第83話 聖女の婚約者
◇
誰に頼んだのか確かめるために戻るとルニア達は鍛錬場の前に立ち、手をふっていた。慌てたりなんかしてない。いつも通りのルニアだ。
「……別に騙してなんていませんよ?」
ミリアがにこにこしながら鍛錬場から歩いて出てきた。クロウも一緒だ。
「どういうことですか?」
「ですから、街の真ん中で少しの間立っておいて下さいって頼んだのです。あの人に」
ミリアの指先が竜魔道具作りの師匠アルをさす。アルは確かにそこに立っていて、何が起こったのかさっぱりという顔で私に笑いかけていた。
ただのはやとちり……。私は力が抜けて、しゃがみこんだ。
誰も巻き込まれてなくて良かったという気持ちと、ミリアとクロウに瘴気をなんとか出来る力があることがバレてしまったという気持ちが押し寄せてくる。
「落とし物だ」
ブレイドは外套をミリアに向かって放り投げる。
「あら、わたくしの外套。拾ってきてくださったのですね」
「それで蓋をしていたのか?」
「……気が付かれましたか」
ミリアが外套を羽織る。
「これはわたくし達の力が込められている布でできています。少しの時間なら瘴気を抑える事ができます。先に置いておけばですが時間を伸ばしたり出来るんですよ」
「それでわからなかったのか」
「あなたもおわかりになるんですね。本当にステキです。今すぐわたくし達の国にいらしていただきたいのですが……」
ミリアは残念そうな顔を浮かべ、ふぅと小さくため息をついた。
「国の代表者を連れて帰るのはさすがに出来ないですよね」
「ボクはここを離れるつもりはない」
「瘴気を消す為の聖女の力が必要でないならわたくし達に出せるものがないですし……」
そのまま帰ってくれないかと思いながら二人の言葉を聞く。
ミリア達はどこまでわかって話しているんだろう。
先ほどのクロウとのやりとりを思い出して不安になる。私の事もバレてしまった?
「そうだ、横のあなた! あなたも瘴気の中に入っても大丈夫なのですね。聖女ではないのに――。あなたも是非わたくし達の国に」
「わ、私も無理です!」
突然話をふられ、焦ったけれどどうやら私が赤い瞳の聖女であるとバレたわけではなさそうな口ぶりだ。
「エマはボクの婚約者だ。もちろん連れて行くのは許可しない」
ブレイドも言ってくれてホッとする。
だけど、二人は諦めた様子がなかった。
「……婚約者……ですか。そうですね。国の代表者ならいてもおかしくないですよね」
ミリアが近付いてくる。白い地面を一歩一歩踏み固めていく。その足あとがひどく恐ろしく見えた。
「わたくしとも婚約をしていただけませんか? ブレイド様。わたくしは次代赤い瞳の聖女の代表です。婚約していただければわたくし達が全力でこの国すべての瘴気を浄化してみせましょう」
ミリアを婚約者にする。
それによって得られるモノはブレイドにとって成さなければならない、父親との約束だった。
だけど、私にとっては聖女に婚約者を奪われる悪夢の再来に見えた。
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