっていいじゃない。私が聞きたいのはこれからどうするかのヒントなんだから。

 私がどうして、アメリアだと呼ばれるのかやミリア達に対する手立てになるような話が聞けたらなと思ってきてるんだから。


「ブレイドの話じゃなくて、私がどうなったら、……お、美味しくなるか聞きにきたんだからっ!!」


 何が悲しくて自分が美味しく食べられる話をしなければならないのか。けど、スピアーの話には聞かなくちゃいけない何かを感じて、私は彼に確かめる。

 ルニアとフレイルが二人で皆が座れるように椅子を別室から運んできた。

 それらに各自腰掛けると、スピアーの話が始まった。


「まあ、前にも話したけどエマちゃんはな、アメリアと同じなんや。ということは、最期も同じってことや――。たぶん、これも覚えてないやろうなぁ。瘴気は浄化されとるんやない。エマちゃんの中に全部吸収されて蓄積していっとるで――」


 あまりの衝撃で皆で食べようと持ってきたお菓子の包みをもう少しで落とすところだった。

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