第41話 助けられた少年が見たものは(ある子どもの視点)

 森の中、僕は父と妹と三人で食べ物を取りにきていた。

 お金がなくて食べるものがないとかではない。冬が来て近くの森の中で食べられる木の実や植物なんかが最後だから、遊びを兼ねてきている。


「お父さん、これ美味しいかな」


 妹が父に採取したものを見せる。


「これは食べられるかなぁ。街に戻って鑑定してもらおう」

「うん」


 僕はキノコや木の実、植物採取なんてつまらないと小さな木の棒を振り回し食べれそうな獲物はいないかと探し回る。

 どうせならでっかい鳥なんかを仕留められないかな?

 ぶんぶんと振り回しながら歩いていく。だんだんと父と妹から離れて行くのも気付かずに。

 シューっと小さな音がして地面を見ると穴があった。

 何かの巣かな? と、僕は持っていた枝を穴に突っ込んだ。何が出てくるかなとのぞきこむ。勢いよく飛び出してきたのは動物ではなく煙だった。

 顔にそれが噴きかかり息が苦しくなった。

 何だよこれ!!

 僕は父を呼ぼうと叫んだ。だけど噴き出し続ける煙で息が出来なくて上手く声にならなかった。

 苦しくてフラフラしながら父がいると思う方へ向かう。木の根に足が引っかかりこけてしまった。

 苦しくて、痛くて、もう帰りたい。


「ナリャ! どこだっ」


 父が僕を呼んでいた。ここだよ!気付いて!


「――っ!! ウイ! こっちは危ない! 街に戻るんだ!! ナリャっ!! ナリャぁぁぁぁ!!」


 父の声がどんどん遠ざかって行く。僕はここだよ。

 体がどんどん重くなって行く。大きな獣に上から乗られているみたいだ。


 ◆


 どれくらいたっただろう。まわりが暗くて何も見えない。目をあけても夜みたいに暗くて何もわからない。

 だんだん息苦しさは減ってきたけれど下半身が自分の体ではないような感じがした。手を伸ばし触れてみる。ふわふわとした毛皮の動物がそこにいるのだろうか。だけど触れられる感触は自分にある。おかしい。


 もしかして……。

 街からでも見えることがある大きな煙の壁。


「この国は神様がいて、お守り下さっているから大丈夫なのよ。でもね、もしみつけてしまったらすぐに逃げなさい」


 あれは瘴気という怖いものなのよと教えられた。触れれば死ぬか魔物になる。とても恐ろしい煙なんだと。

 おうちに帰りたいよぉ。


 神様がお願いを聞いてくれたのかな?

 急に煙が消えて明るくなった。

 あの人がこの国を守ってくれている神様?

 赤い色の目をした髪の長いきれいな女の人が立っていた。

 苦しかった喉が楽になっている。今なら話す事が出来そうだ。


「助けて」


 必死に神様にお願いする。もう一人いたみたいだ。赤い髪の男の人が僕を見つけてくれた。そのあとすぐにあの赤い目の女神様にも見つけてもらえた。

 お家に帰りたい。神様なら叶えてくれるかな。


 ◆


「ナリャ!!」


 父の声がした。見つけてくれたんだ。でも、僕は瘴気に触れて体が変に……。

 どこもおかしくなっていない。手も足も体も僕のだ。

 やっぱりあの二人は神様だったんだ。

 父に背負われて街へと向かう。空が明るくて嬉しくて、上をずっと見ていたんだ。

 そしたらね、すごい事が起きたんだ。

 もう一人の男の人の髪色みたいな真っ赤な竜が空に飛び上がっていくのが見えた。

 女神様と神様の使いだったんだ。きっと女神様はあの竜に乗っているんだ。あとで父と母と妹に聞かせよう。僕を助けてくれた赤い瞳の女神様と赤い竜の話を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る