第34話 連絡がない(元婚約者視点)

 イライラする気持ちが抑えられず部屋の中だけで響くほどの声で叫んだ。


「何故連絡がこないっっ!!」


 連絡を待つ為自室へとこもっているが、いっこうに手に持つ竜魔石のカケラがついた道具が反応しない。

 この道具は風の魔法が使える竜魔石を分割して加工した離れた場所でも連絡が出来る竜魔道具だ。会話が出来るわけではない。飛ばす方のカケラを持っている者が受け取る方のカケラへと言葉を風にのせ送る道具。


「ただの女二人。しかも一人は豚のように肥えた女だ。それほど遠くに行けずあの辺りをうろついているはず……」


 聖女の力を使って中に入るところまでは確認していた。運動もろくにしていない女だ。すぐに根を上げてどこかでとまっているだろう。なのに、いまだ連絡がこない。

 変なところに落ち込んだか、瘴気の中を彷徨さまよう魔物に食われたか。

 そうなれば、こちらにいる聖女ナターシャをコントロールする必要が出てくる。


 コンコン


 扉の向こう、控えめな叩く音がした。

 ふぅーと息を吐き、調子を整える。


「誰だ? 今はこの部屋に近付くなと言ってあったはずだが?」

「申し訳ございません。ですが、聖女様が殿下をお呼びして欲しいと」


 少ししゃがれた女の声。聖女の世話役だ。


「何用だ!」

「それが直接お話しをしたいと――」


 私を呼び出すとは、いい度胸をしているな。前の聖女エマは私を呼び出すような事などなく淡々と浄化をしていた。私の邪魔をせず、顔を見ずとも、毎日毎日。この様に急な要求や命令することなど一度もなかった。


「……わかった。もう少ししたら行くと伝えろ」

「はい」


 扉の向こうの気配が遠のく。私は再度手に持つ道具を見た。

 変わらず反応はない。

 イライラが募る。竜魔道具を強く机に叩きつけながら、足を外へと向けた。

 つまらない用であれば、どうしてくれよう。

 アレナターシャにも高い金を使っている。だというのに、一人で出来ないというのは――。出会った日あの場で一番強いのは自分だと豪語していた癖に……。

 今さらもっと強い聖女を寄越せと言えば国が乗っ取られるであろう。

 この国の王妃候補はすでに決まっている。赤い目の聖女の血に国を取らせるつもりなどない。

 だがもうしばらく、あの場所はあの女一人でもたせておくしかない。


 エマ捜索の人数を増やすか。騎士団でルニアに好意を寄せていた者がいたな……。


 聖女の休憩用の部屋の前に立つ。エマの時にはこの部屋に立ち寄る事などなかった。イライラした顔で会えばナターシャは変に不安になるかもしれない。表情をリセットする。


「ナターシャ、どうしたんだい?」


 笑顔を見せればホッとした表情を見せるナターシャ。前聖女はそんな必要もなかったのに……。

 面倒だが、エマが帰ってくるまでの我慢がまんだ。

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