第36話 ご褒美お買い物デート?

 もう……、だめ……。土の上から離れたくない。

 素振りのあとの走り込み。それだけで私の体は限界だった。

 動きたくない。これ以上したら死んじゃうぅぅ。


「細くなったところでやっぱり筋力体力がたりないな。基礎訓練が必要だろ。まあ少しずつ頑張ろう、な?」


 少しずつ? かなり運動したと思うの。ただ、ルニアは何事もなかったように涼しい顔をしている。私の何十倍も動いてるのに……。

 ただ細くなるだけじゃ全然ダメなんだと実感する。このスタイルを維持するのは筋力体力なのね!!


「はい、ルニア教官。でも今日は勘弁してほしいです」


 もう一歩も動きたくない。ルニアはそんな様子の私の耳に顔を近付けささやいた。


「頑張ったご褒美があるのになぁ。動けないかぁ。なら――」

「何、何々!?」


 頑張ったご褒美と言えば甘いモノ!? 美味しいモノ!?

 思考が完全に聖女をやっていた時のままだ。食べる事しか思いつかない。だから、カケラほども想像していなかった。


「ブレイドと二人きりでお出かけだ」

「お出かけ?」


 頭の上に?がいっぱい浮かぶ。ご褒美って食べ物じゃないの? はっ、まさかブレイドを食べてこいと言ってるの!?

 無理無理。私とブレイドじゃ、どう頑張ってもブレイドに勝てっこない。つまりは食べられる方は私!?

 頭の中で答えが出て青くなっているとルニアがスピアーを引っ張ってきた。


「あー、もう。首根っこ掴むなや! あと、今回だけや! ええな? 今回だけやで!」


 ぶちぶちと文句を言いながらぶつぶつと呟く。あれ、これって……。温かい感じが足から全身に広がって筋肉がほぐれていく。さっきまでの疲労がとけていく。

 全身を優しく揉みほぐされている。何これ!!

 って、これも魔法?


「どや? 疲労回復魔法は効いたか?」


 地面から体を起こす。動く! 動くわ!! この体!!

 はっ! 動くようになったらまたシゴカれるのでは?


「効いてません。何も効いてません」


 再び地面へと頬を擦り付ける。


「なんでやねん!!」


 ルニアの手を離れたスピアーにツッコまれる。

 だって、もう走りたくないのです……。


「ほら、ブレイドの準備は終わってる」

「ふぇ?」


 彼は最近よく着ていた黒い服ではない、なんだか簡素な格好だった。まるで子どもの頃住んでいた家のまわりにいそうな。


「買い物に付き合ってもらって何故ご褒美になるかわからないが、一緒にきてくれるかな?」


 ルニアが親指を立てて行ってこいと言うので、私は急いで立ち上がり頷いた。

 買い物、買い物なら食べられないよね。

 王子様が買い物!?

 まだまだ頭の中は疑問だらけだけど、走り込みから解放されるなら私、いっきまーす!!


「ちなみに、どちらへ?」

「こことハヘラータの国境境いの街ラハナルだ」

「え……?」


 ラハナル……、そこって――。

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