第67話 末路と帰路(名前を失った男、聖女ナターシャ視点)

「おい、新人ちゃんと見張ってるか」

「やっている!!」


 ここは国境沿いの森の中。最近建てられたばかりの建物の中で私は見張りをさせられている。

 いつ瘴気が噴き出すかわからない場所に見張りに立たされる。

 逃げ出したくても両手足と首につけられた竜魔石の拘束具が邪魔をする。これは鍵以外の方法で外したり、この場から逃げようとすると風が起こり、手、足、最後には首が飛ぶように出来ている。

 まさか、私が竜魔石の研究者に作らせた物を自身で使うとは――。効果はすべて実証済みのものだ。

 私の名前をだしてもこの見た目で誰にも信用されず……。

 ずっとこの場所に繋がれて、見張りを続けなくてはならない。気が狂いそうだ。食べ物だけは持ってきてくれて、空腹に困ることはない。空腹で死んでしまっては、最前線の見張り役が次にまわる。それを避けたいのだろう。


 死にたくない。私は置かれた食べ物を次々と口に運ぶ。旨くもない腹をふくらませるだけの物。

 運動もせず、食べてばかりだ。これでは元に戻ることなど――、永遠にないだろう。


「これをなんとか外して、逃げ出してやる。そして、そして――」


 浮かび上がる女達の顔。私の邪魔をしたあの者達に復讐を――。


 ◆


 わたくしはこれからどうなるのでしょう。

 突然、瘴気の回数が減りました。それはもう自由時間の方が多くなるほど。これならば、結婚の話を進められるでしょう。ですが、ラヴェルがわたくしに会いにこなくなってしまいました。呼んでも忙しいの一点張りで……。

 そんな時に一人の聖女が送られてきました。回数が減って必要が無くなったというのに。


「メディナ……」


 目の前で一礼する彼女はわたくしが蹴落とした女でした。気弱そうにしていたあの日とは逆に自信に溢れる不穏な微笑みを浮かべて――。


「御機嫌よう、ナターシャ。あなたにお伝えしたいことがありますの」


 メディナは連絡用の竜魔道具を取り出しました。これは、まさか……。


「そのまさかです」


 里帰りと言うわけではないのですが、もうすぐあの場所に辿り着きます。

 二度と帰るつもりはなかった聖女達の国。


「話が聞きたいので、お戻りいただけますか? そこは彼女メディナが代わりにいますから」


 要件を突きつけられ、急ぐように向かっています。

 すべてがバレてしまってはあそこにいる意味がありませんから自分だけでも無傷でいなければ……。

 そう、わたくしを見捨てたラヴェルなんて……。知った事ではありません。

 いざという時は全部全部話してしまいましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る